JR東海は、HC85系試験走行車を使用した次世代バイオディーゼル燃料の実用性検証試験を開始し、2月9日に名古屋車両区で報道公開を行った。JR東海のほか、次世代バイオディーゼル燃料の開発・販売を手がけるユーグレナ社もこの試験に参加している。

  • JR東海がHC85系試験走行車を用いた次世代バイオディーゼル燃料の実用性検証試験を報道公開

鉄道路線は一般に電化区間と非電化区間に大別でき、非電化区間ではおもにディーゼルエンジンを積んだ気動車が活躍する。他の乗り物と同様、気動車のディーゼルエンジンも化石燃料に由来する軽油を燃料としている。燃焼の際に二酸化炭素を排出するため、多少なりとも地球環境に悪影響を及ぼしてきたといえる。

■次世代バイオディーゼル燃料で二酸化炭素削減へ

JR東海の管内では、高山本線や紀勢本線など非電化区間が存在し、気動車による運行が行われている。同社の説明によれば、2020年度に自社で排出した二酸化炭素は122万トンに及び、約5%にあたる7万トンが気動車関連の燃料に由来するとのこと。次世代バイオディーゼル燃料を用いることにより、燃料由来の二酸化炭素を減らすねらいがある。

バイオ燃料も燃焼時に二酸化炭素を排出するが、植物などから生まれた生物資源をバイオマス原料として使用しており、バイオマス原料は成長過程において、光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収していく。つまり「吸収」と「排出」により、二酸化炭素を相殺するしくみとされている。

バイオ燃料自体は決して目新しいものではない。しかし、従来のバイオ燃料は軽油と比べて分子構造が異なり、軽油との混合比率が5%に規格化されていた。仮に5%を超えた場合、エンジン等にトラブルが生じる可能性があるという。

  • HC85系の1両に次世代バイオディーゼル燃料が給油される

今回の試験で用いた次世代バイオディーゼル燃料は、分子構造が軽油と同じであるため、技術的にはオールバイオディーゼル燃料でも利用可能。従来の「バイオディーゼル燃料5%枠」に縛られることなく使える点が注目に値する。

■試験結果は「良好」、一方で2つの課題も

JR東海では、次世代バイオディーゼル燃料の実用性検証試験を1月下旬から実施してきた。第1段階として、HC85系試験走行車のエンジンを車両から外し、エンジン単体の試験を1月24~27日に行っている。第2段階として、2月上旬に車両基地(名古屋車両区)構内での走行試験を行うとしており、2月7日に1回目の試験を実施。これに続く2回目の試験が2月9日に行われ、その模様が報道関係者らに公開された。

HC85系は4両編成。うち1両に、次世代バイオディーゼル燃料20%・軽油80%の割合で給油する。通常燃料との混合を避けるため、タンクローリーからの直接給油となった。今回使用する次世代バイオディーゼル燃料の原料は使用済み食用油とのこと。

  • 試験で使用された次世代バイオディーゼル燃料の原料は使用済み食用油

  • HC85系が仕業線から留置線へ

その後、HC85系は仕業線から留置線へ。一旦停止を挟みつつ、構内制限速度15km/hで走行した。違和感のない走りっぷりで、JR東海とユーグレナ社も試験結果を「良好」とみなした様子。2月中旬から紀勢本線で実施予定の本線走行試験に向けても弾みになったといえる。本線走行試験では、HC85系の高速走行時や勾配等におけるエンジン性能と車両の状態を確認する予定となっている。

いまのところ試験を順調にクリアしている次世代バイオディーゼル燃料だが、課題も残る。1点目はコスト。ユーグレナ社によれば、現在は試験用ということもあってコスト高だが、将来的に商業化することでコストを減らせるという。一方、JR東海は蓄電池をはじめとする新技術との比較検討という姿勢を示し、次世代バイオディーゼル燃料の本格導入の時期は明言しなかった。

  • JR東海 総合技術本部技術開発部チームマネージャーの石原光昭氏(写真右)、ユーグレナ執行役員エネルギーカンパニー長の尾立維博氏(同左)が取材に応じた

課題の2点目は安定的な供給量の確保。ユーグレナ社は2025年に年間25万キロリットルを生産し、社会実装するとの方針を示している。

■HC85系の「1車両1ディーゼルエンジン」も実感

今回の試験に使用されるHC85系も、二酸化炭素排出量の削減に貢献する車両となる。ハイブリット方式を採用した次期特急車両であり、従来のディーゼルエンジンに加え、蓄電池も使用している。蓄電池は回生ブレーキで生み出された電力によって充電され、加速時におけるディーゼルエンジンのアシストや空調・照明などに用いられる。主蓄電池の導入により、1車両につきディーゼルエンジン1機を削減し、駅停車時におけるアイドリングストップを実現するという。

筆者は今回の報道公開で初めてHC85系を見た。残念ながら停車時に静寂に包まれるアイドリングストップは体験できず、加速時の豪快なディーゼルエンジン音が印象に残ったが、HC85系が筆者の横を通り過ぎる際、畜電池を設置した箇所だけディーゼルエンジン音がしないことに気づいた。今後、実際に乗車することで、従来の気動車とのさらなる違いに気づくかもしれない。HC85系は2022年7月から運転開始し、2022~2023年度にかけて投入。特急「ひだ」「南紀」のキハ85系を置き換える予定となっている。

  • 「クモロ」という表記が従来の気動車と異なることを示している

  • 名古屋車両区では、HC85系試験走行車の他にキハ85系、キハ11形300番台も留置されていた

HC85系を投入し、次世代バイオディーゼル燃料の実用性検証試験を行うなど、二酸化炭素排出削減をめざして果敢にチャレンジするJR東海。今後、どのような技術が本格採用されるか、車両面以外にも注目したいと思う。