23日に放送された大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)第3回「挙兵は慎重に」(脚本:三谷幸喜 演出:末永創)で描かれたのは治承4年(1180年)。やがて成立する鎌倉幕府にとって重要な年である。伊豆に流刑されていた源頼朝(大泉洋)がいよいよサブタイトルにある「挙兵」を決意した。

  • 『鎌倉殿の13人』第3回の場面写真

挙兵というと一大決心で勇ましいイメージが浮かぶが、『鎌倉殿』では、なかなか腰をあげなかった頼朝がどうやって挙兵を決意したかというと、存外たわいないことが契機となった。「慌て者の早とちり」と「夢のお告げ」である。

さらにそこに「北条家の上に対する苛立ち」や、その年に起きた「飢饉」や「北条義時(小栗旬)の頭の良さ」が生かされることなど様々な要因が絡み合ってくる。頼朝を婿にして子供・大姫(難波ありさ)も成した「政子(小池栄子)の意気込み」も重要ポイントであろう。多くのピースをかき集め頼朝を挙兵させるお膳立てを作り上げるのだ。

おもしろおかしい人間描写のなかに、人間の営みに最も影響する自然現象と、都(みやこ)と伊豆の現在地としての格差、それがやがて瓦解して政権が一変していく兆しを潜ませる静かにして力強い脚本に見応えがあった。

これらの要素を順番に振り返ってみよう。

■慌て者の早とちり

平清盛(松平健)は後白河法皇(西田敏行)を幽閉し、自分の孫の安徳天皇(伊藤光之丞)を帝に即位させた。後白河の息子・以仁王(木村昴)が源頼政(品川徹)を伴い挙兵。頼朝も挙兵を考えるが、自分が源氏の棟梁になれないのでやめておく。その判断は正解で、以仁王はあっという間に平家に倒されてしまった。

朝廷の下級役人・三善康信(小林隆)は平家が頼政の残党を追討しようとしている情報を「早とちり」して、関わってない頼朝まで追討されると心配したことで、頼朝は立つしかなくなる。

「しかし慌てものの早とちりが歴史を動かすこともある」(ナレーション:長澤まさみ)

三善康信が粗忽者であることは彼が墨をこぼしてあたふたする仕草でわかる。また、挙兵しないで良かったと政子が言うと頼朝はとがめるが、お経を唱えているときにはやや顔が安堵している、その表情も注目ポイントだ。

■政子の意気込み

頼朝の妻になった政子はいつも彼の傍らにいて何かと口をはさむようになる。本心を他者に語らず、義時にだけそっと打ち明けている頼朝だったが、彼の様子を観察している政子は、次第にその心を言い当てられるようになっている。

自分が先頭に立って兵をあげたいと思っている頼朝の心を察して背中を押そうとする政子。余計なことをするなと制する頼朝にここぞとばかりに「戦いたくてうずうずしているのです。それでも立とうとしないのは意気地がないから」と発破をかけ、文覚(市川猿之助)が「今こそ平家打倒の好機なり」と持参した髑髏を活用し「平家と闘って死んでいった者たちの無念がこもっております」と言いくるめる。

政子がなぜそんなに張り切っているかと言えば、八重(新垣結衣)への対抗心であろう。「決して心のうちをお見せになりません」(第2回)と八重に言われているから、心のうちを見せられなくても気づこうと頑張っているのだと思う。八重が狩野川をはさんで北条家の向こう側の家に嫁がされていて、じとっとした目で北条家を見ているため、余計に対抗心が湧くのも無理はない。

■飢饉+北条義時の頭の良さ

挙兵の気運が高まってきてもなおもったいぶる頼朝に、義時は勝てる根拠を示す。この年、日照りが続き、来年は飢饉になって米が不足しそうと警戒していた義時は、民の数を把握する術を知っていた。それを利用して、挙兵した場合の敵兵の数と自分たちの兵の数を試算して、勝てる根拠を導き出すことができたのだ。戦に興味がない義時だが戦術に長けているようだ。

■北条家の上に対する苛立ち

もともと、義時は頼朝から挙兵したい本心を告げられているので、政子と力を合わせて頼朝を決意させようとする。これは推測でしかないが、戦をしたくない義時が戦に加担した理由は、姉の頼みもあるだろうし、度重なる上の仕打ちではないだろうか。第2回で堤信遠 (吉見一豊)に酷い仕打ちをされた義時。第3回では父・時政(坂東彌十郎)が新しく着任した目代・山木兼隆(木原勝利)に挨拶に野菜を持っていくと、堤信遠がその野菜を雑に扱う。忠臣蔵の松の廊下的な虐めにあう父を見て目をうるうるさせる義時。当の時政は「厄介な婿殿、もらっちまったなあ」とわりとけろっとしているようだが、義時は悔しい気持ちでいっぱいだったのではないだろうか。

■夢のお告げ

いろいろな条件が重なりながらも大義名分がなければと挙兵を渋る頼朝は、後白河は夢枕に立ったことを思い出す。「揺らさないで~」とうなされるおもしろシーンかと思ったら重要ポイントだった。

「人々は夢のお告げを信じている。平安末期はそういう時代である」(ナレーション)

「法皇様の密旨でもあればな」と頼朝がつぶやくと安達盛長(野添義弘)がそれを差し出す。

事前に三浦義澄(佐藤B作)が法皇様から頼朝への密旨を預かったと時政に託した。「たぶん偽物です」と言いながらも時政が盛長に一応渡しておいたことが「夢のお告げ」に強度をもたらすことになる。

余談になるが、ここで面白いのは、「におい」。法皇の密旨に「いいにおい」がすると義澄が言う。高貴なお方はいいにおい(たぶんお香の)がするのだろう。一方、時政はこの回の冒頭、妻・りく(宮沢りえ)ににおいをいやがられ「風下」に行くよう言われて凹んでいる。においでいやがられた時政がやがて成り上がっていくかと思うと面白い。えらくなったら時政もいいにおいになるのだろうか。

「どこの誰かは存ぜぬがこの生命、お主にかけよう」

頼朝が得体の知れない髑髏にささやくとそこに日が当たって輝く。嘘か本当かわからない要素の数々をすべて引っくるめて利用して生き抜いていく一世一代というか一族あげての大芝居がはじまった。

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