フルセットの激闘を制す

2021年のタイトル戦名勝負総決算、本日は第6期叡王戦五番勝負。豊島将之叡王に藤井聡太二冠(段位・肩書はいずれも当時)が挑戦したシリーズです。王位戦に続く豊島―藤井戦で、さらにこの後に両者の間で行われる竜王戦七番勝負も合わせて、19番勝負とも言われました。

第1局は藤井の先手番で角換わりに進みます。中盤で▲3九角と自陣に打った角が注目を集めた一手でした。角打ちの是非についてはプロ間でも意見が割れそうですが、視聴者を驚かせる一手という意味では、藤井らしい着手かもしれません。中盤から徐々にリードを保ち、拡大していった藤井が勝ち切って開幕戦を飾りました。

■五番勝負は最終局に

第2局は先後を入れ替えて、再度の角換わりに。今度は序盤の△4五歩という着手が斬新な一手でした。タダで取れる歩ですが、▲同銀と応じるとどうにも先手の具合がよろしくなさそうです。▲3七銀と引いたのはさすがと、将棋世界で石井健太郎六段が語っています。本局は後手が次第に優位を拡大していくのですが、最終盤に波乱があって豊島の逆転勝ち。そして第3局は3度目の角換わりとなりました。終盤の入り口で、一目は藤井玉が危ないとされていましたが、藤井だけは自玉の安全度をきっちりと見切っており、勝利します。第4局は豊島の先手で相掛かりに。こちらは珍しく序盤で藤井が形勢を損ねて、豊島の圧勝となりました。

かくして五番勝負は最終決戦に持ち越されます。ここまで全て先手番の棋士が勝っているので、最終局の振り駒が注目されました。「フルセットになった時の振り駒は事前にやって欲しい。そのほうが作戦を入念に練ることが出来て、良い将棋をお見せできる」と主張する棋士もいます。一考の余地があると思います。

第5局は振り駒の結果、藤井の先手に。局面は相掛かりに進みます。本局の豊島は二枚の銀を駆使して先手陣を攻めようとしますが、藤井が巧妙に受けてリードしました。そうして迎えた最終盤でドラマがありました。

■最終盤に揺れた評価値

形勢は先手大優勢ですが、藤井が指した▲9七桂という手で、動画中継で示されている将棋ソフトの評価値が急落します。実戦は以下△3六歩▲8五桂△3七歩成に▲6二金から藤井が寄せ切って勝利しましたが、▲9七桂に対して△5六歩ならばどうなっていたか。玉頭を攻められているので▲同銀と取るのが第一感ですが、そこで△8七歩成▲同銀△7六銀▲同銀△7八飛と進めば逆転します。以下▲4七玉には△8八飛成が詰めろですし、6八へ合い駒を打つのは後手玉に対する攻めが細くなります。よって▲9七桂では▲5五角として、△6四歩(角筋を止めつつ飛車筋を通して、金取りになっている手)に▲5四金と打つのが明快だったと。これは藤井も後日に認めています。

しかし▲9七桂△5六歩には、▲4六歩ならば先手よしというのが最終的な結論で、将棋ソフトも入念に読ませると大体この順を示します。▲4六歩には△同角と取るくらいですが、そこで▲5六銀としておけばいいのです。今度△8七歩成▲同銀△7六銀▲同銀△7八飛の順は、▲4七玉で大丈夫。角を呼んだ効果で、次の△8八飛成が詰めろになりません。

藤井が叡王を奪取し三冠に。19歳での三冠は羽生九段の22歳を更新する年少記録となりました。そして第7期の叡王戦は本戦進出のメンバーが決まっている最中です。中でもベテランの中田功八段が予選決勝で広瀬章人八段を破ったのは注目されました。若手からベテランまで、多士済々のトーナメントが組まれそうです。藤井叡王に挑戦するのは誰か、目が離せません。

相崎修司(将棋情報局)

フルセットの末、叡王を獲得した藤井(提供:日本将棋連盟)
フルセットの末、叡王を獲得した藤井(提供:日本将棋連盟)