フォルクスワーゲン(VW)「ゴルフ」の本命は、やっぱりコレだった? 日本でもついに、新型ゴルフのスポーツモデル「GTI」が発売となる。「デジタル化」を旗印とする最新のゴルフに、ホットバージョンである「GTI」の味が加わるとどうなるのか。早速試乗してきた。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」

    フォルクスワーゲンの新型「ゴルフ GTI」が日本上陸!(本稿の写真は撮影:原アキラ)

「GTI」は初代「ゴルフ」(FF2BOX)のスポーツバージョンとして1975年に誕生。最高速度182km/hという優れた動力性能を持ち、アウトバーン(ドイツの高速道路。速度無制限区間あり)ではメルセデス・ベンツやBMWなどの上級モデルと一緒に追い越し車線を走る姿も見られた。見た目とは裏腹の走りを見せる初代「ゴルフ GTI」が、「ホットハッチ」や「羊の皮を被った狼」などの異名で呼ばれたのはご存知の通りだ。

ジウジアーロ(高名なカーデザイナー)による四角いボディにブラックのオーバフェンダー、バッジの入った赤い縁取りのラジエーターグリル、タータンチェック柄のスポーツシート、ゴルフボール型のシフトレバーなど、GTI専用の装備がとってもおしゃれだった初代GTI。当時の若者でもなんとか手に入れることができる1万3,850ドイツマルクという価格もあいまって瞬く間に人気モデルとなり、計46万1,690台を生産した。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」

    大ヒットとなった初代「ゴルフ GTI」(この写真のみフォルクスワーゲン提供)

ちなみに「GTI」は「Grand Touring(TourerとかTurismoともいわれる) Injection」の略。以降、ゴルフ各世代のGTIは初代のDNA、つまりは「俊敏なFFモデル」で「硬めのサスペンション」を持ち、「使いやすいパッケージング」で「記憶に残るデザイン」のクルマという特徴をしっかりと受け継いできた。歴代GTIの累計販売台数は230万台を超えているそうだ(2019年末までの数字)。

「デジタル化」を標榜する新型「ゴルフ」(8世代目なのでゴルフエイトとも呼ばれる)のGTIバージョンは、本国では2020年5月に発売済み。日本仕様は2022年1月7日に発売となる。価格は466万円だ。GTIの走りは最新型でも健在なのか、箱根でじっくり試乗してきた。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」

    「デジタル化」しても走りは健在? 新型「ゴルフ GTI」に試乗!

GTIのアイデンティティは感じられるか

試乗した新型GTIのボディはまばゆいピュアホワイト。ラジエーターグリルに伝統の赤いストリップとバッジを装着したフロントマスクは、ひと目でGTIだと識別できる意匠だ。フロントパネル下側に大きな開口部を持つエアインテークは専用のハニカムデザインに。その左右には5つのLEDフォグランプが「X」字型に埋め込まれている。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • 「X」字型のフォグランプは新採用の意匠だ

サイドはゴルフの特徴でもある太いCピラーにオプションの19インチホイール、レッドのブレーキキャリパーが目を引く。リアの見どころは、上部がボディ同色で下部が光沢ブラックのルーフスポイラー、下端のディフューザー、左右2本出しの丸型テールパイプなど。いずれも高性能モデルらしいオーラを控えめながらも醸し出していて、いかにもGTIらしい。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • 高性能モデルであることを控えめに主張する新型「ゴルフ GTI」。派手過ぎないのがGITのいいところでもある

ヘッドレスト一体型スポーツシートは、「スケールペーパー」(グレーとブラックのタータン柄に赤いステッチが入る)と呼ばれる伝統のタータンチェック柄ファブリックを使用。十分にスペースが確保されたリアシートも同じ柄だ。3本スポークのマルチファンクション・スポーツステアリングホイールには赤いアクセントとGTIエンブレムを装着する。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • 左スポークには通常モデル同様、「トラベルアシスト」の起動ボタンが。押せば車線中央をしっかりキープしつつ追従運転を行ってくれる

ドアを開けると、エンジンを始動するまで赤く輝くエンジンスタート/ストップボタンがかわいい。小さなシフトレバーや質素なコンソール周りのデザインには特別感がなく、標準モデルと変わらない。視線を向けずに操作するのは少し難しいデジタルコックピットの使い勝手も同じである。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • コンソール周りはかなりシンプル

GTIらしさは譲れない? 走りの楽しさは健在か

8代目ゴルフ GTIが搭載するのは、排気量1,984ccの直列4気筒直噴ガソリンターボエンジン「EA888 evo4」。動力性能は最高出力245PS(180kW)/5,000~6,000rpm、最大トルク370Nm/1,600~4,300rpmで、先代ゴルフの高性能モデル「GTIパフォーマンス」と同じ出力レベルをキープした。標準モデルのような48Vマイルドハイブリッドは不採用。純粋なエンジンモデルだ。トランスミッションはデュアルクラッチの7速DSGで、フロント2輪を駆動する。

ランニングギア開発責任者であるカルステン・シェブスダート氏によると、「第8世代GTIはドライビングプレジャーをさらに強化しました。そのために、新しいビークルダイナミクス・マネージャーにより、すべてのエレクトロニカル・ランニングギア機能を一元的に管理しています」とのこと。早速、箱根の峠道で試してみた。

箱根のワインディングに多い中速コーナーでは、GTIが標準で装備している電子制御油圧式フロントディファレンシャルロック機能と電子制御式ディファレンシャルロック「XDS」が上手に駆動力を調整してくれて、よく曲がる。XDSが左右のブレーキの効きを制御する疑似的LSD(リミテッドスリップデフ)であるとしたら、前者はデフ自体を機械的にコントロールするので、旋回力と駆動力がきちんと両立できているのだ。

コーナーにオーバースピードで入ったときなどに前輪が外側に膨らむFF特有の「アンダーステア」が出ないので、上りでも下りでも曲がるのが楽しい。筆者が昔、ゴルフの第3世代や第4世代に乗っていたときは、エイペックスの手前でアクセルをゆるめたりブレーキをちょっと踏んだりしてフロント荷重を作り出し、前輪のグリップ力を高めてから曲がるというような操作をしていたものだが、最新世代のGTIでは、そんな作法を踏襲する必要がない。ただし、タイヤのグリップ力には限界があるので、過信は禁物なのだけれど。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • 先代に比べスプリングレートがフロントで5%、リアで15%高まったスポーツサスペンション(全高も標準より10mm低い)もいい仕事をしているらしい

アダプティブシャシーコントロール「DCC」は、4輪それぞれのショックアブソーバーを毎秒200回調整することで、車体の姿勢を制御するシステム。車両設定画面でモードを「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「カスタム」から選択できる。カスタムではデジタルスライダーを使って好みのセッティングを細かく調整できるし、調整の幅が広いので、さまざまなセッティングを試せるのも面白いところだ。GTIでやる人は少ないと思うけれど、コンフォートモードで各種セッティングを快適性重視に振ってみると、路面から切り離されたように快適な状態にまで持っていけるという。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」

    「カスタム」の調整幅は広い

標準装備のプログレッシブ(ギア比可変)ステアリングもなかなかいい。ステアリング中央付近ではレシオが低いので、ロングドライブなど直進状態が長いときには、疲れが少なくて落ち着いた運転ができる。一方、舵角が大きくなるにつれてギア比が高くなるので、今回のワインディングのようなシチュエーションではキレのいい回頭性が得られるのだ。ちなみに、ロックtoロックはわずか2.1回転という。

サウンドアクチュエーターによる4気筒エンジンの“快音”を聴きながらの走りは、まさにファントゥドライブ。EVではなかなか感じることができない伝統的な味が、新型GTIにはあるのだ。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」
  • フォルクスワーゲン「ゴルフ GTI」