声優の寺島惇太が3枚目となるミニアルバム『Soul to』を12月1日にリリース。声優・アーティストとして活動してきた縁によって完成したという本ミニアルバムは、自身の考え方や人間性が詰まったものに仕上がっているという。今回は、ミニアルバムの聞きどころはと合わせて、アーティストデビューしてから変化した音楽への向き合い方などのインタビューが到着した。

  • 寺島惇太

●キーの高い曲をあまり聞かなくなった理由

──念願だったアーティストデビューを果たしてから、これまで2枚のミニアルバムをリリースされました。活動を経て、音楽への向き合い方に変化はありましたか?

音楽の聞き方が変わりました。以前はキーが高い曲や歌うのが難しい男性ボーカルの曲も聞いていましたが、最近は無理せず歌えるキーの曲を自然と聞くようになった気がします。また、曲を聞くときに、自分だったらどう歌うのかを考えるようにもなりましたね。

──以前はとにかく好きな音楽を聞いていたけれど、最近は歌うことを意識するようにもなっている。

そうですね。以前は綺麗な声が出なくても、とにかく歌いたい曲を好きなように歌っていました。今はそれで喉を壊すわけにはいかないですし、歌えないことに悔しさを覚えてしまうので。それに、キーが高ければ高いほどいい歌になるという訳じゃないと思うんです。低いキーでも素敵なアーティストの方はたくさんいらっしゃいますし、魅力的な楽曲も数多くあります。アーティスト・寺島惇太として歌う時のキーは、無理しない範囲で歌っていきたいですね。

──寺島さんと同じように声優とアーティスト活動どちらもされている方がいらっしゃいます。そういう方々から刺激を受けることはありますか?

本当にみんな歌が上手ですし、パフォーマンスもどんどんパワーアップしていて刺激を受けます。仲村宗悟くんはギターが弾けて、いくつも自分で楽曲を作っているので尊敬しますね。アニメタイアップ曲の場合も、資料をもらってその作品の世界観をしっかりと反映した曲に仕上げている。作詞家としても一流の仕事をしているから、本当にすごいですよね。

──寺島さんは、デビュー前からキャラクターとして歌う機会もたくさんありました。

そのおかげで、人前で歌うことに早く慣れることができた気がします。以前はイヤモニを付けているとき、自分の声がどのくらいの大きさで鳴っているのか、全然分かっていませんでした。だから、基本的に大きな声を出して歌っていたんですよ。それが経験を積むことで、どれくらいマイクに自分の声が乗るのかが少しずつ感覚で分かるようになってきて。経験を積むことで、以前よりも焦ったり緊張したりせず、歌に集中できるようになった気がします。

──なるほど。

あとは、ようやく自分の歌い方が分かってきたと感じています。アーティストデビューしたばかりの頃はキャラクターソングとどう変化を付ければいいのか、どの声を使ったら寺島惇太の曲に聞こえるのかが見えていませんでした。

──見えてきた答えは。

キャラクターソングは演じるキャラクターが歌っているので、なるべく綺麗に聞こえた方がいいと思うんです。一方、自分で歌うときは必ずしもぜんぶが綺麗に聞こえなくてもいい。むしろ、綺麗より気持ちをぶつけることが正解のときもあるんじゃないかな。なので、自分で歌うときは綺麗さをそれほど意識していません。イメージ的には……キャラクターソングは、ピアノやヴァイオリンの発表会。ステージ上の人も聞いている方々も正装をして審査員の方にも聞いてもらうような感じ。自分で歌うときはストリート。駅前などで道行く人たちに向かって歌っている感じですね。

●理解できないからといって否定するのはよくない

──音楽の聞き方に変化があったということですが、最近よく聞いている曲はありますか?

中高生の頃から聞いているBUMP OF CHICKENさんやMr.childrenさん、あとは今回のミニアルバムで楽曲を提供してくださったドラマストアさんの曲をよく聞いています。サブスクのおかげで新旧問わずに色々な曲が聞けるようになったので、中島みゆきさんなど、80年、90年代に流行した曲を聞く機会も増えました。女性やボカロの曲は、自分が歌う想定ではないので、難しいものもいっぱい聞きます。

──世間的に流行っているような曲はあまり聞かない?

もちろん聞きますが、カラオケで歌えない難しいものが多くって。最近は、短くて分かりやすくてキャッチーだけど、歌うのは難しいという曲が流行っていますよね。あとはTikTokから火が付く曲も多い気がします。僕はTikTokをあまりやらないので、そちらの流行りには特に疎くって。この前、サブスクランキングの上位にあるけど知らない曲があったので後輩に聞いてみたら、「それ、1年くらい前からTikTokで流行ってますよ!」と言われました(笑)。

──なんと!

もちろん、新しい音楽も聴いて取り入れなければならないとは思いますが、でもいきなりそこを狙うのは、ちょっと違う気がするんですよね。例えば歌詞なんかも、TikTokで口を合わせやすいものや、分かりやすい歌詞がたぶん流行りだと思うんです。ただ、僕が乙女の気持ちや男子高校生のピュアな想いを急に歌い始めたら、ただただ若い人へのウケ狙いでやったことを見透かされると思うんです。若い方々の文化におじさんが無理やりハマろうとするのはちょっと寒いといいますか(笑)。だから、ちゃんと理解するまで、僕はその文化を見守ろうと思います。

──決して、否定はしない。

そうです、そうです。僕は小さい頃に自分が聞いていた音楽を「こんな曲の何がいいんだよ」と父親から言われたことがありました。そのとき「知らないのに口を出すなよ」って思ったんですよね。僕はそんなおじさんにはならないように、口を出さないようにします。だって、自分たちが対象ではないだけで、良いものだから流行っているはずじゃないですか。自分が理解できないからといって、否定するのはよくないと思います。

──音楽だけではなくて、アニメやドラマもそうですよね。自分が見ていた頃とは違うジャンルが流行することだってある。

そうなんですよね。一方で、いつまでも愛され続ける作品もある。

──映像面でも本当にこの時代に作ったのかという作品がありますよね。『AKIRA』とか。

信じられないですよね! オーパーツですよ、あの作品は。

──むしろ、今だと生むことができないかも。

ですよね。セル画メインで、ちょっとデジタルを取り入れていたぐらいのカオスからしか生まれなかった名作はいっぱいある気がします。一方で、新しい映像技術でしか生まれない作品もある。時代の変化って面白いですよね。