YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】。
第5弾は、テレビ朝日『ミュージックステーション』プロデューサーの利根川広毅氏、フジテレビ『FNS歌謡祭』『MUSIC FAIR』演出・プロデューサーの浜崎綾氏が登場。『新しいカギ』などを手がける木月洋介氏(フジテレビ)をモデレーターに、「音楽番組」のテレビ談義を、全4回シリーズでお届けする。
第2回のテーマは、歌唱映像の「カット割り」。各局に受け継がれるイズム、利根川氏が生放送で「際際のところ」に挑んだ画作りとは。さらに、自身が手がけた中で特に印象に残る“会心の歌唱映像”も聞いてみた――。
■際際のところを生放送で「めっちゃ仕込む」
浜崎:カット割りについて私がすごく言われてきたのは、カットを割るというのは、要はそのカットが持たなくなるからやることなんだと。「1秒で切られるカットは1秒しか見てられないカットなんだから、30秒ワンカットで押せる画を作れ」って言われて育ってきたんです。どんどんカットを割らないと見られないようなカットは、いくら積み重ねてもそれは低質なものをたくさん量産してるだけであって、見られるカットは1分ワンカットだって見られるんだよという考えが、CX(=フジテレビ)に脈々と受け継がれているイズムみたいなものとしてあるんですよね。そのために、セットやLEDのビジョンやCGを作って背景を考えているというのがあるかもしれないです。
利根川:それは1つの考え方としてすごく正しいと思います。一方で自分がこだわってきたのは、どんなにカットを割って、普通は入れないようなところにカット線を引いても成立する撮り方、その逆で普通はカットを割りたくなるところをあえて割らずに成立する撮り方、というのがあるんじゃないかということなんです。極論、美術と照明とアーティストさんがめちゃくちゃカッコ良かったら、どう撮っても映像としてカッコ良くなるんですよ。僕の考えたカメラワークどうこうを超えてくるので、もう誰が撮っても名歌唱になる。だったらこっちとしては、限界に挑戦してやろうじゃないですけど、めちゃくちゃやってるようで視聴者が気づかないくらい自然に見られるとか、「このカメラ台数でどうやってあの画を撮ったの?」って業界の人がうなるみたいなカット割りに挑戦したんです。カメラマンって百戦錬磨で死ぬほど撮り慣れてるんで、「はい、このパターンでこういう画ね」ってなりがちなんですけど、そんなベテランたちが全員ひっくり返るようなことをやりたい、つまり「この撮り方気持ち悪いんだけど」って言われたくてしょうがないんです(笑)。でも実際にやってみて「面白かったね」「成立したね」ってなると、お互いに引き出しも増えるじゃないですか。幸運にも今までご一緒したチームは皆さん腕もマインドも素晴らしい方ばかりで、すごく分かり合えました。そうやって、「この人、何年経っても無難なこと全然やらないな」と思われながらやっていくことで、どんどん筋肉質なチームにしたいというところにこだわってるんです。だから、『FNS』さんがすごく落ち着いた画撮りをされている一方で、僕が撮ってた日テレの特番の画ってめちゃくちゃ忙しないんですよ(笑)
木月:具体的にどういう撮り方をしたんですか?
利根川:まずカット数がめちゃくちゃ多いんです。日テレ時代にやってた『ベストアーティスト』『THE MUSIC DAY』の会場は、『Mステスーパーライブ』もやる幕張メッセなんですけど、カット数は2倍か3倍くらいで撮ったと思います。それでいて、カメラ台数は日テレのほうが少ないんです。だからカメラマンがめちゃくちゃ大変で、最初はすごい怒られましたけど、最終的には「こいつまたとんでもないこと言ってきたな、よしやってみよう」みたいな感じで楽しみになってくれていたはず、です(笑)。それと生放送というところも大事で、収録だったら追い込んだことをやっても撮り直せるけど、生でやるリスクってやっぱりあるじゃないですか。カメラがギリギリ間に合うか間に合わないかとか、すごく短くて難しいところにカット線を引いて、スイッチャーさんが振り付けの一拍だけ横からつかまえてすぐ正面に戻すとか、外すと超カッコ悪いけどハマると超カッコいいみたいな、際際のところを生放送でめっちゃ仕込むんですよ(笑)
木月:スイッチャーさん、めちゃくちゃ負担かかりますね(笑)
利根川:はい(笑)。でも、そういうことを生でやることで、みんなめちゃくちゃ集中するじゃないですか。それが成功して曲が終わってCM入った瞬間にみんな達成感で大拍手するとか、そういうことを年末とか夏にやってました。他局の人から見たら「落ち着かないな、この画は」と思われてたかもしれないんですけど、この現場のドキドキが画面を通して音楽のライブ感として伝わったらいいんじゃないかというのを、偉そうに大義名分としてやってました。
■ズームを多用する『Mステ』で挑んだこと
木月:生放送の緊張感というのはありますよね。僕は『笑っていいとも!』をやってたんですけど、「今日は大丈夫だな」っていう日よりも、リハがうまく行かなくて本番どうなるの?っていう日のほうが、みんな緊張感持って集中してやるから、出来が良かったりもしましたから。浜崎は日テレさんの特番はそういうふうに見てたの?
浜崎:やっぱりカット線はすごく多いなって感じました。私、『Mステスーパーライブ』を何回か見に行かせていただいたことがあるんですけど、カメラの台数がめちゃくちゃ多いんですよね。だから、日テレ時代に利根川さんが挑戦していた、少ないカメラ台数でもカット線を多く作ってギリギリのラインを攻めるっていう緊張感とはまた違う風習や文化が『Mステ』にはあるのかなと感じました。
利根川:もちろん風習や文化は全然違いますね。
木月:日テレからテレ朝に移られて、そういう攻めのカット割りをやったんですか?
利根川:やりましたね。『Mステ』の放送が毎週ある中で、僕が入ったときは藤沢(浩一)と僕で1週ずつ交代して演出を担当してたんですよ。藤沢も素晴らしいディレクターで尊敬しているんですが、2人同じことをやってもつまらないから、僕の芸風を分かってもらおうと思って、最初からガチガチに自分の流儀でやりました。でも、カメラマンも照明さんも技術さんも美術さんもみんないい方たちで、全然抵抗なく、むしろ面白がってくれました。『Mステ』って歴史がある番組だからか、カット割り台本の情報がめちゃくちゃ少ないんですよ。「1カメでFF(フルフィギュア=全身)からアップ→3カメでFFからアップ」って書いてあって、その次の4カメはアーティストの名前だけしか書いてないとか。それで結構長い尺をカメラマンに渡すんです。だから、「FFからアップ」って書いてあると、FFから1回ウエストに寄って、もう1回FFに引いて最後アップで終わるみたいな感じで、カメラマンがアレンジして尺を持たせたりするんです。それによって『Mステ』の画撮りって、全体的にカメラが動いてる印象になるんです。
浜崎:とにかくズームが多い印象があります。
利根川:そうですね。でも僕はFIX(=固定)も大事にしたい派なんです。FIXがあるからこそ動く画が有効なわけで、そこのバランスが大事だと思うんです。常に画が動いている、というのもひとつの『Mステ』の文化ですが、僕がやる以上、新たな提案をしたいと思ったので、カット割りに「FIX」って書いたり、ここはズームなのかドリー(=移動)なのか、撮るポジションも上手(=画面右側)から撮るのか、もっと深い上手のアングルから撮るのかといったところを全部指定させてもらいました。そこまで下書きするのが監督の役目で、あとはリハーサルしながらチームの皆さんと一緒に清書していく感覚です。
浜崎:そうですよね。そこは細かく指定しないと楽しようとしちゃうカメラマンさんもいるし、逆にハリキリ過ぎて画がバラバラになっちゃったりもするので。
木月:そういうことが起きるんだ(笑)
浜崎:起きます起きます(笑)
利根川:僕は僕なりの完成形が見えてますから、細かいところを指定するんですけど、カメラマンによっては慣れてないからびっくりすることもあったと思います。スピードの可変とかそういったニュアンスも指示していくことで、だんだん僕の芸風を分かってもらいました。あと、1回の放送の中で7曲とかあると、この曲はすごく動きを抑えて撮るけど、その次に来るTHE YELLOW MONKEYのロックは思いっきりやるぞみたいな、そういう意思表示も大事ですよね。
浜崎:1回のOAの中のメリハリを指示するのも監督の仕事ですからね。たぶん、利根川さんも私も、カット割りは細かく指定したいタイプだと思いますが、わりとCXはそういう傾向がありますね。