■たくさん絶望してきた18年

ブレイクまでに18年もの年月を要した苦労人である松本も、ドラマのメッセージには強く共感し、「つらい悲劇のヒロインになると楽かもしれない。だけど、そんなことをしても意味がない。どれだけ絶望的な状況でも、自分の手で未来を切り開いていくことが大事。ピンチは大チャンスです。私もたくさん絶望してきましたが、『これを乗り越えたらすごい成長ができる』と思えば怖いものがなくなります」と自身の過去を振り返る。

純の姿からも分かるように、今作は“圧倒的なリアリティ”を大事にしている。「ドラマ的なセリフがなくて、すごくリアル。台本が短くて、無言の時間も長くて、『余白は芝居で埋めてください』という作品。役者にとっては恐ろしくもあり、最高に楽しい台本でもある」。高いハードルではあるが、「常に新鮮に、その場で感じ、素直に表現することを大事にしたい」という松本の演技スタイルにマッチした。

■時代に逆行した新鮮な作品を

素直に演じることを大切にしているがゆえに「今ここでこんなことを言わないんじゃないか」「ここで笑うのはおかしいんじゃないか」と、台本に“違和感”を覚えることもあるという。「いつもは自分の中だけで解消するか、解消できなくても台本通りに演じられるように気持ちを作ってきた」という違和感だが、今作ではしっかりと時間をかけて向き合うことができたと話す。「違和感を覚えた時点で、『本当は、今こんな感情が生まれたんだと思うんです』『だからこのセリフはどうだろう』と伝えて、相手役や監督と一緒に確かめ合って『確かにそうだね』と皆の同意を得られた時点で進めていく。物語にあわせて無理に気持ちを作るのではなく、1つひとつの感情に丁寧に向き合って演じられた、とても贅沢な現場でした」。

演じた“役”も、演じている“役者”にも、嘘がない作品『それでも愛を誓いますか?』。最後に、改めて見どころを聞いた。「台詞のないシーンでも、それぞれがどんな表情をしているかをじっと見てもらいたいドラマです。丁寧に作られている分、丁寧に見ることで登場人物たちの心のやり取りが見えてくる」。話題性重視の作品がもてはやされるいまの時代には「逆行しているかもしれないですね。流行りには乗っていないかもしれない」とはっきり告げる微笑みはどこか挑戦的。贅沢に作り上げた繊細な辛口ドラマに「あまり体験したことのない新鮮なドラマをお届けできるのではないか」と自信を覗かせた。

■松本まりか
1984年9月12日生まれ、東京都出身。00年に『六番目の小夜子』(NHK)で連続ドラマデビューし、18年『ホリデイラブ』(テレ朝)の井筒里奈役で注目を集める。20年は『パレートの誤算~ケースワーカー殺人事件』(WOWOW)、『竜の道 二つの顔の復讐者』(カンテレ)、『妖怪シェアハウス』(テレ朝)、『先生を消す方程式。』(同)と4本の連ドラにレギュラー出演。21年もドラマ『教場II』(フジ)、『最高のオバハン 中島ハルコ』(東海テレビ)に出演し、『向こうの果て』(WOWOW)、『東京、愛だの、恋だの』(Paravi)、『それでも愛を誓いますか?』(ABCテレビ)と3本の連続ドラマで主演を務める。
■ABC制作ドラマ『それでも愛を誓いますか?』
(ABCテレビ毎週日曜23:25~、テレビ朝日毎週土曜26:30~※TELASAで全話配信)
原作は、電子コミックサイト「めちゃコミック」で1,500万ダウンロードを突破し、2020年上半期総合1位&年間総合2位を獲得した同名漫画(萩原ケイク氏)。結婚8年目、セックスレス5年目、子どもなし――“愛する夫から女として求められない妻”35歳の純須純(松本)は、結婚を機に仕事を辞め専業主婦として生活中。夫・武頼(池内博之)は真面目で仕事熱心だが、「子どもが欲しい」と伝えても交わされてばかり。鬱々とした生活を変えるため、純は契約社員として働き始めることを決意。約8年ぶりの会社生活に戸惑いつつも、10歳年下の若手社員・真山(藤原季節)の素直さに癒されながら、仕事にも慣れていく。一方武頼は、高校時代の元カノ・沙織(酒井若菜)と再会。思い合っているのに、セックスだけがない夫婦――そんな2人に、少しずつ変化が訪れる。

ヘアメイク/板垣美和 スタイリスト/柾木愛乃
衣装協力=SHIROMA、ドーラ/ロードス、ダイアナ/ダイアナ 銀座本店
【協力店】SHIROMA/ダイアナ銀座本店/ロードス