若手のビジネスパーソンなら若いうちに必死になって働くような時期も必要でしょう。しかし、忙しさのあまり疲れ切ってしまうことは問題ですし、とくにコロナ禍以降は「テレワーク疲れ」「リモート疲れ」という問題も指摘されています。

著書『何もしない習慣』(KADOKAWA)を上梓した栄養士・健康管理アドバイザーの笠井奈津子さんが、「能動的に休む」ことがもたらしてくれる、「10のメリット」を教えてくれました。

■「テレワーク疲れ」の人が増加している理由

——テレワークによって通勤や対面での打ち合わせなどが減り楽になったといわれる一方、疲れやすくなった人も増えているという話も見聞きします。
笠井 テレワークが疲労につながっているのは、無理をしてしまうことにあると見ています。いまは、上司との面談も1対1のオンラインで行うケースが増えています。オフィスに出社していたときなら、まわりの同僚の様子を知ることができます。

そのとき、なんらかの問題によって社員が疲労していると感じたのなら、その問題の改善を提案することもできるでしょう。でも、テレワークだと同僚の様子はほとんどわかりません。

——確かに周囲の様子は見えません。
笠井 「最近、疲れやすいな」とか「その要因はこういうことじゃないのか」といったことを思ったとしても、「そう感じているのは自分だけかもしれない…」という思いがハードルとなって、問題の改善を提案しづらいのです。結果的に、無理を続けて疲れてしまうということが起こりがちです。

——なるほど。そうなると、同僚とのコミュニケーションが重要になりますね。
笠井 そのとおりだと思います。いまわたしは、「オンラインハラスメント」ともいうべき問題が起きているように感じています。

——オンラインハラスメントですか。どういうものですか?
笠井 テレワークだからと、「いつでもどこでもできるだろう」という認識をしてしまっているマネージャー層が増えているのではないでしょうか。たとえば、わたしの知り合いの女性の話では、勤務先が週に2回、18時から20時でオンラインの部内ミーティングを行うそうです。

彼女には夫とまだ小さい子どもがいるため、その日はいつもかなり早起きして夕食を朝のうちにつくっておくのだそう。もちろん、そうした事情を上司にはいえません。上司も部下の生活を知らないので、それが負担になっているとは考えないのです。

状況が見えないことによって起きるオンラインハラスメント—こんなことは、テレワークになる以前には考えられなかったことではありませんか?

テレワークによってなんらかの問題を感じているのなら、マネージャー層の方針を鵜呑みにするのではなく、代替案を考えて提案するためにも同僚としっかり話し合ってみることが大切なはずです。加えて、わたしからは自分の健康にとって欠かせない「能動的に休む」習慣をつくることをおすすめします。

■「能動的に休む」とは「自分と向き合う」こと

——ただ、個人差はありつつも、ほとんどすべての人が休みを取っていますよね?
笠井 確かにそうなのですが、わたしからすると多くの人が「能動的に」休んでいるようには見えません。とくにテレワークの人の場合、オンとオフの境界があいまいになり、ずっと仕事を続けているような人もいます。

疲れ切ったところでようやく休む。それは、「能動的に休む」こととはまったく異なります。

わたしがいう「能動的に休む」とは、毎日の生活のなかに意識的につくり出す休む時間であり、「自分と向き合う」時間を意味します。自分と向き合って疲労の要因やその解消法を探るのです。そうして自分にぴったり合った疲労回復法を見つけることができれば、過剰な疲労を感じることなく毎日を元気に過ごすことができ、人生をよりよいものにしていくことができると考えているのです。

——忙しい盛りの社会人にとっては、休むことに抵抗感を覚える人もいるかもしれません。 笠井 では、そうした強迫観念に縛られている人たちに向けて、わたしが考える能動的に休むことで得られるメリットをお伝えします。もちろんこれらのメリットを得られるのは、テレワークの人に限ったことではありません。

【能動的に休むことで得られる10のメリット】

1.回復する
2.ミスが減る
3.リフレッシュできる
4.長期的視点で戦略を立てられる
5.自分の変化に敏感になる
6.頭がスッキリする
7.人に優しくなれる
8.自分を最大限に活かせる
9.安心感を得られる
10.太りにくくなる

——たくさんありますね。とくに大きなメリットはどれだと考えていますか?
笠井 「2.ミスが減る」「4.長期的視点で戦略を立てられる」「9.安心感を得られる」でしょうか。

■しっかり休めば、長期的視点からキャリアや人生を考えられる

——それらも含めて、順に解説してください。
笠井 「1.回復する」から見ていきます。スマホの充電が切れれば動かなくなることと同じで、当然ながら休まずにいれば仕事や家事、人づき合いなどにエラーが起きやすくなり、疲れやすくなります。食事と睡眠を基本的な充電源と考え、しっかりと休むことができれば心身は回復します。

——次が、「2.ミスが減る」ですね。
笠井 ミスは、とくに脳の疲労が引き起こすものです。そして、仕事に使うツールがどんどん進化したことでマルチタスクがいいことだと認識されがちないまは、脳が疲労しやすい時代ともいえます。

ところが、脳科学の分野においては、脳というのはそもそもシングルタスクしかできないとされています。つまり、マルチタスクをしているつもりの人も、シングルタスクを次々に切り替えて行っているだけであり、それだけ脳を疲れやすくさせているわけです。

そのような状態では、ミスが増えてしまうのは明白ですよね。しっかり休むこと、そしてマルチタスクを避けてシングルタスクに集中することを意識しましょう。

——続いてのメリットは「3.リフレッシュする」です。
笠井 そうなれるのは、しっかり休むことにフォーカスして生活のなかに余白ができるために、心身がスッキリするからです。「流れる水は滞らない」といわれますが、情報過多社会に生きる現代人は、血管が詰まって血液が滞っているような状態にあるといえます。休んで心身に抱えているよどみをなくすことで、本当にしたいことや必要なことに時間を使えるフレッシュなマインドを得られるでしょう。

——そして、「4.長期的視点で戦略を立てられる」ことも大きなメリット。
笠井 とくに若いビジネスパーソンにとって大きなメリットです。真面目な若手社員は、上司の指示をきちんと聞く「いい部下」であることに重きを置きがちではありませんか? 指示された仕事をこなすことが、自分のキャリアや人生を充実させることにつながっていればいいのですが、そうではないケースも多々あるはずです。

ここで、昨日でも今日でも、1日の仕事の内容を振り返ってみてください。「あれ? この時間ってなにしてたっけ…?」「上司にいわれた仕事をしていたような気がするけれど…」と感じた人はいませんか? そういう仕事は、もしかしたら自分にとって本当に重要な仕事ではないのかもしれません。

でも、疲れ切ってしまっている人の場合、そういった振り返りも、自分のためになっている仕事かどうかを考えることもできなくなっています。もちろんそれでは人生やキャリアをいい方向に導くことは難しくなるでしょう。長期的視点に立って自分の人生やキャリアを充実させるためにも、能動的に休んで疲労を軽減することが大切だと思います。

■自分を信頼し、「自分は大丈夫だ!」という安心感を得られる

——続いては、「5.自分の変化に敏感になる」。
笠井 これは、問題への対処と、自分へのエネルギー補給を適切なタイミングで行えることを意味します。疲れ切って自分自身に目を向けられない人のなかには、たとえば年1回の健康診断を受けるまで自分が5キロも太っていたということにも気づかない人もいます。

体重を5キロ減らすよりも1キロ減らすほうが楽なことはあきらかですよね。適切に休んでいれば、「どうして太ったのか」、あるいは「なぜ疲れたのか」と自分の変化に敏感になれますから、調整力も上がって楽に回復することができるでしょう。

——「6.頭がスッキリする」は、わかりやすいメリットです。
笠井 そうですね。このメリットをしっかり享受するためには、休むことはもちろん、タスクやインプットする情報を減らすことも鍵になります。なぜなら、そうすることで考えるべきことが絞られて思考が整理されるからです。仕事をしながら他に気になることがあるような場合、5分でもいいので休んで、気になっていることを書き出したりそれに取り組む日時を決めたりするといいでしょう。

——「7.人に優しくなれる」というのは?
笠井 疲れ切っているときは些細なことでイライラしがちです。一方、休んでしっかり充電できると、気持ちにゆとりが生まれます。結果的に家族やパートナー、同僚など周囲の人といい関係を築いていけるでしょう。いつもなら流せるようなことでもイライラしてしまったとしたら、それはもう休みが必要なサインです。

——次は、「8.自分を最大限に活かせる」です。
笠井 そうできるのは、休むことで先を見据えた「自分の使い方」を考える時間ができるからです。休むことで新しいアイデアが浮かぶこともあるし、回復すれば無理をしなくてもテキパキと動けるようになるでしょう。逆に、疲労をどんどん蓄積させると、本来の自分であればできることも十分にこなすことができません。

——「9.安心感を得られる」は、どういう観点からですか?
笠井 先にもお伝えしたように、わたしがいう「能動的に休む」とは、毎日の生活のなかに意識的につくり出す休む時間であり、自分と向き合う時間のことです。つまり、自分自身で自分の時間をマネジメントすることに他なりません。すると、「自分にはできるんだ!」といういわゆる自己効力感が高まり、自分に対する安心感を得られるのです。

また、休むことを意識して生活のなかに余白ができるため、なんらかのトラブルが起きたときにも適切に対応できるようになり、「自分は大丈夫だ!」という安心感を得るということにもなります。

——最後が、「10.太りにくくなる」です。
笠井 栄養士としては、やはり触れておきたいメリットです。多忙できちんと休めていない状態では、いわゆる「デスク食」や「ながら食」をやりがちです。そうすると、早食いをしたり、身体に本当に必要な食べ物を選ぶ余裕もなかったりしますから、当然ながら太りやすくなってしまいます。

逆に、休むことを意識して余白の時間をつくることができれば、身体にいい食べ物を選んでゆっくりと食事を楽しむことができますから、太りにくくなるというわけです。

仕事に追われて疲れ切った状態で倒れ込むように休むのでは、これらのメリットは得られないはずです。ぜひ、「能動的に休む」ことでこれらのメリットを実感してください。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司