木月:僕はナレーションが全然ないというのにも、びっくりしました。あんなにないと、スタジオ収録で不安にならないのかなと思って。

米田:そうそう(笑)

木月:「こっち側の思うところにヒロミさんが気づいてくれるかな」とか、「これに気づかず演者さんがスルーしたら嫌だな」と思って、ついナレーションとかテロップを入れたくなるじゃないですか。

加藤:ナレーションやテロップで振ると、ハードルが上がって驚いてくれないんじゃないかというのがあるんです。ヒロミさんも小峠(英二)さんもすごく勘が良い方なので気づいてもらえないってことはあまりなくて、むしろ僕たちが気づかなかったことに気づいてくれて展開が生まれたり、ナレーションを入れないから、2人がゲストさんに自然に説明してくれていたり。だから結果的に「さらに…」とか「さぁ、いくら?」くらいのナレーションになりました。この前の収録では、ナレーション原稿が1時間VTRで2枚でした。

(一同笑い)

木月:すごいなあ。ナレーションは振ってナンボみたいなことを教えられましたもんね。

米田:そうですよね。視聴者に魅力を伝えたいと思うと、つい料理に入ってる具材とかもナレーションを書きたくなるんですけど、果たしてデカ盛りのあんかけ丼の作り方を知りたいかというと、それよりもドーンと盛られているさまが全てを物語っているし、メニュー表の写真とは違うってことはナレーションで説明しなくても、2つの画をつなげば分かるし。それを見てると、今まで自分はどれだけ保険かけてナレーション原稿書いてたんだろうなって。

加藤:そもそも、僕が言葉を知らないからナレーションを書くのがすごく苦手で。書かなくて済むし、ちょうどいいか!って思っています(笑)

木月:いやいやいや(笑)

  • VTRを見守るヒロミ(左)と小峠英二 (C)CTV

■効果的なスタジオの「ワイプ」

米田:これは僕がテレビ局に入って1年目の頃の体験なんですけど、個人的にあんまり面白くないなと思ってた番組のスタジオに行ったら、その収録がめちゃくちゃ面白かったんですよ。スタジオに行くと、芸人さんたちがVTR中にもすごいしゃべってて、それを聞いてお客さんもすごいウケてたんですけど、編集で結構スタジオの声って落としちゃうじゃないですか。だから、何でこのスタジオのワイワイした感じをもっとうまく伝えられないんだろうって思ったんですよ。でも『オモウマい店』はまさにスタジオの盛り上がりや熱がそのまま伝わってきて、一緒にVTRを見ている感じになるんですよね。だって、リビングでヒロミさんと小峠さんと一緒に見れたら、そりゃ面白いですよ(笑)。あれくらい、ワイプって大切にして良かったんだなと思いました。ワイプって、実はいらないんじゃないかとか、やっぱりあったほうがいいとか、ずっと色んな論争がありますけど、ここ最近は『オモウマい店』とか千鳥さんの『クセスゴ(千鳥のクセがスゴいネタGP)』『鬼レンチャン』(いずれもフジテレビ)とか、YouTubeのゲーム実況みたいに、一緒に見てる目線や解説になってる目線のワイプを大胆に使ってる番組が気になります。

加藤:まさにおっしゃるとおりで、ヒロミさんと小峠さんと一緒に茶の間で見ているような気持ちになってもらいたいという狙いでワイプを入れてます。収録したワイプはほぼ全て使わせてもらっています。

米田:すごいなあ(笑)

木月:サイズも大きいですしね。

加藤:そうですね。

木月:逆に、スタジオだけの画って全然使ってないですよね(笑)

米田:そうですよね。いまだにどんなスタジオなのか、よく分かってない(笑)

加藤:目黒雅叙園のホテルの宴会場で収録してるんですけど、演者さんが並んでる後ろに、店主さんたちがたくさん並んでる布をぶら下げてるんです。

米田:たしかに後ろが鮮やかなイメージはあるけど、店主さんなのかすら分からなかった(笑)

木月:雅叙園の豪華さ、全然伝わってこないですよね(笑)

■ヒロミ&小峠は視聴者と同じスタートラインに

――この前、ヒロミさんと小峠さんを取材したとき、VTRの途中でスタジオに降りてくることがないから、そのときのためにコメントを考えて用意しておかなくていいので、心置きなく腹を抱えてVTRが見られると言っていたのが印象的でした。

米田:その場で素直に反応すればいいわけですね。

加藤:事前情報はあまり伝えずに、視聴者さんと同じスタートラインでVTRを楽しんでいただくようにしています。

木月:じゃあ、打ち合わせもほぼゼロですか?

加藤:そうですね。「今日はよろしくお願いします」とご挨拶はします。

木月:そりゃそうでしょう(笑)

米田:『オモウマい店』って、企画書に書けないなと思ったんですよ。「すごいメニューを出すお店があって、そこへ取材に行きます」ってそのまま書いたら、「いやいやいや」ってなるじゃないですか(笑)。『PS』からの文脈があって、編集スタイルとかあの見せ方があるから発明になってるけど。やっぱりあれは色んな積み重ねから生まれたものなんですね。

木月:見せ方の発明って企画書に書けないんですよね。それでも、企画書だけで判断されてしまう…。紙だけで判断しないで、とりあえずやらせてみてほしいなって思う時もありますよね(笑)

――『ポツンと一軒家』(ABCテレビ)も、まさに企画書に書けない番組で、前身の番組でとりあえず撮ってみたのを流したらヒットになったという有名な事例ですよね。

加藤:『オモウマい店』は会議資料も一切なくて、ディレクターのプレゼンも、全部映像素材で見て、本格的に取材に入るかを判断するという感じでやってますね。

次回予告…激戦!火7バラエティ演出編~<3> 『家事ヤロウ!!!』とテレ朝に息づく伝統

●米田裕一
1981年生まれ、新潟県出身。東京理科大学大学院卒業後、07年にテレビ朝日入社。『くりぃむナントカ』『いきなり!黄金伝説。』『中居正広のミになる図書館』『陸海空 地球征服するなんて』のほか、『濱キス』~『キスマイレージ』までKis-My-Ft2の全番組を担当。現在は『家事ヤロウ!!!』のほか、『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』『帰れマンデー見っけ隊!!』『10万円でできるかな』で演出を務める。

●加藤優一
1986年生まれ、愛知県出身。豊橋商業高校卒業後、07年に制作会社「マーナイス」に入社し、中京テレビ放送制作部に配属。『PS』『前略、大徳さん』『PS純金』などを担当し、現在は『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』の演出を務める。

●木月洋介
1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』などを経て、現在は『新しいカギ』『痛快TV スカッとジャパン』『今夜はナゾトレ』『キスマイ超BUSAIKU!?』『ネタパレ』『久保みねヒャダこじらせナイト』『出川と爆問田中と岡村のスモール3』『千鳥の対決旅』『人間性暴露ゲーム 輪舞曲~RONDO~』などを担当する。