トヨタ自動車の本格的クロスカントリー4輪駆動車「ランドクルーザー」が14年ぶりにフルモデルチェンジした。伝統のラダーフレーム構造は継承しつつTNGAの技術を取り入れ、軽量化と質感向上を図った新しい「ランクル」は、電動化が進む本格オフローダーの世界で存在感を発揮できるのか。

  • トヨタの新型「ランドクルーザー」

    トヨタの新型「ランドクルーザー」

世界の悪路を走破する人気車種

トヨタの本格的クロスカントリー4輪駆動車「ランドクルーザー」が14年ぶりにフルモデルチェンジした。車体寸法は前型とほぼ変わらないものの、エンジンは従来のV型8気筒からV型6気筒へと変更。車体とフレームが分かれた伝統の「ラダーフレーム構造」を継承しながら、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)の考えに基づいた新たなプラットフォーム(車台)を採用している。

  • トヨタの新型「ランドクルーザー」

    新型「ランドクルーザー」には5人乗りと7人乗りがある。ボディサイズは5人乗りの「GX」というグレードで全長4,950mm、全幅1,980mm、全高1,925mm、ホイールベース2,850mm

ランドクルーザーのルーツは、悪路走破を目的とする4輪駆動車として1951年に登場したトヨタ「BJ」だ。そこから大柄な車体の「ランドクルーザー」とやや小ぶりな「ランドクルーザープラド」の2系統が生まれ、今日に至る。

ランドクルーザーの累計販売台数は約1,060万台。世界170の国や地域で年間30万台以上が売れる人気車種だ。信頼性、耐久性、悪路走破性の高さが売り物で、海外の話題を取り扱う報道番組などを見ていると、未舗装地帯を疾走するランドクルーザーの姿を目にする機会も多い。

  • トヨタ「ランドクルーザー」の前型

    こちらは先代「ランドクルーザー」

こういった地域では米国のジープ(Jeep)や英国のランドローバーが覇権を争っていたものだが、トヨタでは開発主査自身が現地を訪れて所有者の要望を直に聞き、現場の声を開発にいかすなどの改良を続け、ランドクルーザーを世界的な1台へと育て上げてきた。

継続性と修理のしやすさが重要

過酷な道路や気象条件のもと、文字通り乗員の命を預かって走行することも多い車種であるだけに、商品性としてランドローバーに求められるのは、何よりもまず故障しにくい耐久性・信頼性だ。万が一のため、修理のしやすさなども重要になってくる。そのため、こうした4輪駆動車は10~20年と同じ車型が継承される例が多い。

例えばランドローバーの「ディフェンダー」は、1990年の誕生から2020年のモデルチェンジまで、実に30年もの間、同じ車型での生産が続けられた。メルセデス・ベンツ「Gクラス」は2018年に大きな改良を受けたが、基本は1990年からの車型を継承している。

  • ランドローバー「ディフェンダー」

    2020年に久しぶりのフルモデルチェンジを実施したランドローバー「ディフェンダー」

「クロスカントリー4輪駆動車」と呼ばれ、本格的な悪路走破を目的とする車両のモデルチェンジでは、性能を高めたり、先進機能を充実させたりする以上に、従来の車種との継続性が求められることになる。

継続性のひとつの象徴となっているのが、新型ランドクルーザーも採用している「ラダーフレーム」という構造だ。これにより、「上屋」と呼ばれる車体に損傷を受けても、走行に必要なシャシー部分は保たれるので、走り続けることができる。

  • トヨタの新型「ランドクルーザー」
  • トヨタの新型「ランドクルーザー」
  • ラダーフレーム構造はフレーム(左)と上屋(右)が別構造となっている

一方でディフェンダーは、2020年のフルモデルチェンジを機に、車体とフレームが一体となった「モノコック」に構造を変更した。乗用車の世界ではモノコック構造が一般的なのだが、ディフェンダーにとってはモノコックの採用が新情報になるほど、クロスカントリー4輪駆動車の世界ではフレーム構造が常識となっている。そこにTNGAの構想を組み入れ、新開発のサスペンションを採用したのが新型ランドクルーザーだ。

TNGAの効用は、主に軽量化にあるようだ。新型ランドクルーザーは約200kgの軽量化を実現しながら、前型に比べ剛性を20%高めているという。これにより、衝突安全に加え、静粛性や走りの上質さが高まっているとのことだ。

  • トヨタの「RAV4」

    前輪駆動の4ドアセダン「カムリ」と同じTNGAを活用した4輪駆動の「RAV4」(写真)は、未舗装路の走行性能を高めながら、より快適な乗り心地を体感させる1台に仕上がっていた。TNGAを採用した新型「ランドクルーザー」にも同様の効果が期待できる

新しいフレーム構造では、エンジン搭載位置を従来に比べ後方へ、また下方へ移動しているという。これは、V6となったことでエンジンが小型化した恩恵ともいえそうだ。エンジンの位置が下がれば重心も下がるので、悪路で車体が傾いた際の安定性などは向上しているだろう。ハンドル操作の感覚にも変化があるかもしれない。

注目の悪路走破性に関しては、昨今の競合他社と同様に、電子制御を活用した駆動力と制動の統合制御を採用している。路面に合わせて、走行モードはオート(自動)/ダート(未舗装)/サンド(砂)/マッド(泥)/ディープスノウ(深い積雪)/ロック(4輪直結)の6種類から選べる。傾斜の厳しい路面など、運転席から前方の状況を直接確認できない場合には、「マルチテレインモニター」を使用することで、カメラ映像によって周囲の様子が確認できる。

  • トヨタの新型「ランドクルーザー」

    駆動力/制動は電子制御。路面に合わせて6つの走行モードが選べる

V6エンジンはガソリン、ディーゼルともにツインターボチャージャーを装備。これに10速の自動変速機を組み合わせる。先進装備としては、トヨタ初の指紋認証スイッチを採用。登録を済ませた指紋と一致しなければ、エンジンが始動しない仕組みだ。

グレード構成で注目したいのは「GR SPORT」の存在だ。ダカールラリーなどの経験をいかし、ジャンプ後の接地性を高めたり、電子制御によりスタビライザー効果を変化させる「E-KDSS」を採用したり、バンパー形状を見直したりといったカスタムが施されている。

  • トヨタの新型「ランドクルーザー」

    新型「ランドクルーザー」のグレードはガソリンエンジン搭載車が「GX」「AX」「VX」「ZX」「GR SPORT」の5種類(510万円~770万円)、ディーゼルエンジン搭載車が「ZX」「GR SPORT」の2種類(760万円~800万円)。写真は「GR SPORT」

本格オフローダーのEV化が進む?

ところで、クロスカントリー4輪駆動車は継続性が求められる車種であり、使われる地域での整備・修理のしやすさが重要視されると先ほど解説したが、新型ランドクルーザーのライバルたちはどのような状況になっているだろうか。

メルセデス・ベンツ「Gクラス」は、数年のうちに「EQG」という電気自動車(EV)に生まれ変わるとの情報がある。ディフェンダーについては、燃料電池車(FCV)の可能性を探っているとの話が耳に届く。市販車ではないが、アウディはダカールラリーにEVの4輪駆動車で参戦の準備を進めているという。欧州の自動車メーカーでは、クロスカントリー4輪駆動車といえどもEV化が進みそうだ。

  • メルセデス・ベンツ「Gクラス」

    メルセデス・ベンツ「Gクラス」はEV化する見通し

米国のジープも、「レネゲード」という小型の車種ではあるが、プラグインハイブリッド車(PHEV)をすでに販売している。モーター駆動の可能性を改めて実感しているようだ。

モーターはエンジンに比べ、約100倍の速さで出力を制御できる。したがって、舗装路に比べ圧倒的にタイヤが滑りやすくなる未舗装路でも、路面をとらえるための出力制御がしやすくなり、より確実に前進させられるようになる。電流を調整すれば回生(磁力による抵抗)が働くので、減速時の出力低下も瞬時に行える。加減速を瞬時に制御することで、悪路であっても、あたかも舗装路を普段通り運転しているかのような走りが可能になるだろう。

新型ランドクルーザーには6つの走行モードが備わっているが、未舗装といっても砂地や泥濘地、あるいは雪や岩場といった路面の違いでモードを切り替えないと、最適なタイヤ性能を発揮しにくいと考えられる。しかしモーター駆動であれば、タイヤの滑り具合によって詳細かつ繊細に、瞬時にタイヤの回転を変化させ、モード選択なしに走破することができるはずだ。

唯一の懸念は、モーター駆動や電子制御化が進むことにより、万一の故障での修理が難しくなるのではないか、という点である。ただ、モーターに関していえば壊れることは少なく、車体を廃車にしても別の車体に載せて利用できるといわれるほど耐久性が高い。

電子制御については、そもそもエンジン車でさえ、燃料噴射も点火も電子制御なしには行えないのが現状だし、コンピューターが壊れたら動けなくなる。電子制御の強靭化は、エンジン車とEVの共通の課題だといえるだろう。

バッテリー寿命については、最終的には積み替えるしかないだろう。それでも、最新のリチウムイオンバッテリーは耐久性が上がっており、これまでの経験以上に長く利用できる可能性がある。また、二次利用で高水準なバッテリーを転用すれば、新品のほぼ半額で積み替えることもできるのではないか。

充電のための電力は、系統電力が整備されていない地域でも、太陽光や風力の発電を利用すれば手に入る。

これらを総合すると、クロスカントリー4輪駆動車のEVは、コンベンショナルなエンジン車との継続性に多少の難があるかもしれないが、故障に強く悪路走破性も高められるので、想像以上に普及の可能性が高いと考えられる。そうでなければ、メルセデス・ベンツもランドローバーも、そしてアウディも、この手のクルマをモーター駆動にしようとは思わないのではないか。新型ランドクルーザーは今から注文しても1年以上は待たされるという人気ぶりだが、今後も続いていくとすれば、いつかはEV化の道を探ることになるだろう。

  • トヨタの新型「ランドクルーザー」
  • トヨタの新型「ランドクルーザー」
  • トヨタの新型「ランドクルーザー」
  • 新型「ランドクルーザー」はガソリンとディーゼルの2種類。ガソリンは最高出力415PS、最大トルク650Nm、ディーゼルは同309PS、700Nmだ

  • トヨタの新型「ランドクルーザー」

    インパネ上部を水平基調とし、変化の激しい路面でも車両姿勢を把握しやすくしてある

  • トヨタの新型「ランドクルーザー」

    シートの構造・配置を見直し、居住性を高めたとのこと