ランドローバーの人気SUV「ディフェンダー」には2つのボディタイプがある。ホイールベースの短い「90」(ナインティ)と長い「110」(ワンテン)だ。日本では110が一足早く発売となり、かなりの人気を呼んで話題となったが、ついに先日、90のデリバリーも始まった。その90の実力を試すべく、さっそくハードなオフロードに持ち込んでみた。

  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」

    ランドローバー「ディフェンダー」の「90」でオフロードへ!(本稿の写真は撮影:原アキラ、動画は編集部が撮影しました)

大きいけど小さいSUV?

試乗したディフェンダー90のボディサイズは全長4,510mm(背後のスペアタイヤ含まず)、全幅1,995mm、全高1,970mm。110と比べて長さが435mmも短くなっているせいで、横から見るとコンパクトな可愛さがあるけれども、幅と高さは変わらないので、そばに立つとボンネットの高さやステップの高さに圧倒され、それなりに大きなクルマであることに気付かされる。車両重量は2,100キロで、110より320キロも軽い。

  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」

    絶対的には大きなクルマである「90」だが、「110」と比べれば全長は435mmも短い

車名の「90」は、初期型のホイールベースが90インチ(2,286mm)だったことに由来するが、最新の90は2,585mm(日本仕様)なので、約102インチということになる。ちなみに新型110は3,020mm(約119インチ)だ。短いホイールベースの恩恵により、90の最小回転半径は5.3mとなるので、110の6.1mに比べると相当に小回りが利く。

  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」

    「110」に比べ小回りが利く「90」。街乗りにはこちらの方が向いているかも?

搭載するパワートレーンは2.0リッターの直列4気筒ガソリンターボエンジンで、最高出力は221kW(300PS)/5,500rpm、最大トルクは400Nm/2,000rpm。トランスミッションはハイ&ローレンジ付き8速ATで駆動方式は四輪駆動だ。燃費はWLTCモードで8.3km/Lとなっている。

試乗車は、白馬村のパウダースノーに由来する「ハクバシルバー」(オプション)に塗られた「HSE」グレード。タイヤは255/60R20サイズのグッドイヤー製オールテレイン(全地形タイヤ)「WRANGLER」を装着していた。

  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」

    ボディカラーは日本の地名に由来する「ハクバシルバー」

インテリアは厚みのあるエボニー(ブラック)のウインザーレザーシートを採用。所々にウッドやホワイトのパーツを取り入れている。センターコンソールやドアパネルはビス止めであることを意図的に強調していて、豪華ではないものの、上品さとラギッドさをうまく組み合わせたそれらの意匠は所有欲をくすぐってくる。

  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」
  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」
  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」
  • あえて簡素にしている感じもキャラに合っている

2ドアモデルの90の場合、フロントシートを倒してリアシートに乗り込むには少し体力とコツが必要だ。リアを多用するユーザーには、フロントシート間にセンターコンソールがないウォークスルー仕様も用意してある。

リアシートは直下に4WDのアクスル部分があるのでフロアが高く、3人乗るとちょっと窮屈。また、この時のラゲッジルームの容量は297Lしかないので、載せきれない荷物はカッコいいルーフキャリアを取り付けて搭載することをお勧めする。リアシートを倒せば1,263Lのフラットなスペースが出現する。濡れたり汚れたりした荷物でも気にせず放り込むことができるように、床面と背もたれ部分を硬いプラスチックカバーで保護してあるのはオフローダーらしいところ。ちなみにリアゲートは横開きのため、フルオープンするには結構なスペースが必要になる。

  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」

    リアゲートは横開き

悪路はクルマまかせでOK!

ディフェンダーは「テレインレスポンス」で走行モードを選択可能。「オンロード」「草/砂利/雪」「泥/轍」「砂地」「岩場」「渡河走行」の選択肢から走る場所に適したものを選べるので、オフロードに侵入する際は準備しておこう。ほかにも最大145mmまで可能な車高のアップや、四輪駆動の能力を最大限いかせるローレンジへの切り替えを行なっておく必要がある。設定はシフトレバーの周囲にあるボタンを押すだけ。逆にいえば、たったこれだけの設定で、結構な悪路でも走破できるようになるクルマなのだ(もっとも、過信は禁物だが)。

  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」

    シフトレバーと車高やギアを選択する各種ボタンをまとめたコンソール部

今回は2つのオフロードコースで90の悪路走破性を試した。最初は狭い林間コースで、途中には斜度30度の急斜面が用意されていたのだが、試乗の日は前日まで降り続いた大雨の影響により、急坂での走行は禁止となってしまった。

比較的平坦な林道では、センターコンソールにあるタッチスクリーンに映し出されるカメラ画像を確認しながら走った。ボディの前後左右に表示される「オンロード」カメラポジションをタッチして選べば、画像合成によって周囲の状況とボディやタイヤの位置が常時把握できるので、行けるか行けないか、曲がることができるかできないかなど、オフロード走行でも判断がすぐにできて、とても便利だ。

  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」

    「オンロード」モードのモニター。明るさや解像度が高くてとても見やすい

もう1つのコースは池とドロドロ道を組み合わせた周回路で、ここでは先程のカメラを「オフロード」に切り替えた。すると画面は「クリアサイトグラウンドビュー」に切り替わり、ボンネットを透かした形で下側の路面を映し出してくれるようになる。水分を多量に含んだ泥道を走る時には、どっちに切ったのか分からないほどステアリングの感触がなくなってしまうものなのだが、カメラ画像の横にはステアリングの方向やデフ、サスペンションの伸び具合などが表示されているので、運転しているクルマの状況をしっかりと把握することができる。

  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」
  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」
  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」
  • 水分たっぷりの泥道を走破する「ディフェンダー 90」

  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」

    こちらは「オフロード」モードのモニターでクルマの下側が見られる「クリアサイト グランドビュー」を表示させているところ

段差のある池に入る際には、アプローチアングル37.5度、ブレイクオーバーアングル(前後輪とボディ下面の角度)31度、デパーチャーアングル40度という性能をフルに発揮し、ボディを擦ることなく安心して侵入することができた。池の深さは30~40cm程度で、タイヤが半分まで水に浸かるくらい。画面を水路走行検知にしてやると、サイドミラー下にあるカメラが水深を計測し、画面上に水面の位置を表示してくれるようになる。

インストラクターにオフロード走行のコツを聞くと、ちょっとクルマに慣れたドライバーは、こうした場面でクルマの動きに変化があると、すぐにアクセルを踏んだり緩めたりして反応してしまうのだという。最新のオフロード性能を持ったディフェンダーであれば、逆にそうした対応はしないほうがいいとのこと。そーっとアクセルを踏んでいれば、2~3秒後にはクルマ自体が状況に合わせた走り方に切り変わってくれるので、それを待つのが最も望ましいそうだ。電動化や自動化だけでなく、オフロードの走破性という面でもクルマはしっかりと進化している。

  • ランドローバー「ディフェンダー」の「90」

    オフローダーもクルマとしてしっかりと進化を遂げている

試乗したディフェンダー90 HSEの価格は758万円。オプションはふんだんに用意されていて、試乗車はエアサスペンションパックやブラックエクステリアパック、オフロードパックなどのパック装備品をはじめ、ハクバシルバーのボディカラーとブラックルーフ、ヘッドアップディスレイ、MERIDIANサラウンドサウンドシステムなど合計219.9万円分を装着していた。合計で1,000万円近い価格となるモデルだったけれども、見た目も走行性能も、ほかにはない魅力を満載したクルマであることは間違いない。