市役所も県庁も「革ジャン・革パン・サングラス」で挨拶まわり

――現在は、長年在籍したソニーのキューンレコードを「殿堂入り」という形で離れて自主レーベル「ギターウルフレコード」を設立して活動しているわけですが、2017年にスタートした音楽フェス「シマネジェットフェス」はどのような始まりだったんですか。

  • 初めてクラウドファンディングを実施した一昨年の<シマネジェットフェス2019>

セイジ:山形の「DO IT」ってフェスに出たときに、決してメジャーなバンドがいるわけじゃないけど、カッコイイバンドばかり出ていて。俺は音楽をやっている上で良い悪いもないから、メジャーな音楽もいいとは思っているんだけど、海外だとフェスでもみんなエグいロックにちゃんと耳を傾けて酔いしれる部分がちゃんとあるんだよ。日本のフェスみたいに、踊らせてナンボっていうのも日本のフェスの形として面白いと思うんだけど、俺はもっとカッコイイ、エグいバンドをみんなの前に出してスポットを浴びせたいということに気付かせてくれたのが、その山形のフェス「DO IT」だった。大きなステージで、ちゃんと実力のあるバンドにスポットを当てているという、ある意味正しい姿勢だなと思ったんだよ。だから、メジャーなフェスはそれはそれでもうあるんだから、俺はそういうフェスをやりたいなって。それと、海外では全然有名じゃないのに素晴らしいグレートなバンドがいっぱいいるから。そういう人たちを持ち上げて脚光を浴びせないと、良いロック自体がどんどんパワーを失っていくんじゃないかなっていう気持ちもちょっとある。

――フェス開催にあたっては地元との交渉が重要だと思いますが、最初はどのように進めて行ったんですか?海外での活動が多い中で、地元でフェスを行うための基盤が最初からあったわけではないですよね。

セイジ:そうなんだよ。ギターウルフを東京でやりながら、帰省するときだけ島根のロッカーたちと組んでるバンドがあって盆と正月だけライブをやってたら、結構仲間が増えてきて、正月に居酒屋で20~30人ぐらい集めてパーティーもできるようになって。「これだけのメンツ集めたらフェスできるんじゃないか?」と思って、ある年の元旦に「フェスやるぞ~!」って言ったんだよ。そのバンドの連中も一生懸命頑張ってくれたけど、県庁とか市役所とか大元を動かすのはやっぱり結構大変で。

――開催場所を決めたりするのも大変そうですね。

セイジ:そうだね。東京だったら、例えば渋谷でライブハウスを借りて、いつもお世話になってるホットスタッフ(イベント制作会社)とかに相談して、いろんなバンド連中に集まってもらって……ってピンとくるんだけど、地元でフェスをやろうと思ったときに考えたら、「うわっ島根に俺のバックボーンねえ!」と思ってさ。東京なら何十年も住んでいるから、いろいろ手伝ってくれる連中はたくさんいるんだけど、島根にはいねえなって。「島根県出身」って言ってたり、「島根スリム」とか歌ってるのに、俺が培ってきたバックボーンは東京であって、島根では18で終わっていた。それに気付いて愕然としたんだよ。でも、だったらとにかく人に会おうと。小中高の同級生と会ったら、高校の同級生が市役所とか県庁のお偉方になっているって聞いて。「あいつに会うといいよ」って、初対面の人だろうと誰だろうとみんなが教えてくれる人に片っ端から会いに行った。でも、ギターウルフっていう肩書と、この革ジャン・革パンがあるんで。初対面でも向こうは面白がって会ってくれるんだよね。

――やっぱり市役所でも県庁でも革ジャン・革パン・サングラスで行くわけですか?

セイジ:もちろん、もちろん(笑)。それは大事なことだから。市役所とかにも(手を差し出しながら)「こんにちはー!」って。とにかく、会って会って会いまくったら、ちょっとずつ協力してくれる仲間が出てきて、今に至ってるんだよ。

――初年度の開催はすんなりいきました?

セイジ:仲間が手伝ってくれると言っても、段取りするのは全部俺だから。俺はソニーと契約するまで、でっかい建設現場の現場監督だったんだよ。職人の長で、電気屋さんを呼んだり、鳶さんを呼んで足場を組んだり、そういうのを指揮してたから。だから、ここに誰を配置してこうしてっていう段取り関係は自分の中では普通にできると思ってたんだけど、それを探して配置する作業も全部自分でやって、ステージのデコレーションも全部俺が1人で作って。1年目はチケットも200枚しか売れてないって聞いて、「うわ~どうなるのかな」って思ったんだけど、俺はアーティストの力を信じていたので。今やってる東京オリンピックも、最初はどうなるかと思ったけどアスリートが見せる力ってすごいし、感動させてくれるじゃない?それと同じように、観客が多かろうと少なかろうと自分が呼ぶアーティストは、全力でやってくれる連中ばっかりなので。つまり「ロックの力」を信じてたから、1年目からすごく良いフェスになりました。

水前寺清子さんはやっぱり、ジェットでしょ

――会場となっている「古墳の丘古曽志公園」はどんな場所にあるんですか?

セイジ:朝日ケ丘団地という団地の中にある公園なんだけど、県が管理しているので、挨拶に行って。それと団地の周りの店1軒1軒をまわって、「こういうイベントやります」って全部1人で挨拶まわりをして。あと、ブラスバンドを歩かせたので、そのルートに住んでる人に1人1人挨拶にも行ったりとか。もし、朝から音が鳴って「うるさい!」って苦情が来て中止になったら大変だなと思ったので。そういうときはうちの母ちゃんと行くんだよ。そうすると、「ああ!」ってなるから(笑)。それと公民館で打ち上げをやったんだけど、その打ち上げの料理の指揮はうちの母ちゃんがやってたから(笑)。朝日ケ丘団地の婦人会総動員で。

――1つ1つすごくマメに動いてるんですね。

セイジ:こんなに細々としたことがあるなんて、まったく想像してなかったから。だから1年目はすごく大変だったね。出店する人の消防署に届け出す書類とか衛生管理の書類とか6つぐらい出さないといけないんだけど、それを1つ1つ取って出しに行ったりとかね。あとは山陰中央新報っていう新聞社に自分の記事を書いてもらえるように頼みに行ったりとか、ラジオとかケーブルテレビとか、本当色んなことを自分がやるしかないので。なかなか大変だった。

――2019年の映像を拝見したところ、バンドだけじゃなくて電気グルーヴの石野卓球さんや、水前寺清子さんまで出ていて、すごいメンツだなって。

セイジ:水前寺清子さんはやっぱり、ジェットでしょ。

――(笑)。とおっしゃいますと?

セイジ:小さい頃から有名な人だし、カッコイイなと思っていて。それと、「ありがとうの歌」という曲があって、<さわやかに 恋をして さわやかに 傷ついて さわやかに 泣こう>という歌詞なんだけど、それが自分のテーマ曲にしたいというぐらい素敵な曲で。もう1つは、朝日ケ丘団地は昔から住んでいるおじいちゃん、おばあちゃん、小中高生もいるし、その人たちみんなに楽しんでもらいたいのがこの「シマネジェットフェス」なので。「DO IT」みたいにエグいロックバンドにスポットを当てたいという気持ちにプラス、おじいちゃんおばあちゃん、子どもにも楽しんでもらいたいという気持ちがあるので、それが融合した形が、水前寺清子さんだったんだよ。

  • <シマネジェットフェス2019>にはゲストに水前寺清子が登場

――ギターウルフのロックンロールの中に、水前寺清子さんも含まれている?

セイジ:もちろんです!

――ここまで続けてきたのはやってよかったという達成感が毎回あるからだと思いますが、実際どう感じていますか。

セイジ:終わった後のスタッフの顔を見て、楽しいこと、面白いことをやったなっていう充実感があったし、俺も十分達成感があったね。続けている一番の理由は、いろんな素晴らしいバンドにスポットを浴びせたいという気持ちと、とにかくロックを廃れさせたくない、それと日本を盛り上げたい。日本を盛り上げるにはどこを盛り上げようかって思ったら自分の地元である島根だなって。それで自分が小さい頃お世話になったおじいちゃん、おばあちゃんが喜んでくれたらいいなって。プラス、自分が面白いことをしたいという、色んな気持ちが混ざってるね。

  • 石野卓球のステージ(シマネジェットフェス2019)

フェスをやることが自分が島根とロック、日本に貢献してることなんだなって実感できて嬉しい

――2020年はDOMMUNEでのオンライン開催となりましたが、今年は有観客で開催ですね。

セイジ:今回は、そのつもりで突っ走ってます。やろうと決断したときから、この先何があるかわからないけど、開催される10月には好転すると信じてる。そのときに何か大変な事態が起こっていたら、そのときに考えようと思います。

  • ギターウルフと石野卓球の共演も実現(シマネジェットフェス2019)

――7月14日からクラウドファンディングがスタートして、現時点(8月7日)での支援金額は約200万円(目標金額は900万円)です。

セイジ:1、2年目は赤字で300万円ぐらい無くしたけど、その2年で自分の島根のバックボーンを得たので、結構サバサバしたんだよね。それ以上に島根の素晴らしい仲間が増えたから。でもさすがに同じ赤字が出来たら開催できないので、これまで累計3億円集めたっていうクラウドファンディングの達人のbambooさんという方に会って。お金を集めるテクニックを教えてくれるのかなと思っていたら、とんでもないね。クラウドファンディングっていうのは、自分の愛が商品で、このフェスに懸ける情熱をみんなにぶつけて、それにみんなに応えてもらって、それに対する「ありがとう!」っていう気持ちを相手に持ち続けることが大事なんだっていうことがわかって。自分は、1、2年目の赤字のおかげでクラウドファンディングを3年目から始めて、日本中にこれだけ応援してくれる仲間を見つけることができたっていう、これは素晴らしいシステムだなって。でもそこには愛がないと、クラウドファンディングっていうのは成立しないんだということがわかったんだよ。

――その感謝の気持ちが、島根県の名産品などのリターンということですね。

セイジ:俺が「めちゃくちゃ美味いんだよ!」って言いたくなるしじみとか、島根県の美味しいものを紹介するプラス、やりながら思ったんだけど、松江のお店の人たちも一緒に仲間になれるんだよ。そういう人たちが加わってくれることで、「セイジさん、協力しますよ!ポスター貼って行ってください!」って言ってくれる。2017年のときは、ポスターを持って行って見せても、「う~ん、いやダメだな」って断られることもあって。でも今は、喜んで貼ってくれたりするんだよ。こういうフェスをやるのって、下手にお金持ちじゃない方が良いんじゃないかなと思っていて。お金さえあれば、有名なアーティストをどんどん呼んで黒字にすればいいだけだから。でもお金がないことによって、これだけのアイディアが出たり、松江の商店の人たちと友だちになれたりするから。一番大事なのは、お金があることより、気合とか熱い気持ちがある方が良いものができるんだなっていうことを、今はすごく実感してる。「シマネジェットフェス」をやったこと自体が、自分が島根とロック、日本に貢献してることなんだなって、実感できて嬉しいですね。

――ちなみに、リターンの中にあるジェットマガジン【Galaxy Zine】で「ギターウルフセイジVS蝶野正洋の炎のジェットガチンコ対談」というのがありますが、蝶野さんとはもともと面識があったんですか?

セイジ:俺はプロレス好きなんだけど、何の知り合いでもなくていきなりコンタクトを取ったんだよ。ただ、俺がTOKYO FMで番組をやっていたときに、収録終わりに帰ろうとしたら俺が駐車場に停めてあったゼッツー(カワサキ750RSの通称「Z2」)をしげしげと眺めてるでっかい男がいて、それが蝶野さんだったんだよ。そのときは会話も交わさずに帰ったんだけど。

――蝶野さんだとわかったけど声はかけなかった?

セイジ:まあ、お互い突っ張ってるからね(笑)。対談してみたら、同い年ということもあって、話も弾んで面白かったですよ。

――では、最後にマイナビニュースをご覧の方に、フェス開催に向けて改めてメッセージをお願いします。

セイジ:島根で面白いフェスをやってます。これを何としても実現したいと思って頑張ってますので、ギターウルフのセイジと<シマネジェットフェス・ヤマタノオロチライジング2021>を是非応援してください!ロッケンロール!!!!

●information
「シマネジェットフェス・ヤマタノオロチライジング2021」
2021年10月9日(土)@島根県松江市古墳の丘古曾志公園

「シマネジェットフェス・ヤマタノオロチライジング2021 後夜祭」
2021年10月10日(日)@松江ライブハウスAZTiCcanova