仕事ではミスやトラブルで相手を怒らせたり、「こんなこと言ったら怒るだろうなあ」と思うことでも告げなければならないシーンがよくあります。

誰だって怒られるのは嫌ですから、なるべく穏便に済ませたいものです。ところが、対応の仕方次第で余計に相手を怒らせてしまうこともあります。

買わなくていい怒りを買う人と、うまくその場を収められる人。その違いは、どこにあるのでしょうか? 放送作家、PRコンサルタントである野呂エイシロウさんの著書『心をつかむ話し方 無敵の法則』(アスコム)から、一部を抜粋して紹介します。

  • 相手の「怒り」をうまく収める方法とは?

謝る時は顔を合わせる

なぜか怒られない人は必ず顔を合わせる
すぐ怒られる人は電話やメールに逃げる

まずは超基本。

トラブルが発生したり、相手に謝らなければならない場面では、どんなに忙しくても必ず時間をひねり出して、オンラインでもいいので顔を合わせるようにしましょう。

うまく話す自信がない人ほど、謝らなければならない局面で電話やメールで済ませてしまいます。面と向かって怒られるのは怖いし、できればなるべく会いたくない。無駄に時間をかけたくない、さっさと謝って終わらせたい、ということなのでしょう。

でも、電話やメールで謝罪したり、交渉したりするほうがよほどハードルが高いと思います。たいてい火に油を注いでしまう。僕には恐ろしくてできません。

ややこしい話ほど、直接会ったほうがスムーズに進みます。

ちょっと物騒ですが、誘拐犯の身代金要求をイメージしてみてください。

「子どもの命が惜しければ3,000万円用意しろ」

一方的な電話やメールでの要求では交渉は遅々として進みません。もしかしたら本当は犯人も、「ぶっちゃけいくら出せます?」と膝詰め談判したほうが手っ取り早いと思っているかもしれません。

「お金が目的ですから……3,000万円じゃ難しいすかね?」
「正直きついです。1,000万なら3日くれればどうにか……」
「じゃあそれで」

こんな会話ができるのは、互いの表情や間合い、物腰、身振り手振りといった情報があるからです。

電話やメールでパパッと済ませられれば、それは合理的です。しかし細かなニュアンスが伝わりにくく、高度なコミュニケーションが要求されます。気持ちや感情はなかなか表現しきれませんし、わずかな言葉のチョイスでいらぬ怒りを買うリスクもあります。

ですからズームでも構わないので、顔が見える状態で話したほうがよほどセーフティです。僕らは誘拐犯ではないのですから。

謝る前に予告する

なぜか怒られない人は事前に予告する
すぐ怒られる人は突然シリアスな話をする

次はつらい事実を宣告する際の話し方について説明しましょう。断ったり、注意したり、ネガティブな事実を言わなければならないシーンです。

買ってほしいとすすめられた商品を断る、商談や提案を断るというシーンはもちろん、取引先に大幅なコストカットを要求したりする場面だってあります。

こんなとき、話し方に自信がないと、避けて通りたくなります。しかし、そもそも仕事ですから、逃げるわけにはいきません。

ネガティブな話をする際には、2つのテクニックがあります。

(1)相手に予告することで内容を想像させる方法

相手の不利益になるような話をするとき、僕ならまず「これから○○さんに、極めて厳しい話をしなければなりません」と「予告」します。

すぐ事実を告げるのだから意味がないのではないか、と思うかもしれませんが、このわずか数秒のうちに、予告されたほうは最悪の事態まで想像します。

いったん想像したあとなら、ある程度冷静に対処できるのです。つまり、予告は相手に心の準備をさせるための「フリ」です。

取引先に値下げを要求する場面であれば、アポを取りつける電話で、「今回は、価格面でかなり厳しいご相談をしなければなりません」と予告しておきます。

この時点でやはり、先方は最悪 の事態を想定しますし、「少なくとも取引を止めるというわけではない」といったポジティブな考え方に切り替える余裕も生まれます。

(2)相手の味方になりながら伝える方法

もうひとつは、ネガティブなことを通告される側に立って話をする方法です。

「ぶっちゃけますけど、○○さんが解雇だなんて私は納得がいきません。上にも思いとどまってほしいと頼んだのですが、私の力が足らなくて……」、あるいは「こんな値下げ要求、正直ひどいですよ! 跳ね返してくれて結構です。僕も一緒に戦います!」などと言うと、相手の怒りやショックがやわらぎ、かえって恐縮してくれたりします。

謝る時こそポジティブに

なぜか怒られない人は場のムードを優先する
すぐ怒られる人はひたすら謝って嫌われる

最後は少し高度なテクニックです。ただのうっかりミスが結構シリアスな問題になることがあります。例えば寝坊や遅刻です。

僕は放送作家です。早朝生放送の情報番組で構成を担当していた頃、大寝坊をしてしまったことがあります。テレビ局には午前3時20分までに入らないといけません。ところが、3時半にプロデューサーから電話がかかってきたとき、まだベッドのなかでした。実は前の晩に寝るときに、曜日を完全に勘違いしていたのです。

いくら謝っても、大寝坊して仕事に穴を開けてしまった事実は取り戻せません。それから出向いたところで仕事はないのですが、とにかくタクシーを飛ばして局に向かいました。

生番組という商品を作っているなかで、最も大切な「出演者やスタッフの気持ち、雰囲気」をしっかりリカバーすることこそが、寝坊して場の空気を乱してしまった自分の責任だと考えたからです。

まず謝罪は必要ですが、ひたすら謝ったところで何も解決しないどころか、かえって相手を恐縮させたり怒らせたりして、もっとも大切なその場の雰囲気を台無しにする恐れがあります。

そこで、テレビ局の近くのコンビニに飛び込み、とにかくかさばる袋に入ったスナック菓子を、それこそ棚ごと、両手で持てる限界まで買い込みました。そしてそのまま、スタッフルームに飛び込みました。

いやー、大変申し訳ありません! と駆け込んできた大遅刻犯(僕)のほうを見ると、スナック菓子のお化けみたいなものがフラフラ歩いているのですから、みんなあっけにとられてしまいました。

寝坊したことで一番迷惑をかけたであろう女子アナのほうに向かい、スナック菓子の山のなかから謝りました。

「ちょっと野呂さん、こんなもの買ってくる暇があったら、あと15分は早く来られましたよね??」

苦笑いでそんなふうにツッコんでいただけるくらいには、ムードを回復させることができました。

失敗には取り返しのつくものと、つかないものがあります。挽回できるものは当然、必死に巻き返しを図るべきです。しかし謝る以外どうしようもないときには、いくら神妙に謝罪してもネガティブなムードで終わるだけです。

ポイントは、ただ詫びるだけなら、誰にでもできるということです。

本当に申し訳ないと思うのなら、その失敗を脳みそからはみ出させるくらいのポジティブなサプライズを仕掛ける必要があると思います。 それこそが本当の誠意だと思いますし、その処理が見事であれば、失点以上の得点を得ることだってできるはずなのです。

著者プロフィール:野呂エイシロウ

放送作家、PRコンサルタント。「奇跡体験! アンビリバボー」などの人気番組を手掛けるほか、大手企業の戦略PRも多数コンサルティング。著書に『心をつかむ話し方 無敵の法則』(アスコム)など。