18日に放送された大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第23回「篤太夫と最後の将軍」(脚本:大森美香 演出:田中健二)は、前回に引き続きパリ編を描きながら、日本では歴史上の大転換――大政奉還と王政復古が起こった。
慶喜の弟・民部公子こと松平昭徳(板垣李光人)のお供でパリに行った篤太夫(吉沢亮)がちょんまげを切って洋装になることと、200年以上続いた江戸幕府を慶喜(草なぎ剛)が終わらせたこと(武士の時代の終わり)が同時に描かれることで、徳川の物語に終始しない、日本と世界の関わりを俯瞰で見たような広がりのある物語になった。
第23回は、この後、東京オリンピックによって7月25日、8月1日、8日と3週連続休止になることもあってか、時代の変わり目の中での見どころが満載だった。
- 慶喜――最後の将軍の決断
- 波乱の中の平九郎とていの恋
- 華丸が演じる西郷隆盛の勇壮さ
- 洋髪になった篤太夫と昭徳の凛々しさ
これらの見どころを順を追って解説していこう。
慶喜――最後の将軍の決断
パリでは日本への600万ドルの借款が消滅してピンチに陥る。薩摩とモンブランのせいで公儀の信用が落ちたのだ。篤太夫たちは公儀の信用を取り返すため対応策を至急考える。帰国する者も出るが、篤太夫は残る。杉浦愛蔵(志尊淳)と別れの盃を交わしている頃、日本では慶喜(草なぎ剛)の部下・原市之進(尾上寛之)が殺される。
「なぜだ、なぜ私の大事な者を次々と奪う」とショックな慶喜。尊敬する父を失った後(これは病気だが)、頼りにしていた円四郎(堤真一)が暗殺され、彼の代わりのように本音で話せた篤太夫とも、将軍になったことで距離ができてしまった。そして原……と頼れる部下が身近からどんどんいなくなっていく。国を守るため慶喜は政権を帝に返上――大政奉還を行うことを決意する。
慶応3年10月12日。徳川家康(北大路欣也)がカッと目を見開いて瞑る間合いに自身が作りあげた徳川幕府終焉に対する深い思いが伝わってきた。
慶喜はすべてを受け入れたように落ち着いた表情。200年以上も続いた歴史を終わらせる重責を決断した人間の、凡人には理解できないどこか超越した感じを漂わせていた。
波乱の中の平九郎とていの恋
公儀の立ち場が危うくなっている頃、平九郎(岡田健史)は晴れて篤太夫の見立て養子になって武家として江戸に出ることになった。第22回では渋沢平九郎、渋沢ていと夫婦みたいとはしゃいでいたてい(藤野涼子)は別れを悲しむ。
「最後だから笑って見送ろうと思ったんに」と泣き笑いしている姿があまりに素直で愛おしく、平九郎が思わず抱きしめてしまう気持ちがわかる。感極まった平九郎は、栄一が無事に戻ってきたら「俺の嫁になってくれ」と言う。本気で言っていながらも口元に少し照れがにじむ。嬉しくて大声で泣き出すてい。あせる平九郎。彼女の頬の小さな涙をそっと親指でぬぐっていると、今度は彼女から平九郎に抱きつく。そっと抱きしめる平九郎。その手のなかにはていが作った守り袋。顔をあげて額と額をコツンと当てて笑う2人。ピュアな若いふたりの悲しんだり喜んだり戸惑ったり……コロコロ変わる表情がひとつひとつまぶし過ぎる。
藤野涼子の芝居を岡田健史が素直に受けていて、あざとくなく、自然で、優しい気持ちになった。彼らの瞬間の鮮度をそのまますくい取っているかのような演出の田中健二氏は、NHKドラマ制作部のベテランで、朝ドラでも恋愛度の高かった『半分、青い。』のチーフディレクターで鈴愛と律のキュンシーンも多く手掛けた。