――ネットニュースが毎日のようにアップしている視聴率に関する記事については、どのように捉えていますか?
水野:“評論家”っぽい人たちのコメントは、本当に芯食ってないですよね(笑)。ポジショニングトークと、ただ記事でバズりたいんだなと。結論ありきで、「『ポツンと一軒家』は実はそんなに評価されてない」というのを書きたいんだなと思うんですけど、『ポツンと一軒家』もやっぱりすごく(CM枠が)売れてるそうなんですよ。でも、世帯が高い年配層向けの番組=売れないって書いたら見出しになりそうですもんね。こんな強引な結論付け、テレビ番組でやったら大問題です。
木月:そうやってブランドイメージが毀損されますし、やってるタレントさんもいい思いをしないでしょうし。そういうのはどうなんだろうなと思いますけどね。
橋本:視聴率の記事に限らず、「番組関係者」とか匿名で、番組改編とか芸能人の評判とかを結構語るじゃないですか。でも、テレビの制作者が見たらほぼ合ってないし、妄想で書いてるなって思うわけですよ(笑)。いちいち否定するのもな…と思って誰も反応しないんだけど、言わないと「そういうことなんだろうな」と思う人もいるでしょうし。番組の間違っている姿を伝えたくないという気持ちがあるので、ジレンマですね。
木月:そうなんですよね。
橋本:でもそこって、もう少し時間が経てば見抜いてくださる視聴者の方も増えていくのかなという気もしているんです。テレビ見て釣りで見出し付けた中身のない記事って、本当にだんだんみんな嫌になってきてると思うんですね。テレビだと、もうそのやり方って通用しないじゃないですか。「今日すごい衝撃的なことが起こりますよ!」「大波乱ですよ!」って煽って見ていって大したことなかったら、もうその番組見ないですよね。煽る言葉をどこまで使うべきかって、木月さんも水野さんもすごくセンシティブになってると思うんですよ。それはネットも一緒だと思っていて。僕らテレビマンが視聴者をバカにすると痛い目に遭いますよということがあるので、そういうものを流してるサイトは市場の原理でそのうち淘汰されていくんだろうなと思うんです。若い子もそういう記事は見なくなってきてますからね。だいたい、番組をしっかり作っているスタッフが、簡単にテレビの内情を話さないじゃないですか(笑)
■「視聴率惨敗」の記事に意味はあるのか
水野:『相席食堂』の全国ネット特番の1回目のときが、テレビを作ってる人たちと記事の乖離(かいり)が一番大きかったなと思いましたね。視聴率の速報が出て、若い層がすごく取れていて、各局とかいろんな番組の会議で「すごいなあ。大阪から持ってきてこんなにうまく行ったんだ!」という話になっていたのに、午後のニュースが「世帯6.9%でコケた」って出たときに、みんなが「全然捉え方の違う記事出たな」ってTwitterとかで反応してましたよね。あれは大きな出来事だなと思いました。
橋本:でも、テレビを作ってる人間たちがどこまで「テレビってこうなんです!」っていうのを発信していくかというのは、本当に難しい問題で。
木月:たしかに、難しいです。
――この企画が、少しでも一助になりましたら…。
橋本:よく「低視聴率の戦犯捜しに戦々恐々」とか書いてあるの見るんだけど、そんな現場あるわけないじゃん!って(笑)
(一同笑い)
水野:さっきの「番組のファンがどれくらいいるか」っていうのは、視聴率の高さだけでもないですからね。
橋本:今、視聴率高いからあの番組を見るとか、低いから見ないっていう人もいないと思うんですよね。ネット文化になると目が肥えて、自分が見たいものを見るようになって、自らの評価軸の方がよっぽど定まってるから、そうやってメディアを選んでいる人たちに「この番組視聴率惨敗ですよ」って記事を出すことは、ほぼ意味がないだろうなと思うんですよね。
次回予告…~各局エースディレクター編~<3> これからのテレビマンのあるべき姿とは
●橋本和明
1978年生まれ、大分県出身。東京大学大学院修了後、03年に日本テレビ放送網入社。『不可思議探偵団』『ニノさん』『マツコとマツコ』『卒業バカメンタリー』『Sexy Zoneのたった3日間で人生は変わるのか!?』などで企画・演出、『24時間テレビ41』では総合演出。現在は『有吉の壁』『有吉ゼミ』『マツコ会議』といったバラエティのほか、『寝ないの?小山内三兄弟』『でっけぇ風呂場で待ってます』『ナゾドキシアター「アシタを忘れないで」』などドラマ・舞台も手がける。
●水野雅之
1977年生まれ、愛知県出身。慶應義塾大学卒業後、00年に毎日放送入社。営業局で6年勤務した後、制作に異動し、大阪本社で『ちちんぷいぷい』を担当。2年後に東京支社の制作に異動し、『チェック!ザ・No.1』『地球感動配達人 走れ!ポストマン』をへて、『イチハチ』で初の総合演出となり、浜田雅功と初仕事。現在放送中の『プレバト!!』、『日曜日の初耳学』の前身『林先生が驚く初耳学!』、『教えてもらう前と後』と、TBS系列ゴールデン・プライム帯におけるMBS制作の全番組を立ち上げた。
●木月洋介
1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』などを経て、現在は『久保みねヒャダこじらせナイト』のほか、『新しいカギ』『痛快TVスカッとジャパン』『今夜はナゾトレ』『キスマイ超BUSAIKU!?』『ネタパレ』『出川と爆問田中と岡村のスモール3』『千鳥の対決旅』『芸人サバイバルトーク!上田に火をつけろ』『人間性暴露ゲーム 輪舞曲~RONDO~』などを担当する。