コロナ禍となって早1年半。テレワーク中心の働き方にも慣れた反面、悩みの声も数多く聞こえてきます。

中でも、「頑張っているつもりなのに、上司がなかなか評価してくれない」と嘆いている人は多いのでは? 顔が見えにくいリモート環境では、自分の努力の課程が伝わりづらいですから無理もない話です。

どうやったら上司は分かってくれるんだろう――Web会議システムを閉じた後のPC前で、そんな風に頭を抱えていても何も始まりません。

そんなときは視点をちょっと変えてみましょう。テレワークで悩んでいるのは、あなただけではありません。

さっきまでPCの画面に映っていた上司自身もまた、何をしていいのか分からず、悩みながらテレワークに臨んでいる可能性が高いのです。

  • テレワークで「評価されにくい」と感じることはありますか?

上司自身がテレワークに悩んでいる?

『テレワーク環境でも成果を出すチームコミュニケーションの教科書』(マイナビ出版)の著者で、経営者として複数の企業でテレワーク導入に取り組んできた経験を持つ池田朋弘さんは、テレワーク環境で余裕がなくなっている上司が見受けられると指摘しています。

「50~60代の方ならばITそのものに慣れていなかったり、新人のOJTトレーナーなどは、マネジメント経験さえ少ない可能性もあったります。慣れないテレワークで自分自身が悪戦苦闘しているのに、部下をマネジメントする『上司』まで会社から期待されて、非常に困ってしまっているのです」

上司もテレワーク初心者である。そう思って接していけば、部下の方から上手なコミュニケーションを形作っていけるかもしれません。まずは部下であるあなたの方から、上司に歩み寄ってみましょう。

上司に歩み寄るときに気を付けたい3つのポイント。

例えば、自分自身の現状をスマートに伝え、報連相(ほうれんそう)を徹底することで上司に安心してもらうのが、最適な「歩み寄り」となるはずです。

「上司からすると、テレワークで最も不安なのは部下の状況が見えないこと。すぐそばにいれば、部下の様子からどんな状況か分かりますが、テレワークでは部下が何に困っているのかが見えません。それだけに部下側から工夫してほうれんそうしていく必要があります」

  • 『テレワーク環境でも成果を出すチームコミュニケーションの教科書』(マイナビ出版)の著者、池田朋弘さん

池田さんによれば、ポイントは以下の3点に集約されます。

1.早く行う

テレワークの場合、質問の確認やレスポンスまでどうしてもタイムラグが生じるもの。にもかかわらず、部下から何の反応もないと「大丈夫かな?」と不安が増幅しがちです。悩んでいるのなら、ためらわずに相談しましょう。

2.細かく行う

「完成してから上司に見せよう」などと考えていると、状況が見えない状態が長く続いていまします。こまめに途中経過を報告してコミュニケーションの頻度を上げていけば、上司の安心感も増します。

3.具体的に行う

今までの作業内容を具体的に伝えるのが肝心。完成はしていなくても作業しているファイルや途中経過の画面キャプチャを添付すれば、自分の状況を具体的に伝えやすくなります。

テキストのフル活用がスマートなテレワークにつながる

上司に伝えるとき、注意しなくてはならないポイントもあります。肝心なのは「テキストで事前に送る」こと。相談や報告するときにレジュメのようなものがあれば、言いたいことの全体感や骨子が上司にも共有され、リモートであっても話はスムーズに進むはずです。

ただし、ダラダラと長文を書く必要はありません。「テキストを構造化&箇条書き」にして、送った内容を分かりやすく伝えるのが重要だと池田さんは指摘します。

「テキストにどういうことを書いてあるか、グループにしてまとめていくのが構造化。『論点』『前提』『主張・選択肢』『根拠』『参考』などといった形で、段落を分けてテキスト化するだけでも格段に読みやすくなります。また長い文章で示すのではなく、要点だけまとめて箇条書きにしておけば、言いたいことのポイントや内容が伝わりやすくなります」

要点だけでは分かりにくいかも……と思っても、Web会議システムを使って口頭で補足すれば十分に理解できますので、ささっと伝えたいことを箇条書きでまとめちゃいましょう。

なお、テレワークに限らず、「自分がどこまでやったか」「ここまで調べたけど分からなかった」といった取り組み課程を明らかにすると、上司も何をアドバイスすればいいのかがよく見えてきます。

まったくのゼロベースで「何をやればいいんですかね」的な丸投げ質問は、ことテレワークですと上司の混乱に拍車がかかるだけですのでご法度!

自身が何者なのか、Web上で伝えていく。

こうした工夫を重ねることで、表面上の業務はスムーズに進んで行くはず。しかし、その一歩先、画面と画面の間にある高い壁を乗り越えて信頼関係を結ぶには、あなた自身が何者なのか、伝えていくことが重要です。

「子ども好きでキャンプに行くのが趣味だとか、めちゃくちゃ凝り性でマニアックな資料を大量に持っている人とか、飲み会大好き人が好きでひたすら雑談したい人とか、普段からその人のキャラクターを把握しておけば、相手との距離を詰めやすくなるものです。テレワークの場合、雑談というコミュニケーションが減ってしまって、人物像が見えづらくなる欠点がありますが、そこを乗り越えるにはサイバーキャラクターの確立が一つのカギとなります」

リアルで会っているならば普段の雑談で距離は縮まりますが、気軽な会話がしにくいテレワークでは、工夫して自分自身のキャラクターをオンライン上で発信していくのが大切なのです。

最も手っ取り早い手段は、朝会、定例会、1on1といったオンラインミーティングで雑談の時間を設けること。普段思ったことなども軽く話すだけでも、お互いの距離はぐっと縮まるはず。

「ちょっとした出来事をチャット等で『分報』として発信するのもおススメです。今はどの企業も社内チャットツールを導入しているでしょうが、そこにあなただけが発信する『自分チャンネル』を作ってみてください。業務の進捗でも、今この瞬間にふと感じたことでも、プライベートな出来事でも何でも構いません。他の社員がそこを見れば、あなたの人となりが自然に伝わるはずです」

それ以外にも、自分の取り扱い説明書となる「トリセツ」をインターネット上に作るのも有効です。趣味や嗜好、歩んできた歴史などを網羅して、自分というのはこういう人間というキャラクターだと表現してみてはいかがでしょう。

上司がどこまで情報共有や自己発信を求めているか、探っていく必要はあるにせよ、こうした手法を地道に繰り返していけば、お互いの距離は自然と縮まります。

テレワークコミュニケーションを円滑にするために、ぜひトライしてみてください。

取材協力:池田朋弘(いけだ・ともひろ)

株式会社メンバーズ顧問。2013年株式会社ポップインサイトをCEOとして創業。2015年から全面リモートワーク体制を構築し、全国採用をスタート。日本各地で従業員50人以上を採用。2018年から総務省のテレワーク先駆者百選を受賞。