大河ドラマ『青天を衝け』第21回「篤太夫、遠き道へ」(脚本:大森美香 演出:川野秀昭)では、慶喜(草なぎ剛)が15代将軍になった。慶喜がナポレオンにもらった軍服を着こなす姿がキマっていて、いつものちょんまげもこれまで以上に凛々しく見えた。SNS上でも話題となった。

  • 徳川慶喜役の草なぎ剛

慶喜は、フランス・パリの物産会――博覧会に弟・松平昭徳(板垣李光人)が行くにあたり、篤太夫(吉沢亮)に同行するように頼む。直接話せなくなっているので側近・原市之進(尾上寛之)を通して。原の話にいちいち口をはさみたがる篤太夫がおかしれぇ。頭の回転の良さの現れであろう。

大抜てきに、鐘が鳴って天から光が降り注ぐような雰囲気の劇伴がかかる。「僥倖」と二つ返事の篤太夫。「胸がぐるぐるして、おかしろくてたまらない」と目を輝かせる篤太夫のまったく悩みのない様子に原はあっけにとられる。やっぱり頭の回転がいいのだろう。思いがけない話でも鋭い勘で良き道を選びとっていく。

篤太夫の運命がどんどん切り開かれていく。すなわちそれは時代が大きく動いていくことで……。慶喜のよき理解者であった孝明天皇(尾上右近)が崩御して、表舞台を退いていた岩倉具視(山内圭哉)が「王政復古を果たします」と立ち上がる。天皇家と徳川家の関係が変わっていく。

病に伏せった孝明天皇を見舞うのちの明治天皇・睦仁が“種痘”を受けたという場面では、いまの世の中のワクチン接種を思い出した。

パリに行く前に慶喜と篤太夫が久しぶりに会う。すっかり華麗な殿様になった慶喜にみとれる篤太夫。2人は、徳川家康の遺訓を声を合わせて唱える。

“人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。不自由を常と思えば不足なし。こころに望みおこらば困窮したる時を思い出すべし。堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え。勝つ事ばかり知りて、負くること知らざれば害その身にいたる。おのれを責めて人を責めるな。及ばざるは過ぎたるよりまされり。”

腹を割って話のできる関係の慶喜と篤太夫が笑顔で遺訓を唱えることは、2人の仲の良さを表すことと同時に、世界が麗しき調和を成すことへの願いを象徴しているように感じられる。異なる思想で対立している日本が調和し、世界も調和する。そんな願いの現れのような……。少なくとも、慶喜と篤太夫は理想を同じくして、ここで完璧に気持ちを共有し、この上ない幸福を味わっているように見える。