JR東日本東京支社は、電気機関車などのメンテナンスを行う田端運転所にて、電気機関車撮影会・所内見学会を7月3日に開催した。9~11時の第1回、11~13時の第2回(各回30名ずつ)に分けて開催され、報道関係者らは第2回に同行して取材・撮影を行った。

  • 懐かしの寝台特急のヘッドマークを掲げ、田端運転所に電気機関車が並んだ

参加者は最初に検温・手指消毒を行った後、検修庫へ移動し、今回のスケジュールについて説明を受けた。検修庫内にはディーゼル機関車DE10形1697号機が入っており、寝台特急「カシオペア」「北斗星」をベースにした来所記念ヘッドマークも飾られている。機関車のメンテナンスを扱う田端運転所ならではの歓迎となった。

全体説明に続いて留置線に移動し、電気機関車の撮影会が始まった。今回展示された電気機関車にはすべて往年のヘッドマークが掲出されており、客車は連結されていないものの、ブルートレインが全盛だった当時の風格を垣間見ることができた。

5本の留置線には、青15号とクリーム2号のカラーリングを特徴とする直流電気機関車EF65形が展示された。向かって左から1115号機、1105号機、1104号機、1103号機、1102号機の順に並んだ。

  • 「さくら」「はやぶさ」のヘッドマークを掲げた直流電気機関車EF65形

掲出されたヘッドマークは、1115号機が「さくら」、1105号機が「はやぶさ」、1104号機が「富士」、1103号機が「みずほ」、1102号機が「あさかぜ」。いずれも国鉄時代、東京駅から東海道・山陽本線経由で九州方面へ向かった寝台特急の名称であり、EF65形もこれらのヘッドマークを掲げ、客車を牽引した実績がある。

撮影会の途中、ヘッドマークを交換する場面もあり、1115号機に「出雲」、1105号機に「彗星」、1104号機に「銀河」、1103号機に「北斗星トマムスキー」、1102号機に「夢空間北東北」のヘッドマークが掲出された。

  • EF65形に「みずほ」「富士」「あさかぜ」のヘッドマークも掲出された

  • 撮影会ではヘッドマークの交換も実施

検修庫のすぐ隣にある留置線2線には、交直流電気機関車EF81形が展示された。EF65形とは異なる赤13号(ローズピンク)の塗装が外観上の特徴となっている。展示されたEF81形は、向かって左から81号機と133号機。81号機は「エキスポライナー」、133号機は「ゆうづる」のヘッドマークが掲出された。

若い世代にとって、「エキスポライナー」は聞き慣れない名前かもしれないが、1985(昭和60)年3~9月に開催された国際科学技術博覧会(科学万博つくば’85)へのアクセスを担う臨時列車として常磐線を走った。「ゆうづる」は常磐線経由で上野~青森間を結んだ寝台特急。東北本線経由で上野~青森間を結んだ「はくつる」とともに、都心から北海道への連絡輸送を担っていた。

  • 赤色の交直流電気機関車EF81形に「エキスポライナー」「ゆうづる」ヘッドマークを掲出

掲出された名称の中で、「はやぶさ」「さくら」「みずほ」は新幹線の名称となり、「出雲」は「サンライズ出雲」となって現在も運行されているが、いずれもブルートレインだった頃のヘッドマークは見られない。その他のヘッドマークも、列車の廃止とともに見られる機会が少なくなった。今回の展示で、当時のヘッドマークを掲げた電気機関車の姿は貴重なものだった。

撮影会の参加者を見ると、平成生まれの筆者と同じくらいの若い世代から、ブルートレインが全盛だった時代を知っていると思われるシニア世代まで幅広い。参加者は各回30名ずつと少なかったが、参加者同士、なるべく密を避けつつ、余裕を持って撮影を楽しんでいる様子がうかがえた。

  • 撮影会の参加者は各回30名ずつ。のびのびと撮影できたようだった

電気機関車の撮影会に続き、田端運転所内の見学会を実施。スタッフの指示に従って2組に分かれ、施設を見学した。今回見学した施設は検修庫と技能教習所の2カ所。いずれも撮影不可だったが、参加者たちは解説に耳を傾け、実際に目で見て学んでいた様子だった。

技能教習所では、EF81形の運転台を利用した電気機関車の学習装置や、電車型のシミュレーターが設置されている。電気機関車の学習装置は、ハンドル操作と連動してモニターに回路の流れが表示され、機関車の動作のしくみが「見える化」されている。ブレーキ弁などのカットモデルも展示されており、それらを通して機関車のしくみを体系的に学ぶことができる。その他、パンタグラフやコンプレッサーなども室内に展示されていた。

検修庫は車両のメンテナンスを行う施設。今回見学した検修庫は1933(昭和8)年頃に竣工し、EF80形が導入された1963(昭和38)年前後に改築。庫内の柱には、1900(明治33)年頃から1915(大正4)年頃までの古いレールが使われている。その大半がドイツ・ウニオン製や官営八幡製鉄所製のレールだが、最も古いものは米国・イリノイの製鉄会社で1898(明治31)年に製造されたという。交直流電気機関車の検査時に交流電気を使用するため、庫外に交直セクションがあるのも特徴。赤い斜線の入っている六角形の標識がその目印だ。

続いてピット内を見学。レールの間に深く掘り込まれたメンテナンス用のスペースをピットと呼ぶが、田端運転所のピットは電気機関車用のため、他の車両基地と比べてやや深く掘られている。今回見学したピットは、過去にDD13形の検査も行っていたため、車両側面の高さに合わせたデッキが設けられている。屋根上点検台もディーゼル機関車の屋根に合わせ、他の点検台より短くなっている。それを聴いた参加者から感嘆の声もあがった。

台車検査を行う交検5・6番線には、四角く区切られた枠が6つあり、交換用のモーターが置かれる。他の器具や部品も3・6の倍数で用意されており、機関車の部品数が3・6の倍数になることが多いため、そのようになっているという。電車と機関車の連結器を変換する中間連結器、電車・機関車両方と連結可能な双頭連結器などについての解説もあった。ちなみに、今回解説された双頭連結器は、過去に尾久車両センターに在籍していたマヤ34から取り外されたもので、現在は訓練用に使われているとのこと。

田端運転所の検修庫には、鉄道80周年を記念して大宮機関区で作られたモニュメントも置かれている。その一番上に「914」の数字が記されており、これは蒸気機関車900形の銘板にあたる。914号機は明治時代に新造され、1955(昭和30)年の廃車まで一貫して田端機関区で活躍した。そのことにちなみ、大宮運転区の工事の際、モニュメントが田端運転所に移された。

最後は質疑応答の時間。「EF81形の電気暖房の動作を調べるランプについて」「仕業検査を行ってから機関車を使用可能な時間」など、かなりマニアックな質問が寄せられた。ちなみにEF81形の電気暖房は、田端運転所では使用停止しているためランプは点灯せず、仕業検査を行ってから機関車を稼働できるのは72時間となっている。質疑応答の中で、今回のイベントの感想・意見を述べる参加者もいた。

JR東日本東京支社では、7月中、他にも東京総合車両センターでの車両メンテナンス体験(7月17日)、親子向け工場見学ツアー(7月24日)、事業用電車クモヤ143形撮影会(7月31日)の開催を予定している。「東京感動線×TABICA」特設ウェブページにて予約を行っていたが、すべて満員となった。