近畿日本鉄道は7月1日、名阪特急「アーバンライナー」を使用した貨客混載事業の報道公開を実施した。近鉄と福山通運の協力で行われた今回の取組みは、コロナ禍後の鉄道界における新たなビジネスチャンスとして注目を集めそうだ。

  • 近鉄が「アーバンライナー」を使用した貨客混載事業を報道公開。福山通運のスタッフが車内へ荷物を運ぶ

近鉄は6月28日付で国土交通大臣より貨客混載事業に係る物流総合効率化法にもとづく総合効率化計画の認定を受け、7月1日から名阪特急「アーバンライナー」を使用した当日配送サービス(福山グリーン便)を開始することとなった。「アーバンライナー」車両(21000系「アーバンライナー plus」・21020系「アーバンライナー next」)の旧車販準備室に荷物を置き、大阪難波~近鉄名古屋間で輸送する。

他社と同様、近鉄もコロナ禍の影響を受け、利用者が減少している。そこで新たな鉄道の可能性を探るべく、荷物輸送に着目した。この事業により、大阪市内~名古屋市内間における当日配送が安価で実現し、利便性が大きく向上する。従来は翌日以降に配送するサービスが主流であり、当日配達はトラック等をチャーターする必要があった。

貨客混載事業の対象となる「アーバンライナー」は1日1往復、大阪難波駅・近鉄名古屋駅をそれぞれ11時30分に発車する便で実施される。荷物の積み下ろしは大阪難波駅と近鉄名古屋駅で行われ、途中駅では取り扱わない。

  • 大阪難波駅11時30分発の「アーバンライナー」。21000系「アーバンライナー plus」を使用

報道公開が行われた大阪難波駅では、同駅11時30分発の近鉄名古屋行「アーバンライナー」(使用車両は「アーバンライナー plus」)が11時16分、1番線に入線。扉が開くと同時に福山通運のスタッフが荷物を持ち上げ、2号車の扉から車内へ入っていった。初日の荷物は2ケースあり、中身は書類・雑貨類等だという。荷物置場となる旧車販準備室は1号車の車端にある。

「アーバンライナー」は2020年3月に車内販売を中止しており、車販準備室は空きスペースとなっていた。車両を改造することなく空きスペースを利用するため、近鉄側から見ると、今回の貨客混載事業の収益は「プラスしかない」という。「アーバンライナー」は11時30分、いつもと変わらぬ姿で大阪難波駅を発車した。

  • 「アーバンライナー」と福山通運が輸送する荷物

  • 1号車の旧車販準備室に荷物が置かれた

ところで、近鉄の荷物輸送といえば、早朝に宇治山田駅から大阪上本町駅へ、夕方に大阪上本町駅から松阪駅へ向かった行商人専用「鮮魚列車」(2020年3月に運転終了。現在は一般列車に鮮魚運搬車両を連結して運転)をイメージする人も多いだろう。今回の貨客混載事業は運送会社とタッグを組み、特急列車を使用する点が「鮮魚列車」と大きく異なる。貨客混載事業では、名阪間の「BtoB」利用をイメージし、取扱い対象物に工業製品・部品・商品(日用品・衣料品)を想定している。

今回の貨客混載事業の対象区間は名阪間だが、他区間への拡大は現在のところ白紙である。福山通運以外の運送会社との連携も考えていないとのことだった。