女優の菅野美穂が主演を務める映画『明日の食卓』(角川シネマ有楽町ほか全国公開中)が、劇場公開日・5月28日の2週間後であるきょう6月11日から、WOWOWオンデマンドなどで配信がスタートした。 同作は椰月美智子氏による同名小説を実写化した、瀬々敬久監督の最新作。プロデューサーを務めたWOWOW事業局コンテンツ事業部大瀧亮氏に、本作の製作の背景と狙いを語ってもらった。

映画体験に配信が勝ることは決してない、が……

映画『明日の食卓』でプロデューサーを務めた大瀧亮氏

WOWOW事業局コンテンツ事業部の大瀧亮プロデューサー

――『明日の食卓』を劇場公開から2週間後に配信開始することを決定された理由は?

『明日の食卓』を撮影したのは、昨年の夏。コロナの真っ最中でまさに第二波が押し寄せている状況下ではあったのですが、スケジュール的にここしかないことが年頭に分かり、どうにかして撮影しようと覚悟を決めて挑みました。瀬々監督と組ませていただくのは『友罪』以来2度目ですが、せっかく良い脚本が出来て、良いキャスティングが実現したからには、適切な形でお客さんに届けられなくなることは何としてでも避けたかった。劇場公開からわりと早いタイミングで配信を開始するというのは、実は撮影時から考えていました。

僕のなかでは大前提として「映画は映画館で観ていただきたい」という気持ちがありますし、劇場公開の場合、初日に向けて皆が一致団結して走り出すこともあって、安易に延期したくはなかったんです。だからこそ先の見通せない状況で劇場公開が危ぶまれたとしても、鮮度のあるタイミングで観てもらえる手立てを別に準備しておきたいという思いがありました。

『明日の食卓』はジャンル的にも30代以上の方々がメインターゲットになったこともあり、普段は仕事や育児に追われて気軽に映画館には行けないけれど「できるだけ早く観たい」と思っている方たちにも、配信という形ならば届けられるのではないかと思い、今回のように劇場公開から2週間後に配信を開始することにしました。

中小規模の作品の製作費は劇場の興行収入だけで回収するのは難しく、配信やテレビ、パッケージといった二次利用で収益を確保していかなくてはならないのが今の日本の実情です。近年はレンタルやセルといったビデオグラムを巡る状況が厳しくなってきている中、コロナ禍で「おうち時間」が長くなったことから配信需要が伸びてきていることもあり、劇場公開からできるだけ早いタイミングで配信を行った方が、得策なのではないかと考えました。

今回の公開規模ですと「観に行きたくても上映劇場まで足を延ばすことが難しい」という声も耳にしますので、配信という選択肢を設けることで「小さい画面であっても早く観たい」というニーズに応えることができるという意味では、ある一定の役割を果たせるのではないかと考えています。

僕は、閉鎖された暗い空間の大スクリーンで、最適化された音響で観るという映画体験に配信が勝ることは決してないと思っているのですが、配信をきっかけにこの映画の存在を知った方が、「小さい画面で観てもすごい迫力だったな。あ、まだ映画館でやってるんだ! じゃあ、もう一度大きいスクリーンで観てみようかな」といったように、配信と劇場で相乗効果が生まれたらいいなと思っています。