この記事では、ニヒリズム(虚無主義)の意味とは何なのか、また変化しつつある現代の使われ方についてわかりやすく解説します。
ニヒリズム(虚無主義)とは?
ニヒリズム(虚無主義)の意味や起源を紹介していきます。
ニヒリズム(虚無主義)の言葉の意味
ニヒリズム(虚無主義)の意味をまとめると「物事の意義や価値は存在しない、自分自身の存在を含めてすべてが無価値だ」ということです。もっと簡潔にすると、ニヒリズムは世の中のすべてを否定します。つまり「すべてどうでもいい」という考えです。
ニヒリズムを日本語に置き換えると、「虚無主義」という言葉になります。虚無には、この世のすべてに価値や意味がなく、むなしいことという意味があります。キリスト教への批判の思想とも言われています。
ニヒリズム(虚無主義)の起源
ニヒリズムという語は、1733年にドイツ人のフリードリヒ・レブレヒト・ゲッツがラテン語の書で用いたのが始まりとされています。
近代以前は神が「生きる意味・価値」を与えてくれるとされていましたが、19世紀後半になると、科学により神が存在しないことが次第に明らかになり始めました。
その後、時代とともにさまざまな考えや思想が生まれ、「神が絶対」であるという価値観は否定されるようになっていきます。
選択肢が増え、人々は自由になったとも言えますが、同時に自分で生きる意味や価値を見いだす必要がでてきたのです。その結果、「何のために生きているのか。なぜ死なないといけないのか?」といった疑問を多くの人が感じていました。
現代のような「ニヒリズム」という言葉はロシアの文豪・イワン・ツルゲーネフが『父と子』(1862)という作品において 最初に使用したとされています。
ニヒリストとは? 何主義者なの?
ニヒリストとは、ニヒリズムを信じている人(虚無主義者)のことです。つまり、「物事の意義や価値は存在しない、自分自身の存在を含めてすべてが無価値だ」と思っている人のことを指します。
また、19世紀後半の帝政ロシアにおける革命的民主主義者またその党派のことを表すこともあります。
ニーチェとニヒリズム
ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェは、各国の哲学者のなかでも特に有名です。実存主義の先駆者、または生の哲学の哲学者として知られています。
19世紀後半、ニーチェは「神は死んだ」という有名な時代診断を下します。ニーチェは消極的ニヒリズムを乗り越えるために積極的ニヒリズムという概念を持ち出しました。世の中のすべてが無意味で無価値に見え、これを嘆く状態を「消極的ニヒリズム」と言います。
この状態を脱するためには、虚無状態を肯定的に受け止めること、原因を自覚すること、さらにこの原因を積極的に否定することがニヒリズムを克服する唯一の方法だとニーチェは説きました。この考え方が「積極的ニヒリズム」です。
ニヒリズムと聞くと、ネガティブな印象がありますが、「積極的ニヒリズム」のように肯定的な意味でとらえることも出来ます。
一例としては、「人には生きる意味も価値もない、だったら無意味な人生をひまつぶしだと思って楽しんでしまおう! 」という考え方が「積極的ニヒリズム」にあたります。
ニーチェの名言と思想
ニーチェの有名な名言と思想を紹介します。
- 神は死んだ
ニーチェが書いた著書「ツァラトゥストラはこう言った」の中にでてきた言葉です。ダーウィンの進化論や科学により神の存在に疑問を持つ人が現れ始めた近代に、新しい発想をもたらしました。この主張は「積極的ニヒリズム」と呼ばれています。
- ルサンチマン
ルサンチマンとは日本語では怨恨(えんこん)と訳されることが多く、妬み・嫉妬の感情のことです。
キリスト教には、ローマ人に虐げられてきたローマ人へのルサンチマンが根本にあると考えています。ニーチェはこの妬みや嫉妬の感情は人間の本質であり、肯定的な感情だと捉えています。
- 超人
ニーチェの提唱する超人とは、自分で物事の良し悪しを決められる、自分の価値観に従って生きていくことができる人のことです。
- 永遠回帰
永遠回帰とは、世界には終わりがなく、人生は何度も繰り返されるという世界観です。つまり嫌なことも何度も繰り返されるという考え方です。ここでニーチェは無限に繰り返される人生ならば、また何度も繰り返したいと思える素晴らしい人生を送ればいいと主張します。
現代のニヒリズム(虚無主義)
19世紀後半に生まれたニヒリズム(虚無主義)ですが、現代での使われ方に変化はあるのでしょうか?
十代に広がる新しいニヒリズムの価値観
ニヒリズム(虚無主義)は若者の間で再び広がりはじめていると、イギリスの大手新聞社のガーディアンが報じました。
ここでは、すべてどうでもいいといった消極的ニヒリズムではなく、積極的ニヒリズムの主張に近いものが流行しているとし、この主張を「陽気なニヒリズム」と伝えています。
また、楽観的なニヒリズムについて講演を行う若者も登場しています。「陽気なニヒリズムを通して、幸福になろう」というメッセージを伝えているのです。「人生は無意味である、だからあらゆることの意味や価値を自分で見つけ出せる」という考え方が広がっています。
ネガティブやマイナス思考のように感じていたニヒリズムも、時代とともに使われ方や考え方に変化が起こっているのです。
宮崎駿とニヒリズム
映画監督の宮崎駿氏は、漫画「風の谷のナウシカ」で主人公ナウシカが虚無に悩まされるシーンを描いています。これはニヒリズムをテーマにしているからであり、ナウシカが消極的ニヒリズムから積極的ニヒリズムに至るまでの過程を描いた物語だからです。
宮崎駿氏は、『風の帰る場所―ナウシカから千尋までの軌跡』(宮崎駿著)という本の中で、ニヒリズムについて語っています。
宮崎駿氏は旧約聖書に書かれている、「突き抜けたニヒリズム」について読んでちょっと元気がでたと言いました。黄泉の国にいったら、知恵も知識も何もない。だからこそ生きている間は楽しんでやれるだけのことをやれ、とニヒリズムも突き抜けてしまえば、悩んでいたこともそんなに大きな問題ではないと気づくことができます。
「無価値だからこそ、自分で価値を見つけられる」という発想は、どこか肩の力を抜いて頑張れそうな気がしてきますね。
ニヒリズムの対義語・類義語
ニヒリズムの対義語と類義語を紹介します。
ニヒリズムの対義語
- オプティミズム(楽天主義)
楽観主義ともいいます。哲学上では最善説と訳されることもあります。世界には悪いこともあるけれど、全体的には明るい世界だと前向きに捉える人生観のことです。
- ポジティブ(積極的)
いつも楽観的で前向きに物事を捉える性格のことです。過ぎてしまったことをくよくよ悩むことなく、次に繋げる行動ができる人のことを指します。
ニヒリズムの類義語
- ペシミズム(悲観主義)
厭世(えんせん)主義、厭世観ともいいます。この世を不幸と悲惨に満ちたものだと悲観的に考える人生観のことです。
- ニヒル
「ニヒリズム」を語源とした言葉です。「ニヒル」の意味は「無」「虚無」です。「ニヒルな人」と表現すると、反応や感動のない人という意味になります。
ニヒリズムへの価値観自体が多様化している
ニヒリズム(虚無主義)は、「すべての物事に意味や価値はない、自分の存在も含めてすべて無価値だ」とする考え方や状態のことです。
ニヒリズムには消極的ニヒリズムと積極的ニヒリズムがあり、哲学者のニーチェは消極的ニヒリズムを乗り越えるためには、積極的ニヒリズムが必要だと説きました。
また、現代では「陽気なニヒリズム」という考え方も現れており、時代とともに使われ方も考え方も少しずつ変化しています。
一見ネガティブなイメージの強いニヒリズムという言葉ですが、意味を理解することでより自分らしく生きていく道しるべになるのかもしれません。