「スイッチングコスト」とは、製品やサービスを切り替えるために必要なコストです。本記事では、スイッチングコストの意味や、購買に関するコストなどについて、くわしく紹介していきます。

  • 「スイッチングコスト」の意味

    「スイッチングコスト」の意味を覚えて、ビジネスシーンで役立てましょう

スイッチングコストの意味

「スイッチングコスト」とは、現在使っている製品やサービスを、他の製品やサービスへと切り替えるために必要なコストです。

「コスト」という言葉から金銭的な負担をイメージしがちですが、「操作方法を新たに覚える手間」や「新商品に対する心理的な抵抗」なども「コスト」に含まれます。

現在使っている商品やサービスを切り替えるときに発生する主なコストは、以下の3つです。

  • 金銭的コスト
  • 物理的コスト
  • 心理的コスト

一般的には、この3つの総コストを「スイッチングコスト」と呼びます。

金銭的コスト

金銭的コストとは、「新たな商品やサービスに対して支払う金額」のことです。

たとえば、新しいパソコンの本体価格が5万円だった場合は「5万円」がそのまま金銭的コストになります。

商品やサービスの販促では「金銭的コスト」を下げるのが一般的ですが、スイッチングコストの考え方では、他の2つのコストを下げて消費者の囲い込みを狙うこともあります。

物理的コスト

物理的コストとは、「新商品や新サービスの購買にかかる手間と時間」のことです。ビジネスシーンにおける物理的コストとしては、以下のような例が考えられます。

  • 新しい商品の使い方を覚えるためにかかる時間
  • 新システム導入による一時的な作業効率の低下
  • 新システムの教育にかかる人件費

心理的コスト

心理的コストとは、「新商品や新サービスに切り替えたことで発生する精神的な負担」のことです。ビジネスシーンにおける心理的コストとしては、以下のような例が考えられます。

  • 取引先の変更で新たに人間関係を構築しなければならないストレス
  • 新しいシステムがうまく扱えずに感じるストレス
  • 「スイッチングコスト」の意味

    スイッチングコストには物理的、精神的な負担も含まれます

購買行動が発生する条件

商品やサービスを切り替えたときのメリットよりもスイッチングコストが高く感じられる場合には、切り替える必要性があったとしても行動には移りません。このような経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

切り替えるための購買行動が発生するには、以下のような条件を満たさなければいけません。

【新しい製品やサービスの価値】-【スイッチングコスト】>【既存の製品やサービスの価値】

どんなに優れた商品やサービスを開発しても、スイッチングコストが壁になると購買行動には移りません。

仮にスイッチングコストがなければ、単純に新旧2つの商品やサービスを比較していい方を購入するでしょう。

しかし、スイッチングコストはそのまま「コスト」として消費者が認識します。そのため、新しい製品やサービスの価値が、既存製品の価値とスイッチングコストを上回るかどうかが重要になるのです。

「価値」には2種類ある

購買行動を発生させる重要要件の「価値」には、主に2種類あります。

■機能的価値
「機能的価値(機能的ベネフィット)」とは、「製品そのものの機能によって得られる価値」のことです。性能や安全性、サポート、付帯サービスなどは、すべて機能的価値に含まれます。

例えば、「足が疲れなくて長持ちするので、ナイキのスニーカーに切り替えた」は、機能的価値が購買を決断させたケースです。

■情緒的価値
「情緒的価値(情緒的ベネフィット)」とは、「製品の使用や所有によって得られる心理的な満足感」のことです。デザインや質感や触感、ブランド性なども含まれます。

実際の使用感だけではなく、自己表現や社会的評価に結びつくのが情緒的価値の特徴です。「優越感を得るためにブランド物のバッグを購入する」などが該当します。

  • 購買行動が発生する条件

    2つの「顧客の価値」が購買行動を発生させます

スイッチングコストを敢えて高めるマーケティング

工業製品やIT系サービスでは、「独自規格や自主規格を採用する」という方法があります。切り替えには規格の変更に伴う大きなコストがかかるので、躊躇する消費者は多いでしょう。

小売店などでは「ポイントカードの導入」などが考えられます。「ポイントを使わないと損をする」という心理を利用して他社への流失を防ぐのです。

スイッチングコストが高ければ、顧客がその製品やサービスを利用する頻度も高くなります。ビジネスの永続性を考えるなら、スイッチングコストを高める方法の検討も大事な要素のひとつです。

ただし、スイッチングコストを高くして消費者の囲い込みを狙うと、顧客に不利益を与えてしまうリスクも生じます。仮に製品やサービスを切り替えることによって顧客が事実上支払う「コスト」を、別の形で「価値」として提供できなければ、中長期的に自社のロイヤリティーを下げる原因にもなりかねません。

スイッチングコストを高めて囲い込みを狙うのであれば、継続利用するだけの価値がある商品やサービスを提供し続ける必要があるでしょう。

スイッチングコストは3つのコストがポイント

今回は、スイッチングコストの意味と事例をくわしく紹介しました。スイッチングコストを低くして新規顧客の獲得を狙うか、スイッチングコストを高くして顧客の流出を防ぐかは、マーケティングを考えるうえで重要なテーマのひとつとなります。

金銭的コストだけではなく、物理的コストと心理的コストが乗り換えの壁になるケースは少なくありません。しかし、心理と手間をコントロールできれば、金銭的コストを下げなくても売上増加につながる可能性が生じます。

日常生活での体験も踏まえながら、ぜひビジネスでスイッチングコストの考え方を役立ててみてください。