この春から、新入社員という方、部署が変わったという方、昇進した方、転職した方、あるいは新しい仕事を始めた、という方。新しい仕事を始めるときは、とにかく覚えることがたくさんあります。

例えば新入社員でしたら、ビジネスマナーや仕事の基本知識から専門知識まで、もしかしたら、学生時代以上のインプットを求められるかもしれません。

社会人になってからのインプットは、短期間で完璧に覚えることを求められるうえ、仕事をしながらインプットしなければならず、時間をつくることも課題となり、効率性が求められるようになります。

この「効率性」という言葉につられ、実は、記憶効率を下げてしまう間違ったインプット法に陥りがちなのをご存じでしょうか? ここでは、みなさんがやりがちなダメなインプット法を指摘するとともに、おすすめのインプット法を書籍『絶対忘れない勉強法』(アスコム)から紹介してもらいます。

  • 効率的な仕事の覚え方とは?

ノートはスマホかPCで取る

ノートやメモをパソコンやスマホで取るという方は多いと思います。しかし、記憶の定着効果を見れば、手書きの力は見過ごせません。こんな実験があります。

アメリカのプリンストン大学のミューラーとカリフォルニア大学ロサンゼルス校のオッペンハイマーは、15分ほどのTEDトーク(スピーチ動画)について記憶実験を行いました。

男性65人を、トークの内容を手書きでメモするグループと、キーボード入力でメモするグループに分けて、動画を見た30分後に内容に関する質問をし、記憶力をテスト。すると、手書きでノートにメモしたグループのほうが、内容の理解と記憶がよいという結果が出ました。

手書きでメモを取ると、自分なりに頭の中で要約してまとめる作業が発生するので、それが脳への負荷となり、記憶に定着しやすくなるそうです。

また、ノルウェー科学技術大学のアスクビックらも同じような実験を行ったところ、やはり、手書きでメモを取ったグループの方が、記憶テストの結果が良くなりました。

彼らは、「ペンで紙を押し付けたり、手書きした自分の文字を見たり、手書きしている最中の音を聞いたりすることで、多くの感覚が活性化され、これらの感覚経験が脳のさまざまな領域との接点を生み出し、学習のために脳を開放する」と説明し、紙と筆記具といった道具を使うことが、脳を刺激し、記憶を促進していると結論付けました。

確かに、タイピングの方がスピードは速いのですが、脳への記憶定着を考えると、手書きのノートの方が、効率が良いと言えるでしょう。新しいことを覚える、あるいは、なかなか覚えられないのであれば、ぜひノートは手書きにすることをお勧めします。

テキストはスマホかタブレットで読む

こんな経験はありませんか?

「電子書籍を読んでも、なんだかあまり内容が頭に入ってこない」
「電子書籍で読むより、紙の本で読んだほうが記憶に残りやすい気がする」

その感覚、正解です。

便利さを考えると、電子書籍を選びがちですが、実は、脳へのインプット効率を考えると、スマホやタブレットでテキストを読むより、紙の方が良いという実験結果が出ています。

ノルウェーのスタヴァンゲル大学のマンガンらが、10年生(日本で言う高校1年生)を対象に行った実験によると、読解力、単語の理解力、語彙力いずれについても、紙で読んだほうがモニターでPDFで読むよりも、内容が頭に入りやすく、理解度も高く、覚えやすいという結果が出ました。

つまり、しっかり覚えたい内容は、紙ベースでインプットした方がよく覚えられ、記憶の定着率も良いことが分かったのです。PDFよりも紙で読む方が、読解力や集中力も上がることが知られています。

ぜひ、しっかりインプットしたい内容は、紙の本で読むようにすることをお勧めします。教材がPDFしかないようなら、もしできれば紙に出力して、紙で読むのがよいかもしれません。さらに、赤ペンやマーカーを引きながら読むようにすると、いっそうインプット効率が高まり、忘れにくくなります。

ほかにも、ラクだから、慣れているから、という理由でやってしまいがちな、実は記憶の定着率を下げてしまっている間違ったインプット法はいろいろあります。

実は、あなたが今やっているやり方が、インプットの効率を下げているかもしれません。

なかなか覚えられない、覚えたのにすぐ忘れてしまう、という方。今回の記事を参考に、自身のやり方をチェックしてみてはいかがでしょうか? どうせインプットするなら、効率よく、しっかりと覚えたいものですね。

執筆者プロフィール:堀田秀吾

明治大学法学部教授。シカゴ大学博士課程、ヨーク大学ロースクール修士課程修了。言語学博士。専門は司法におけるコミュニケーション分析。脳科学、言語学、法学、社会心理学など分野を横断した研究を展開。著書に『絶対忘れない勉強法』(アスコム)などがある