筋肉痛や打ち身のつらさを和らげる貼り薬。ふだん何気なく使っていますが、なぜ貼ることで痛みが解消されるのでしょう。今回は、公益財団法人佐々木研究所 薬学博士 大谷道輝氏に貼り薬にまつわる素朴な疑問についてお聞きしました。

  • 公益財団法人佐々木研究所 薬学博士 大谷道輝氏

貼り薬と飲み薬の違い

――薬と言うと、一般的に「飲み薬」のイメージが強いのですが、「貼り薬」はどのように違うのでしょうか?

大谷氏 「貼り薬は、専門用語では「経皮吸収型製剤」と呼ばれ、皮膚から吸収されます。飲み薬(内服薬)のように肝臓や消化管を通らないため、薬の損失が少ないのが特長です。一方、内服薬の場合には、薬物の血中濃度が時間によって高くなったり低くなったりと山があり、効果も強弱します。

これに対して、貼り薬の場合は血中濃度が一定なので効果が持続し、吸収もゆっくりで効果も安定するのです。副作用も同じように血中濃度が高くなると強くなります。貼り薬の場合は、貼っている間だけ作用するため、剥がせば効果が消失していきます」。

  • 経皮吸収型製剤と内服薬の血中濃度イメージ 提供:佐々木研究所

一般的に(飲み薬と比較して)貼り薬の方が吸収はゆっくりです。しかし貼り薬でも、ニトログリセリンなど心臓に作用する薬には効きが速いものもあり、例えば手術中に意識のない患者さんに貼り薬で「必要な時間だけ」効果を出すなどの使い方もあると言います。

貼り薬と飲み薬の使い分け

――飲み薬と貼り薬の使い分けは、どう考えればよいのでしょうか。

大谷氏 「貼り薬には、貼った場所で効果を発揮する『局所製剤』と、成分が血液で運ばれて効果を発揮する『全身製剤』の2種類があります。局所製剤は、貼ったところに直接作用するので、例えば筋肉だけに作用すればいいような時に効果的。花粉症の薬の場合も、飲み薬だと全身を循環してからになるのでロスが多いのですが、鼻に直接作用する点鼻薬は即効性があって効果的ですし、また、皮膚疾患に用いるステロイドの場合も、皮膚に直接作用するテープ剤や軟膏は速やかに効きます。

  • 貼り薬は2種類ある 参照:『知っておきたい 貼り薬のおはなし』

その他、飲み薬の弱点として、食事の影響を受けてしまうことが挙げられます。例えば、食後は吸収の妨げになってしまったり、逆に増えたりしてしまうといったことがあります。そうなると、患者さんの都合のいい時間に服用できないというケースもあります。貼り薬だと、食事の影響も受けませんし、好きな時間に使用できるのが利点です」。

それから、飲み薬で意外に多いのは、高齢者が薬を飲んだのか、飲んでいないかを忘れてしまうケース。逆に、飲んだのに飲んでないと思って飲み過ぎてしまうというケースも実は3倍ぐらい多いそうです!

  • 自己管理薬の飲み間違いは50歳代から 提供:佐々木研究所

大谷氏「貼り薬は目で見てはっきりと分かりやすい。本人の飲み間違いを防ぐことができ、介護従事者にとっても確認が容易で、管理がしやすいと思います。もう1つは、喘息とか発作が起きる病気であったり、精神疾患であったり、できるだけ安定した効果が得られたほうがいい場合も貼り薬が適しています。1日貼っておくだけでいい貼り薬なら持続的に作用して効果が安定しています」。

それ以外にも、人前で薬が飲めない時など、患者さんの都合に合わせて使い分けるのがよいそうで、特に子どもや高齢者は服用が困難な場合があり、貼り薬のほうが有効でしょうとアドバイスしてくれました。

貼り薬の効果的な使い方

――貼り薬をもっとも効果的に使う方法や使用回数があれば、その理由も含めてお教えください。

大谷氏 「全身製剤の貼り薬の場合は、貼る場所によって吸収が変わります。簡単に言うと、皮膚の厚い足の裏などは吸収が悪いので効果が薄いです。そうした点を意識すれば、例えば狭心症の薬は、血液の中に入って心臓に作用するので上半身なら腕のどこに貼っても構いません。繰り返しますが、血液の中に入って薬は効果を出すので貼る場所は関係ないのです」。

逆に皮膚の薄い場所は吸収が良いので効果が強く出るそうです。やはり指示を守って適切な場所に貼ることが重要ですね。

大谷氏 「もう1つ注意したいのが『かぶれる』点。特に高齢者は皮膚が乾燥しがちでかぶれやすく、保湿が大切です。また、かぶれを避けるために、全身製剤を貼り替える際は同じ場所に貼らないようにして下さい。

回数と効果の関係は、1日ごとの製剤の用法を守ること。皮膚に密着するかしないかも重要なので、毛の生えている部分は避けて、汗をかきやすい人は隙間がないように、貼った後は30秒間ほど手のひらでしっかりと押さえ付けて下さい」。

  • 高齢者はかぶれに注意 提供:佐々木研究所

――薬剤師の立場で、多くの患者さんがしている、貼り薬に関する「よくある勘違い」について教えてください。

大谷氏 「湿布には、温湿布と冷湿布の2種類がありますが、実は両方とも貼ると体表面の温度を下げます。それは、いずれも水が入っていて気化熱の作用で熱を奪うからです。違いは、温湿布がとうがらしの成分であるカプサイシンの効果で血流を増やして温かく感じさせ、冷湿布はメンソールの効果で清涼感を持たせること。本当は使う目的も効果も温湿布、冷湿布は同じなのです」。

なお湿布には炎症を和らげる効果があるので、打撲の時に一番よいのは湿布を貼り、上から氷をあてるのが効果的だそうです。

  • 冷シップと温シップの使い分けは 提供:佐々木研究所

――貼り薬で治療する「意外な病気」にはどのようなものがありますか。また、なぜ貼り薬が選ばれるのでしょうか。

大谷氏 「先ほども申したように、喘息・気管支炎など発作があるような病気や、統合失調症などの精神疾患、パーキンソン病のように、薬が切れずに安定した効果が得られるほうがよい疾患には、貼り薬が選ばれることが多いです。

世界では、アメリカと日本の製薬会社を筆頭に、実は80種類ぐらいの貼り薬が開発中です。国内でもアレルギー性鼻炎や血圧降下剤、がん患者向けの医療用麻薬の貼り薬というのも存在します。

  • 貼り薬はさまざまな治療に応用されている 参照:『知っておきたい 貼り薬のおはなし』

大事なことは、飲み薬も貼り薬もどちらも選択肢があって、患者さん自身が選べるということです。医師や薬剤師もしっかりと説明をする使命があると思いますが、患者さん自身もこうした選択肢があることをぜひ知っておいてほしいです」。

取材協力:大谷道輝(おおたに・みちてる)

1982年城西大学薬学部卒業後、東京大学医学部附属病院薬剤部に就職後、東京逓信病院薬剤部副部長、杏雲堂病院診療技術部長を経て、現在佐々木研究所に勤務。主な所属学会:日本医療薬学会、日本皮膚科学会、日本香粧品学会など。