■人間の複雑さを知り「キャラクターを決めつけないように」

作品ごとにさまざまなキャラクターになりきり、確かな演技力で多くの人たちを魅了している中村。自身は俳優のやりがいを「凶悪犯を演じるとなったら、凶悪犯でもその人のことを理解してあげないといけない。それが役者という仕事で、人を受け入れる作業が役作りなので、とても豊かな仕事だなと思います」と語る。経験を重ねる中で役作りの方法は変わり、以前は「こういうキャラクターだ」と自分の中で一つ答えを出していたが、今は決めつけないようにしているそうだ。

それは、いろいろな人と接する中で人間の複雑さを知り、俳優業にも影響したのだという。「こういう人だなと思っていた人が実はそうではなかったり、出会った人たちの意外性に触れるたびに、『僕はこう思い込んでいた役は、実は違うのではないか』と思うようになり、『ようわからんなあ』となっていきました。現場で『ようわからないけど、こんな感じかな』という1日の終わりも増え、でもそれでいいんだろうなと思っています」

「こういうキャラクターだ」と決めつけたほうが断然楽で、セリフを覚えるのも早いそうだが、「そう思っちゃったから仕方ない。もう楽できないんだなと思います」と笑う。そして、大変ではあるが、「決めつけないで演じたほうが、役というより人間と向き合っている感じがします。『お前はこういうヤツだろ』と決めつけていたものが自由に勝手に育つようになり、キャラクターではなく、ちゃんと人になっているなと感じます」と、自分としてもしっくりきている。

■平常心をモットーにマイペースなふりをしていたことも

エッセイでは、“平常心”をモットーにマイペースなふりをしていたことや、2019年に『NHK紅白歌合戦』で歌唱した際、自分のペースでいられなくても精一杯やったことが誰かの笑顔につながるのもいいなと感じることができたという心境の変化も明かしている。

いろいろな経験を経て、今、生きていく上で大切にしているモットーを尋ねると、「あるがまま」「自然体」を挙げ、「それだけではダメなときももちろんあるので、いろんなスイッチは持っていますけど」と補足。さらに、自然体でいられるようになっているからこそ、「モットーを持つ必要もなくなってきているのかな」とも話した。

バラエティや舞台挨拶などでも、自然体で自由なトークを繰り広げている中村だが、昔は考えすぎてうまく話せなかったという。トークを鍛えたいという思いもあって始めたトークライブや、バラエティなどで少しずつ慣れていき、「役者としての立場が変わったり、年齢を重ねたこともそうですし、いろんなことが連結しているのだと思います」と自己分析。

今ではすっかり「自由に話せている」と言い、「『王様のブランチ』に出演させていただいた時も、音が使われていないワイプの時間もいろんな話をしていました。昔だったら『生放送だ! ちゃんとしなきゃ』と思っていましたが、今はそんなこと全く思わない」とにやり。「人様の前に出る以上は、いい意味で背筋を伸ばすという意識はもちろんありますが、無駄な委縮はしなくなり、とても楽です」と、インタビュー中も終始自然体だ。

そして、「役者としての立ち位置や期待など、この2、3年でだいぶ変わったものが、少し体に馴染んできて、落としどころが見つかってきた今なのかなと感じています。それを探る2年間でもあったと思いますが、今はそういう意味で心地よさを感じています」と穏やかに語る中村。

最後に思い描いている将来像を尋ねると、「優しいおじいちゃんになりたい。それくらいしか決めていないです」と笑い、「役者としてどうなりたいというのは特にないです。やりたいようにできたらいいなと、その一言に尽きます。その都度一生懸命やって、見てくれた人たちが何か思ってくれたらいいなと思います」と語った。

■中村倫也
1986年12月24日生まれ、東京都出身。2005年、俳優デビュー。2014年、初主演舞台『ヒストリーボーイズ』で第22回読売演劇大賞優秀男優賞受賞。2019年にはエランドール賞新人賞を受賞。近年の出演作は、ドラマ『初めて恋をした日に読む話』、『凪のお暇』(19)、『美食探偵 明智五郎』、『この恋あたためますか』(20)、映画『台風家族』、『屍人荘の殺人』(19)、『水曜日が消えた』、『人数の町』、『サイレント・トーキョー』(20)、『ファーストラヴ』『騙し絵の牙』(21)など。4月5日から主演ドラマ『珈琲いかがでしょう』(テレビ東京)がスタート。5月28日公開予定の映画『100日間生きたワニ」に声優として出演。また、3月18日に初のエッセイ集『THE やんごとなき雑談』を発売した。