読売巨人軍で、選手、スコアラー、査定担当、編成担当と役割を変えながら40年間にわたりチームに尽力した三井康浩氏。2009年にスコアラーとして参加したWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)第2回大会では、日本代表を支え優勝に導いたことでも知られる。

  • 日本で成功する外国人打者の絶対的ポイントとは? /元読売巨人軍、チーフスコアラー・三井康浩

三井氏はWBCで偉業を成し遂げた後、2011年から約6年にわたりスコアラー時代の眼力を生かしながら編成担当として選手獲得に携わっている。チーム強化における永遠のテーマといってもいいであろう、「外国人打者獲得」における成功の秘訣を聞いた。

■日本の環境をイメージして、成績がどう変化するかを推測する

野球は得点を奪い合うゲームだ。現代の日本のプロ野球で、外国人打者の活躍なしに優勝争いをすることはほぼ不可能といってよく、打線に優秀な外国人打者を配置すべく各球団は常に力を傾けている。とはいえ、大きな期待を背負いながらも活躍できず、姿を消していく外国人選手は毎年のように現れる。

——外国人打者に求めるのは、やはりクリーンアップを務められるような打撃ということになりますよね。
三井 もちろんチーム状況にもよりますが、それはいまもむかしも変わらない条件でしょうね。さすがにメジャーでクリーンアップを打っている打者を獲得するのは簡単ではありませんが、下位打線を打っているような打者でも日本の環境なら主軸を務められる力は備えています。

下位打線でもメジャーでレギュラーを張っている選手やベンチに入っている選手。または、メジャー入りが射程圏内に入っているマイナーリーガー。

育成的な獲得を除けば、このあたりまでが日本の球団の狙いどころといっていいでしょう。わたしが編成担当だった頃なら、2013年に巨人軍にやってきて、その後DeNAでもプレーしたホセ・ロペスなどは、そのイメージで獲得できた理想的な打者でした。メジャーでも一時主軸を務めていたのですが、成績を落とし段々と打順が下がっている状況だったのです。そこでタイミングよく獲得できました。

——日本の環境において、獲得した外国人選手の成績がどのように変化するかを読む力が求められますね。
三井 前提として、近年は日本のボールのほうがよく飛びますから、メジャーで傑出した長打力を見せていない打者でも化ける可能性はあると考えていました。多くの球場がアメリカよりも狭く、ホームランが出やすいですからね。同じ打席数を与えたときのホームランは1.5倍かそれ以上になることもあると見積もっていました。

そんな目線で獲得したいと思っていた選手に、マイナーからに這い上がりメジャー定着を果たそうとしていた頃のホセ・アルトゥーベ(アストロズ)がいました。

——アルトゥーベはその後成長し、これまでに首位打者3回、最多安打4回、盗塁王2回。長打力も発揮するなど、MLB屈指のスター選手になりました。アストロズは2017年に捕手のサインを盗み打者に伝えていたことが発覚しMLBから処分を受けています。

ただ、それを考慮しても、アルトゥーベが残した成績は実力なくして残せないものです。そんな彼の、どこに注目したのですか?
三井 タイミングの取り方が抜群にうまくて、日本の投手のタイミングにもしっかり合わせてくると思ったんです。身長は168センチと低かったのですが、筋肉の付き方は立派なものでしたから日本なら主軸を問題なくこなすだろうと。

残念ながら160センチ台の外国人選手となるとほぼ前例がなかったこともあって獲得には至りませんでしたが、悪くない見立てだったと自負しています。その後、メジャーでも20〜30本のホームランを打つバッターになりましたからね。もし獲得できていたら、日本プロ野球史における最高の外国人打者になっていた可能性だってあったと思います。

■なにより重要なのは、日本人投手のタイミングに合わせる技術

外国人打者の日本での成功のカギとして三井氏が真っ先に挙げるのが、「タイミング」だ。その違いはわずかなものとはいえ、パワーを活かし強い打球を放つうえで大きく影響するのだという。

——タイミングの取り方の話が出ましたが、外国人打者が日本人投手のボールにタイミングを合わせる際の難しさはどこにあるのでしょう。
三井 外国人投手の多くは、マウンドの上で動き出してから「1、2、3」という均等なテンポでボールを投げ込んできます。でも、日本人投手は始動してから「1、2の、3」という感じで、途中で少し溜める感じがある。

本当にわずかな差なのですが、これが打撃を狂わせるようで、日本人投手への対応に悩む外国人打者はかなりいます。逆のパターンでは、松井秀喜が日本を離れアメリカに渡ったとき、「1、2、3」というタイミングで投げこんでくるメジャーの投手のボールにタイミングが合わず差し込まれ、ゴロが増えた時期がありました。松井は徐々に適応していきましたけどね。

——わずかな差でも、一流のレベルでは見逃せない差になる。
三井 松井のようにアジャストができる外国人選手がいればベストですが、そう簡単にはいきません。でも、もともとのタイミングの取り方が「1、2の、3」のほうが合っているという打者があっちにもいるんですよ。

タイミングの取り方が日本投手に合う場合は、メジャーでパッとしない打者でも才能を開花させるパターンは多々あります。

編成担当をしていた頃は、そういう打者を掘り起こしたいと思いながら、マイナーの試合を回っていました。でも、投手に比べ打者獲得は難しかったというのが正直な感想です。

ジョン・ボウカー(2012年〜2013年在籍)やレスリー・アンダーソン(2014年〜2016年在籍)、ルイス・クルーズ、ギャレット・ジョーンズ(ともに2016年在籍)など、もうひと頑張りしてほしかったというのがほとんどで、なかにはキューバ政府との交渉の末に獲得したフレデリク・セペダ(2014年〜2015年在籍)、ホワン・フランシスコやアレックス・カステヤーノス(ともに2015年在籍)など、戦力にならなかった選手も多くいます。

ある程度の獲得権限を与えられた立場としては、とても悔しい記憶です。

■低めのボールゾーンへの球を見逃せる打者は獲りにいく

三井氏が挙げる、もうひとつの成功する外国人打者のポイントは、低めの変化球への対応だ。日本では、投手を一流と二流に分けるといってもよい低めのゾーンへの変化球の制球力。これに対抗する技術を持っているかどうかに着目することで、外国人打者が日本で見せる姿が浮かび上がってくるのだという。

——タイミングの取り方以外に、なにか注目していた部分はありますか?
三井 低めのボールへの対応です。日本人の投手は外国人投手と比べ球威は欠けますが、厳しいコースに正確に投げるコントロールを備えています。とくに、ベースの上を通しながらボールになる低めの変化球を意識的に投げる技術は、日本人ならではのものではないでしょうか。

メジャーはもう少しアバウトな投手が多いのが実情です。

ですから、低めの変化球を見極めてボールにできる打者はかなり有望です。ただ、そのコースを振ってしまうにせよ、なにかしら自分なりにボールを選んでいる様子が見られれば及第点。やみくもに振ってしまっている打者は厳しいという評価になる。

あとは追い込まれたときですね。2ストライクになったときに頭を使っている様子があるかどうかは重要なポイントです。バットを短く持てとはいいませんが、ときには逆方向を狙うなど、確実性を求めた工夫を見せる打者は評価します。

——タイミングの取り方。低めのボールへの対応。そして、追い込まれたときの対応。このあたりが外国人打者獲得におけるテーマだったというわけですね。
三井 過去の実績を見ないわけにはいかないので、打率であったりホームランであったりはチェックしますが、それ以上に大事なのは数字に表れない対応力ですよね。

日本の各球団には、外国人選手が契約しているエージェントから売り込みの映像が送られてくることがあるのですが、それに収録されているのはホームランを打った場面などいいところばかり…(苦笑)。

ですから、そういう映像は参考になりません。凡打や空振りの内容、ファウルチップといった場面にこそ、その打者の本当の姿を知るためのヒントがあったりするものです。そういうところに目を向けて獲得したほうが、うまくいくケースは多かったように思います。

——今季新たに日本にやってくる外国人打者で、関心を持っている打者は?
三井 巨人にやってくるエリック・テームズですね。28歳で活躍の場を求めて韓国に渡り、3年間で打率.349、124本塁打と大活躍し、その実績でメジャー契約を結び直し4シーズン第一線でプレーました。

彼については韓国時代に調査をしていて、1999年から2004年にかけてヤクルトや巨人でプレーしたロベルト・ペタジーニのような選球眼と長打力を備えているところを高く評価をしました。タイミングの取り方もとても素晴らしかった。

あれから時間が経って年齢を重ね、いま34歳ですか。年齢がどう影響しているかはわかりませんが、日本のプロ野球でどれくらいやってくれるのか、当時の自分の見立ての答え合わせという意味でも興味を持っています。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/秋山健一郎 写真/石塚雅人