本来なら東京オリンピックが行われていたはずの2020年は、新型コロナウイルス感染症の流行によって大きく揺れた年だった。国内の自動車メーカーにも大きく影響し、上半期はほとんどのメーカーの新車販売台数が前年割れする結果になった。

その後、コロナの詳細が分かってくると、都心部では他人と密になる公共機関の利用を避けたり、テレワークを機に郊外に移転する人も出はじめて自動車の需要が増加した。上半期の買い控えの反動もあり、コロナ感染の第二波が落ち着き始めた9月以降は販売も上昇傾向に転じた。

年末年始には第三波が到来し、まだまだ油断できない状況が続いているが、激動の2020年(1~12月)に売れた車は何だったのだろうか?一般社団法人 日本自動車販売協会連合会が発表した人気車ブランドのランキングを紹介しよう。

  • トヨタ ヤリス

    撮影:原アキラ

2020年(1~12月)人気車種、トップ10

順位 ブランド通称名 ブランド名 販売台数
1 トヨタ ヤリス 151,766
2 トヨタ ライズ 126,038
3 トヨタ カローラ 118,276
4 ホンダ フィット 98,210
5 トヨタ アルファード 90,748
6 トヨタ ルーミー 87,242
7 ホンダ フリード 76,283
8 トヨタ シエンタ 72,689
9 日産 ノート 72,205
10 トヨタ ヴォクシー 69,517

※軽自動車および海外ブランド車を除く

■1位:トヨタ「ヤリス」

トヨタの設計思想「TNGA」を導入された「ヤリス」は、国内では長年「ヴィッツ」の名で親しまれた小型の世界戦略車。4代目のモデルチェンジで世界名称に統一されたが、コンパクトカーとはいえどトヨタを代表する車に恥じない性能を備えている。

エンジンは現代の小型車ではスタンダードな直列3気筒を採用し、1.0Lの他に新開発の1.5Lにハイブリッド仕様も加えてパワーと燃費を両立。運転支援や衝突防止機能などのセーフティ機能も充実している。また、ベーシックモデルとは一線を画すSUVタイプの「ヤリスクロス」や、WRカーをイメージさせる「GRヤリス」という強力なバリエーションモデルも展開している。

  • トヨタ ヤリス

    撮影:原アキラ

■2位:トヨタ「ライズ」

2019年11月の発売直後から人気が爆発し、2020年上半期は堂々の1位に輝いたのがダイハツ「ロッキー」のOEM車であるSUVの「ライズ」。

デザインは兄貴分「RAV4」の流れを汲む力強いテイストで、5ナンバーサイズのコンパクトカーとは思えないほど堂々としたものだ。軽自動車を主業としているダイハツのノウハウが注ぎ込まれ、小さな車体に充分なパワー、積載力、省燃費性能を備えている。衝突回避サポートやペダルの踏み間違え防止といった最新車両に必要な安全性能を持ちつつも、200万円前後の価格帯に抑えられているのも大きな魅力だ。

  • トヨタ ライズ

■3位:トヨタ「カローラ」

日本のベーシック・ファミリーカーとして長い歴史を持つ「カローラ」。12代目のモデルチェンジでは3ナンバーサイズになったが、TNGA導入で車体性能を大幅に向上させるとともに、デザインもキーンルックと呼ばれるフロントフェイスを採用してイメージチェンジを果たしている。

一時期は「プリウス」や「アクア」などの陰に隠れがちだったが、他モデルへのハイブリッド普及で名門ブランドも元気を取り戻した。セダン、ハッチバック、ワゴンのボディタイプや多くのバリエーションを揃えて幅広いユーザー層のニーズに応えている。

  • トヨタ カローラ ツーリング
  • トヨタ カローラ クロス

■4位:ホンダ「フィット」

先代と同じく5ナンバーサイズを踏襲した4代目「フィット」は、自動車を運転する際の“4つの心地よさ”にこだわったコンパクトカー。多種多様なユーザーのライフスタイルに適合する5つのグレードを用意し、「クロスター」という人気のSUV仕様もカバーしている。エンジンはベーシックなガソリンエンジン仕様の他、モーターとエンジンを巧みに使い分ける「e:HEV」と呼ばれるハイブリッドもラインナップ。

  • ホンダ フィット

■5位:トヨタ 「アルファード」

「クラウン」や「シーマ」といった高級セダンが少なくなり、その役割を担っているのが高級大型ミニバン。この分野で独り勝ちなのが「アルファード」だ。誰もがそれと分かる押し出しの強いエクステリアデザインに、大型車ならではの広大な空間に豪華なインテリアが大きな特長。安全装備や専用オペレーターによるサービスなど、トヨタミニバンの旗艦に相応しい機能も実装している。

「ヤリス」がトヨタ本家の意地を見せつけるも、今後の自動車メーカーには様々な試練も…

2020年はダイハツのOEM車「ライズ」が上半期のトップに躍り出たが、下半期に「ヤリスクロス」や「GRヤリス」を加えた本家トヨタの「ヤリス」が通年トップの座を奪取した。しかし「ヤリス」のようなボディ・バリエーションや、ハイブリッドを持たなくても好調なセールスを続けている「ライズ」の魅力は底知れないだろう。

メーカー別ではトップ10に7台が入るトヨタが圧勝。ホンダの「フィット」(4位)や、一時期は王者「プリウス」を抜いてトップに立った日産の「ノート」(9位)は上半期の貯金があったからで、下半期の単月ではトップ5以降に後退している。

今だ収束しないコロナの影響もあるが、世界的には半導体不足による自動車の大幅な減産や、カーボンニュートラル推進という潮流の中で、純ガソリン車の販売が規制される可能性も出てきている。車造りにおける根底がひっくり返ればトヨタも安泰とは言えず、EVやモーターで独自技術を持つ日産・三菱連合が再び浮上するチャンスもあるだろう。

次々と課題が生まれる苦況下にあるものの、日本の自動車産業は数多くの困難を乗り越え、世界の頂点に上り詰めた歴史を持っている。インフラ等の整備も必要となるが、従来の常識を打ち破る革新的モデルが登場する日を期待したい。

※ブランド通称名とは、国産メーカーの同一車名を合算したものであり、海外生産車を含む
※上位台数は車名別の合算値となり、一部教習車などを含む(例:ブランド通称名 カローラはカローラシリーズ全車種と教習車を含む)