『新聞記者』で日本映画界のトップを走るひとりとなった藤井道人監督が、ひとりのヤクザの生きざまを20年にわたる3つの時代に分けて描く映画『ヤクザと家族 The Family』(公開中)。少年期に地元の親分から手を差し伸べられて親子の契りを結び、やがて時代に翻ろうされていく主人公・山本賢治を演じた綾野剛と、山本に生きる場所と家族を与えた柴咲組組長を演じた舘ひろしに単独取材。

「舘ひろしという漢(おとこ)に惚れました」という綾野と、「綾野くんは山本を生きていた。僕にはできないこと」と明かす舘が、忘れられないシーンを振り返った。

  • 映画『ヤクザと家族 The Family』で共演した綾野剛(ヘアメイク:石邑麻由 スタイリスト:申谷弘美)と舘ひろし(ヘアメイク:岩淵賀世 スタイリスト:中村抽里)

■「親父に一生を捧げようと思った」(綾野)

――20年にわたる作品です。山本と、柴咲組長を演じるにあたって、それぞれ何を核にされましたか?

綾野:親父です。自分の核はそれしかないです。親父に救ってもらって泣く場面。あそこで惚れました。惚れたし、自分のことを認めてもらえ、生きていていいんだという権利を与えてもらった。それだけで生き続けられました。

――あのシーンの前と後で、山本は変わりましたね。

綾野:ギリギリ生きてきた人間で、何も楽しくないし、何のために生きているのか分からなかった。寄り添ってくれる仲間はいたけれど、でもこいつらと10年20年とこうしていられるのかといったら、できないことも分かっている。何を目的に生きればいいのか全く見えていなかったところに親父と出会った。自分が存在をしていいと認められて、親父に一生を捧げようと生き始めたんです。

舘:柴咲にとっては家族ですね。柴咲組という家族。後半、病室で「こいつら、ヤクザ辞めたら何ができるんだ」という言葉も、刑期を終えてきた山本に「ヤクザを辞めろ」と言うのも、家族だから。映画全体を通じて、家族の在り方というのが貫かれていると思います。

――柴咲自身は、妻や子といった家族を持っていませんね。

舘:柴咲にとっては、たとえば女房は、北村有起哉さん演じる若頭だった。藤井監督は、柴咲には私的な家族はいらないと思ったのだと思います。ヤクザという疑似家族を本当の家族にしたかったのだと。

■「綾野くんには刺激をもらった」(舘)

――本編でおふたりは親子の契りを結びました。共演を通じて感じたお互いへの印象は?

綾野:これまで色んな方々と共演してきましたが、舘さんのような人は出会ったことがないです。

舘:ははは。

綾野:優しい人やステキな人はたくさんいます。でも舘さんは、まずかっこいい。漢(おとこ)として。確かなかっこよさがあるんです。役を通してでも通してないときでも、背中を見ているとビシビシ伝わってくる。なのに軽やかなんです。一般的に、人はだんだん丸くなっていくとか、落ち着いていくと言いますが、舘さんにはすごく美しく研がれた刀が見える。抜刀していないというだけで、切れ味鋭い刀を感じます。本当にしびれました。人としても俳優としても、とても惚れています。

舘:いや、ありがとう。本当にありがとうございます。綾野くんと仕事ができてとても良かったし、たくさん刺激を受けました。綾野くんは、撮影に入ると山本を演じているのではなく、山本として生きているんです。それは素晴らしいこと。僕なんかには全くできないことで、すごく刺激を受けました。

――ご自身より若い役者さんから刺激を受けることはお好きですか?

舘:歳は関係ないですね。それにもともと僕は人から影響を受けたことは少ないです。人としてや俳優としての佇まいだったりは、渡(哲也)さんからは刺激を受けたり学んだりしましたけどね。ほかの俳優さんからは……。強いて言えば、恭さまかな。柴田恭兵くん。『あぶない刑事』をやっていたとき、最初は変なお芝居をするやつだなと思ってたんですけど、後になって、それは僕の彼に対する嫉妬だったと感じたんです。こんな芝居を自分もしてみたいと思ったんでしょうね。でもできない。刺激を受けたといえば、そのふたりくらい。でも今回、綾野くんとやって、すごく刺激を受けましたよ。

綾野:お言葉嬉しいです。今回、主題歌を手掛けた「millennium parade」というチームは、僕よりも10歳年下です。作詞・作曲の常田大希は28歳。彼らがこの作品を観て、涙して、感動して、「自分たちの集大成だ」と言って、『FAMILIA』という曲を作った。

舘:ほう、そうなの。

綾野:歌詞もすさまじくて、日本人でこんなに素晴らしいものを作れる人がいるんだと感激しました。やっぱり年齢じゃない。年齢というカテゴライズでどうしても括りがちですが、僕は舘さんが年上だから惚れたんじゃない。舘ひろしだから惚れたんです。

舘:ありがとうございます(照)。

■ふたりの心に残り続ける、大切なシーン

――本作では今のヤクザたちの生きづらさが描かれていますが、おふたりとも芸能界の第一線で活躍し続けています。生き抜き方を教えてください。

舘:生き抜き方なんてものが分かったら、そんな楽なことはないと思うよ。まあ、僕がいまこうしていられるのは、ほとんど掛け持ちしてこなかったからかな。それだけですね。僕は自分がやった作品は全部ちゃんと覚えています。生き抜き方なんてよくわからないけど、結果として僕がこの歳までやってこられているのは、ひとつひとつの作品に、僕なりに情熱を持って向き合ってきたからですかね。セリフを覚えるといった表面的なことではなくてね。

綾野:僕はそんな語れるところまでになっていません。でも舘さんの言葉を聞いているととても沁みます。ひとつひとつの作品に向き合うって、特別なことをお話しているわけではないのだけれど、でもそれができない若手の俳優時代というのもある。僕自身、7、8年前は5本掛け持ちとかしていました。一人ひとりが作品に愛されて、作品のことを愛せるような関係性を、毎作品で作っていけたら、それはとても素晴らしいことだと感じました。

  • (C) 2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

――最後に、お互いのシーンで、ここは見逃さずに!というポイントを教えてください。

舘:最初にも綾野くんが言っていた、山本が拉致されてボロボロになって帰ってきて、柴咲のところで泣くシーン。それまでずっと突っ張っていた山本がふっと弱くなる。この時の落差というか、そのときの綾野くんの“目”が本当に素晴らしい。野犬が初めて人に心を許して、子犬に返ったかのような目。素晴らしかったですね。

綾野:僕も、僕から見た同じシーンが一番印象に残っています。あの時、親父の後ろに光が斜めに走っていて、扉があって、僕の右側に、どんな顔の角度で座られていたかも覚えている。そして本当に美しいまなざしを、自分に向けてくれた。そのとき、「あ、生きていていいんだ。こんな風に見つめてくれる人と、自分は家族になりたい」と思いました。実はあのときの、「ケン坊、頑張ったらしいじゃないか」という舘さんのセリフはもともとなかったし、僕の頭をなでることも脚本には書かれていませんでした。でもそうしたことが自然に生まれた。あのシーンでの積み立てが、永遠になったんです。だから僕は親父と出会ってからは、ずっと幸せでした。山本を生きられて、本当に幸せです。

■綾野剛
1982年1月26日生まれ、岐阜県出身。03年に『仮面ライダー555』で俳優デビュー。09年、三池崇史監督の『クローズZEROⅡ』で演じた映画オリジナルキャラクターにて注目を集める。翌10年にはテレビドラマ『Mother』での役柄が評判を呼び、12年には連続テレビ小説『カーネーション』にヒロインの恋の相手役で出演し、強烈な存在感を残した。主演映画『そこのみにて光輝く』(14)で多くの賞を受賞。その後も映画『日本で一番悪い奴ら』(16)、『怒り』(16)、『影裏』(20)、ドラマ『コウノドリ』シリーズ(15、17)、『MIU404』(20)など作品ごとに話題をさらい続けている。

■舘ひろし
1950年3月31日生まれ、愛知県出身。76年に映画『暴力教室』で俳優デビューを果たす。82年に出演したドラマ『西部警察』をきっかけに83年に石原プロモーションに入社する。36歳で主演した『あぶない刑事』で大ブレイクし、その後も映画『免許がない!』(94)、ドラマ『パパとムスメの7日間』などでアクションのみならず、幅広い演技で魅了。18年の主演映画『終わった人』ではモントリオール世界映画祭で最優秀男優賞に輝いた。その他の出演作に映画『義務と演技』(97)、『エイトレンジャー』(12)、『アルキメデスの大戦』(19)など。