コロナ禍も葵に影響を与えた。自分を見つめ直す機会になったという人が多いが、葵自身も人生観や仕事との向き合い方に関して考え方が変わったという。

「10歳からこの仕事をしているので、初めて普通の生活が送れたというか、普通の生活を再認識したんです。もちろん自分の意思で今の世界に入り、好きなことができていて幸せだと思いますが、強制的に立ち止まることになった時に、仕事で見せている葵わかな以外の自分はどこにいるのかなと思う瞬間がすごくあって。もう学校も卒業しているので、仕事上の私のことしか知らない人が増えて、素の自分を知っている人は家族くらい。そうなった時に、自分の好きなこと、自分のしたいことがわからなくなってしまったというか、根本的な部分がなくなってしまったかもと思うことがありました。俳優は、普通の一般人を演じる。今回は奥さんの役で、それなのに普通の感覚がないのはすごくダメだなと思い、今までよりちょっとだけ“わがまま”になろうと思いました」

コロナ禍を経て、ちょっとだけ“わがまま”に。もちろんそれは謙虚な葵ならではの表現で、ポジティブに生まれ変われたことを意味している。

「もともと気を使って言いたいことが言えなかったり、言葉にすごく気をつけて回り道して話すタイプなのですが、言ったらどう思われるかなという心配をせず、今回メイクさんにメイクのことを相談できたのも、そういう変化なんです。自分のために何ができるのかという視点が増えたことで、これは嫌だ、これは楽しい、これは恥ずかしい、そういう自分の欲望や感情に、前より少し正直になれた気がするので、いい意味でちょっとわがままになったかなと。喜怒哀楽の感情を自分でも見つめるようになり、お芝居にも生かせるようになったので、いいことなのかなと思っています」

その一方、コロナではあえなく舞台の中止もあった。かつての日常が戻ってはいない日々が続いているが、今はエンターテインメントも以前のようにはいかないが動いており、改めて仕事ができる喜びを感じているという。「やることがあることは楽しいなと思います。いま元気もエネルギーも余りすぎて、やることがないとぼんやりしてきちゃうというか、疲れたり、体調がすぐれないこともありますけど、やっぱりやることがあるほうが生きている感じがして楽しいです」

最近ではミュージカルの舞台にも立ち、ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍中だ。女優業へのやりがいは、デビューの頃とは違う。「いい意味で、このお仕事が自分の中で仕事にカテゴライズされてきた感覚があります。人生と混同しやすい仕事で、たとえばマンガを読み、映画を観ていても、勉強の一部になってしまう。SNSを発信していても、自分の日常が仕事の一部になっていたり、人生と切り離すことが難しい仕事だと思うのですが、自粛の期間にそれを切り離して考えることもできたんです」

それは「いいこと」だと葵は言葉に力を込めて言う。自分の仕事を客観視することで、より高みを目指していけるからだ。

「仕事なので極められるというか、プロとして追求できるようになっている気がしています。もちろん、お芝居がもっともっと上手くなりたいですし、それこそエネルギーの発散のような気もするので、自分のためにも続けたい。でももっと大きなところでは、最近ミュージカルをさせていただいていたり、いろいろなジャンルに挑戦している中で、自分が存在することで何かできないかな、いち演劇人として役わりを果たせないか、そういうことを考える自分がいるんです。そう考えると、単純に良い役を演じたい、上手くなりたいという思いだけではない、大事なことはそれだけではないということが分かってきたことも変化の一つかなと感じています。10年後、どういう仕事しているのかなと、ぼんやり思うこともあります。今、とても充実していて面白いです!」

■葵わかな
1998年6月30日生まれ、神奈川県出身。2009年女優デビュー。その後、『陽だまりの彼女』(13)、『くちびるに歌を』(15)など映画やCMなどで着実にキャリアを積み、2017年、NHK連続テレビ小説『わろてんか』でヒロイン・藤岡てん役を好演し、お茶間の人気を獲得する。2020年に『アナスタシア』でミュージカルの主演も務め、活動の幅を広げている。また、2021年にはミュージカル『The PROM』、WOWOW連続ドラマW『インフルエンス』に出演予定。

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