60歳、あるいは65歳で定年を迎えた後は、時間を自由に使えるセカンドライフが待っているといわれています。しかし、悠々自適の老後生活を楽しみにしている方ばかりではないかもしれません。長生きの傾向や年金財政のニュースなどを見ていると、老後の生活費が不安という方も多いのではないでしょうか。

ここでは、老後の生活にどのくらいお金がかかるのか、老後の生活を豊かに暮らすために今からできる対策をご紹介します。

  • 老後の生活費、単身者と夫婦の平均は? 豊かに暮らすための対策を解説

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老後の生活費の目安は?

そもそも老後とは、いつからを指すのかという明確な基準はありません。とはいえ、多くの場合、会社を退職し、年金や貯蓄をもとに生活を始める頃を指すことが多いでしょう。そのため、およそ60歳、もしくは65歳以上が老後に該当すると考えられます。

なお、一般的に老後にかかる生活費は、子育てが終わっていたり、住宅ローンを払い終えていたりすることが多いため、現役時代よりも下がるといわれています。具体的に老後の生活費はどのくらいかかるのか、老後の生活費の平均額とともに見ていきましょう。

老後の生活費の平均額

実際の老後の生活費については、総務省「家計調査報告(家計収支編)」(2019年)(※1)の結果から知ることができます。なお、下記の消費支出には、税金は含まれていません。

  • 夫婦の老後生活費の平均額 :
    2人以上の世帯のうち、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみ世帯)の消費支出の平均額は23万9,947円となっています。

  • 単身者の老後生活費の平均額 :
    高齢単身無職世帯(60歳以上の単身無職世帯)の場合、消費支出の平均額は13万9,739円です。

老後の生活費の内訳

続いては、総務省「家計調査報告(家計収支編)」(2019年)の老後生活費の平均額の割合をもとに、内訳を算出してみました。夫婦の場合と単身者の場合、それぞれについて見ていきましょう。

<夫婦の老後生活費の内訳例>

条件
・実収入 : 23万7,659円
・可処分所得(税金や社会保険料を引いた手取り) : 20万6,678円
・支出 : 23万9,947円(3万3,269円の赤字)

  • 食費 : 約6万6,500円(27.7%)
  • 交通費通信費 : 約2万8,300円(11.8%)
  • 交際費 : 約2万5,700円(10.7%)
  • 教養娯楽費 : 約2万4,700円(10.3%)
  • 水道光熱費 : 約1万9,900円(8.3%)
  • 保健医療費 : 約1万5,800円(6.6%)
  • 住居費 : 約1万3,700円(5.7%)
  • 家具家事用品代 : 約1万100円(4.2%)
  • 被服および履物代 : 約6,000円(2.5%)
  • その他 : 約2万9,000円(12.1%)

上記を見ると、食費が約6万6,500円と最も多くの割合を占めていることがわかります。一方で、住居費が約1万3,700円と低額なのは、持ち家の方を含めた平均を出しているからです。 また、現役世代に比べると、保健医療費も比較的高い傾向があるといえるでしょう。

<単身者の老後生活費の内訳例>

条件
・実収入 : 12万4,710円
・可処分所得(税金や社会保険料を引いた手取り) : 11万2,649円
・支出 : 13万9,739円(2万7,090円の赤字)

  • 食費 : 約3万5,900円(25.7%)
  • 教養娯楽費 : 約1万6,500円(11.8%)
  • 交際費 : 約1万5,200円(10.9%)
  • 交通費通信費 : 約1万3,100円(9.4%)
  • 水道光熱費 : 約1万3,000円(9.3%)
  • 住居費 : 約1万2,900円(9.2%)
  • 保健医療費 : 約8,400円(6.0%)
  • 家具家事用品代 : 約5,700円(4.1%)
  • 被服及び履物代 : 約3,600円(2.6%)
  • その他 : 約1万5,100円(10.8%)

単身者の内訳でも、もっとも高額になったのは食費で、約3万5,900円となっています。また、夫婦世帯同様、住居費が低額なのは実家住まいの方を含んだ平均のためです。

  • 老後の生活費の目安

    老後の生活費の目安

老後の年金受給額はどのくらい?

老後の年金受給額は、年金加入状況によって異なります。ここでは、2020年4月からの年金受給額の目安をご紹介します(※2)(※3)。なお、2020年4月からの年金受給額は、2019年度よりも0.2%増額となりました。また、年金の計算方法は、2022年4月に改定される予定です。

<2020年4月分からの年金受給額の目安(月額)>

  • 老齢基礎年金のみの場合(自営業者など、国民年金加入者と専業主婦等の第3号被保険者) : 約6万5,000円
  • 厚生年金の場合(平均的な報酬40万円で40年間就業した場合の標準的な額) : 約11万8,000円

ご自身の年金額が知りたい場合は、毎年誕生月に日本年金機構から郵送される「ねんきん定期便」や、日本年金機構が運営するウェブサイト「ねんきんネット」で確認しましょう。

老後の生活費をカバーするには?

総務省「家計調査報告(家計収支編)」(2019年)の老後生活費の平均額を見ると、夫婦2人世帯、単身世帯ともに赤字が出ています。つまり、貯蓄を切り崩しながら生活しているケースが多いということです。しかし、生活費を十分カバーできるだけの老後資金が貯められるかどうか、不安に感じている現役世帯の方も多いでしょう。

続いては、老後の生活費が赤字にならないように資産形成をするために、今からできる対策をご紹介します。

早い段階から老後の生活費を貯める

老後の生活費づくりは、早くから始めるほど効果が高くなります。例えば、300万円を貯める場合、毎月5万円を5年間で貯めることは、生活費を切り詰めてもなかなか難しいかもしれません。ですが、毎月1万円で25年間貯めるという方法もあります。月々は少額でも、時間を味方につけて老後資金づくりを行うことをおすすめします。

ただし、子供がいる場合は、自分たちの老後の前に、教育費を用意する必要があります。家族のライフプランを立てて、いつ、いくら必要なのかを確認した上で貯蓄していきましょう。

定年後の収入源を作る

定年後も、毎月3万~4万円程度稼ぐことができれば、平均的な生活費の不足分をカバーすることができます。特技やスキルを活かして、定年後も稼ぎ続けられる仕組みを作っておくことで、安心して老後生活を送れるでしょう。

生活費を見直して無駄を省く

老後の生活費は、収入を増やすほかに、支出を減らしてカバーすることもできます。固定費に無駄な項目がないかを見直したり、なんとなく習慣になっていた晩酌を減らしたりと、無理なく削減できるところがないか考えてみましょう。

なお、老後の生活費では、教育費と住宅ローンの支払いがなくなる場合が多いです。さらに、国民年金保険料や勤務中のランチ代などがかからなくなる点を意識して、生活費をイメージしておくことがポイントです。

多くの場合、老後の生活は現役時代の生活よりも支出を抑えられる傾向があります。

  • 老後の生活費が赤字にならないように、今のうちから工夫をしましょう

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今からできる老後の資産を作る方法

ゆとりある老後を迎えるために、早いうちから資産形成を意識しておきましょう。最後に、老後資金づくりにおすすめの主な方法をご紹介します。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCoは、自分で行う自分のための年金積立制度です。掛け金、運用益、給付の受取時に所得控除があり、税金が安くなります。現役時代の節税と老後の資金づくりという、2つのメリットがある制度です。

また、運用益に税金がかからないこともメリットのひとつでしょう。自営業者や主婦のほか、会社員でも加入することができます。ただし、原則60歳まで引き出せない、手数料がかかるといったデメリットがあります。

あわせて読みたい : 「iDeCoで節税し、老後の不安を軽減しよう

つみたてNISA

つみたてNISAは、長期的に分散・積立投資ができる非課税制度です。つみたてNISAを利用した投資で利益が出た場合、利益にかかる税金が非課税になるというメリットがあります。

ただし、つみたてNISAの非課税期間は最長20年、投資できるのは年間40万円までという上限つきです。また、つみたてNISAは、2037年までの制度のため、購入できるのは2037年までとなります。なお、2037年に購入した投資信託は、その後20年間、非課税で保有することが可能です(※4)

あわせて読みたい : 「NISAとつみたてNISAの違いとは? 基礎から運用方法までわかりやすく解説

個人年金保険

民間の保険会社が販売している個人年金保険は、定年する60歳や65歳まで保険料を積み立てていき、定年後に年金や一時金として保険料を受け取ります。個人年金保険には、一定期間必ず年金が受け取れる商品や、終身タイプの商品、生きているあいだのみ一定期間受け取れる商品など、さまざまな種類があります。

年末調整や確定申告をすることで、支払った保険料の額に応じて生命保険料控除が受けられます。

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株式投資

株式投資は、企業が発行する株式を購入し、配当金や売却益を得ることを目指す投資方法です。老後資金のために株式投資をする場合は、長期保有を念頭に置いて銘柄選びをするのがおすすめです。

優待や配当利回りがいい銘柄、自分が応援したい企業の株などを、無理のない範囲で購入してみましょう。ただし、株式投資は大きなリターンが狙える一方、リスクとして大きな損失を抱える可能性があります。始める際には、必ずリターンとリスクについて調べてから行うことが大切です。

財形貯蓄制度

財形貯蓄制度は、勤務先を通して行う資産形成制度で、毎月の給与から一定額を天引きし、そのお金を保険として積み立てていく投資商品です。利率や優遇面でのメリットはそれほど高くないものの、給与天引きされるので、貯金が苦手な方でも確実に貯められるというメリットがあります。

ただし、勤め先の企業が財形貯蓄制度を導入している場合に限り、利用することが可能です。なお、財形貯蓄制度は目的別に、「一般財形貯蓄」「財形年金貯蓄」「財形住宅貯蓄」の3種類に分けられます。

あわせて読みたい : 「財形貯蓄で自動的にお金が貯まる! お得な制度を徹底紹介

  • ゆとりある老後を迎えるために、早いうちから資産形成を意識しておきましょう

    ゆとりある老後を迎えるために、早いうちから資産形成を意識しておきましょう

豊かな老後のために資産形成の準備を始めよう

豊かな老後を過ごすためには、ある程度の資産を作っておくことや、定年後も稼ぎ続けるための仕組みづくりのほか、お金を稼げるスキルを磨くことなどが必要です。老後の生活のためにできることは先延ばしにせず、思い立ったときに準備を始めることをおすすめします。

また、老後の資産づくりには、iDeCoやつみたてNISA、財形貯蓄制度など、さまざまな方法が利用できます。それぞれの特徴を理解して、自分のライフスタイルやライフプランに合った方法を選ぶことが大切です。安心して老後を迎えられるように、ぜひ活用してください。

参照
(※1)総務省統計局「家計調査報告(家計収支編) - 2019年(令和元年)平均結果の概要
(※2)日本年金機構「60歳台前半(60歳から65歳未満)の在職老齢年金の計算方法
(※3)日本年金機構「令和2年4月分からの年金額等について
(※4)金融庁「つみたてNISAの概要