「押さえる」と「抑える」どちらも同じ読みをする言葉です。同じような意味だと捉えている方も少なくないのではないでしょうか。実は2つの言葉は意味が異なっており、使えるシーンも明確に異なります。
本記事では、「押さえる」と「抑える」それぞれの意味を確認し、その違いや使えるシーンを解説します。
「押さえる」と「抑える」の意味の違い
「おさえる」と聞いたとき、あなたはどのような漢字を思い浮かべるでしょうか。日本語には音が同じでも漢字やイントネーションによって異なる意味を持つ言葉が多くあります。「抑える」と「押さえる」もそのひとつです。 まず、それぞれの言葉の意味をおさえていきましょう。
「押さえる」とは
押さえるとは「ものが動かないように押し付けて力を加える」という意味の動詞です。または「耳を押さえる」「傷を押さえる」など、出入り口に当てて覆うという意味も持っています。他には「対象の動きを封じる」「確保する」「大切な部分を把握する」という意味もあります。
「揺れるカーテンを押さえた」や「侵略を押さえた」「要点を押さえる」など、物理的に力を加えたり、手を当てたりして押し留める、自分のものとするというようなイメージで覚えておくといいでしょう。
「抑える」とは
抑えるとは「一定の水準を超えないように留める」という意味を持っています。「怒りを抑える」や「価格を抑える」など自分で意識しなければどんどんと上がってしまうものを抑制するといったイメージです。また、「ピッチングを抑える」など「正常な状態に戻す」「鎮める」という意味あります。
「抑」の漢字を用いた言葉に「抑圧」「抑制」があるように、「抑える」は「込み上がってきているものを食い止める」といったニュアンスで覚えておきましょう。
「押さえる」と「抑える」の使い分け
「押さえる」と「抑える」の使い分けで迷ったら「対象をコントロールできるか」を考えましょう。「押さえる」は、「紙を重りで押さえた」「予約を押さえる」など、対象を自分でコントロールするときに用い、一方の「抑える」は、「感情を抑える」「相手チームの反撃を抑える」など、自分では制御しきれないものに使います。
以下では、例文を使って両者の使い分けを解説していきます。
「証拠をおさえる」はどっち?
警察ドラマや推理小説でよく目にする「証拠をおさえる」という文章。この場合は「押さえる」を使います。
「証拠を押さえる」という言葉は「証拠を掴む」という言葉に言い換えることができます。実際に物体として手で掴めるものではありませんが、掴んだ証拠は自分のコントロール下に置くこともできます。「確保する」という意味合いが強いため、この場合は「抑える」よりも「押さえる」という漢字にするのが適切です。
「感情をおさえる」はどっち?
ふいに怒りが湧いてきたり、映画を見ているときに涙が出そうになってしまったり。「感情をおさえる」という言葉はそのようなときに使用します。
先ほどから何度か例文でも紹介していますが、「感情をおさえる」の場合は「抑える」が適切です。おさえた感情は自分でコントロールできるものではありません。ふとしたときにまた涙が出てしまったり、怒ってしまったりする可能性もあります。
このようなときは、動き回るものをおさえつけるというわけではなく、込み上がって膨らむものを食い止めるというニュアンスの「抑える」を使用しましょう。
「涙をおさえようと目頭をおさえた」はどっち?
なかなか紛らわしい文章ですが、この場合、「涙」と「目頭」にふさわしい漢字はどちらでしょうか。
涙は「込み上がって」しまい、「自分ではコントロールできないもの」です。「目頭」は自分で物理的に「おさえつける」ことができますし「コントロールすることが可能」ですよね。
この文章の場合は「涙を“抑え”ようと目頭を“押さえ”た」が正しい漢字となります。
「押さえる」と「抑える」を間違えないように注意
音が同じで間違えることが多い「抑える」と「押さえる」。意味合いも似ているので、しっかり整理しなければ混同してしまいがちです。「押さえる」には「確保する」「手を当てたり覆ったりして動けないようにする」という意味があり、「抑える」には「抑制する」「込み上がるものを押し留める」という意味を持っています。
判断に困った場合は「対象をコントロールできるか否か」で考えるのもいいでしょう。自分のコントロール下における場合は「押さえる」、コントロールしきることができない場合は「抑える」を使います。間違えないように注意してください。
日本語は表記によって意味合いが違い、文字を書く際やPCなどの変換の際にも迷ってしまいがちです。ひとつずつ確認しながら意味を「押さえて」、日本語をより正しく使えるよう努力していきましょう。
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