●普段と違う観点の歌に挑戦した、矢野達也からの”課題曲”

――続く「empty」は、自ら作詞を手掛けられたシティポップです。

今回はある作品からすごくインスピレーションを受けまして。それに登場する女の子を主人公にして、そこに私の解釈や自分の価値観を混ぜていくという初めての挑戦をしたんですよ。なので、作詞には普段以上に苦戦してしまいました。

――序盤だけだと強い女性を描いたものかと思いきや、実はそうでもなくて。

そうなんですよ。最初はちゃんと自分を持っていてまわりにも全然興味がなかった女性が、出会った相手から自分にはない価値観や自分が諦めていたものを改めて感じさせてもらったり教えてもらったりして、少しずつ柔らかくなっていく……みたいなイメージなんです。

――歌うときも、そのイメージを大事に?

はい。最初は「もう人生どうでもいいわ……」ぐらいの(笑)、ちょっと冷めちゃってる感じから始まるんですが、サビでは「ばかだ」って悶えたりしますし、後半になればなるほど自分の価値観も変化していって彼に対しての気持ちもすごく大きくなっていくので、そういった感情が爆発するところが聴く方に伝わるように……というのを意識しました。

――そして「オービタル」は、テンポも速くてボカロ風の楽曲にも感じられました。

私自身がボカロ世代で学生のときに好きで歌っていたので、これも自分の中にある音楽には変わりないと思って。それに、現状に満足せずに、今の自分に歌えなさそうな曲を歌えるようになりたかったというのもあったので、今までのフィールドからはみ出たことに挑戦させていただきました。

――まさに、”修行”のような……。

そうなんですよ! しかも、この曲を手掛けてくださった矢野達也さんからは最初に1コーラスだけいただいたんですけど、あとからいただいた後半部分が全然違うものになっていて!(笑)。でも、矢野さんは毎回私に課題曲みたいなものを出してくださる方なので、きっと「駒形さんなら歌えるんじゃないか?」という期待を込めて……あと、矢野さんの楽しくなると「もっともっと!」ってやっちゃう無邪気なところも出て(笑)、この形になったんじゃないでしょうか。

――歌うなかで、駒形さん自身が新しく試みられたことはありますか?

聴いたときの語感やリズムがより大事になる曲のように感じたので、歌詞の意味も踏まえたうえで、より言葉が音として曲に馴染むことを意識しました。なので、あえてはっきり歌わなかったりぼそぼそ歌ってみたり、普段ならファルセットで綺麗に出すようなところをあえて地声でギリギリ汚くなりそうな声で歌ったり……と、本当に今まであまりやってこなかった表現をしていきましたね。

●駒形も彼女のファンも意識された、華やかな”夜”の歌

――そこに続く「Love is Action!」が、BURNOUT SYNDROMESの熊谷さんが手掛けられた曲なんですよね。

そうなんです。以前番組で共演させていただいたときに、熊谷さんが私が歌っていたキャラソンをすごくたくさん聴いてくださっていると教えてくださったことがきっかけなんですけど、最初の打合せの時点ですでに曲を作り始めていたりとすごくはっきりイメージをお持ちだったようで。それに私も、引っ張っていただきました。

――「オービタル」とはまったく雰囲気の違う、ファンタジックかつドリーミーな曲になっています。

私の中には、”夜のアルバム”の曲にこういったイメージがなかったんですけど、”夜”というものへの感じ方も人の数だけあるから、こういうハッピーな夜ももちろんあるなと気づいて。だから、すごく「いいなぁ」と思いました。

――歌声のアプローチも、この曲ならではのものになっていますね。

はい。ただ、実はこの曲、「Night Walk」とはまた別のベクトルですごく思うがままに歌えた曲といいますか……私ってきっと、ロジカルにやるタイプではなくて。曲から受けたインスピレーションで自分の中にあるものが自然と出てきて、それを掘り下げたり膨らませたりしていくタイプだと思っているんですけど、この曲は本当にそれがスムーズにいった曲でした。だからこの曲は、現時点での自分の集大成のような曲になりましたし、そう言えるような表現ができました。

――もしかしたら元々、熊谷さんの中に歌ってほしい曲の理想像があったのかもしれませんね。

そうですね。しかも歌詞の中には私の好きな映画のタイトルも入れてくださいましたし、「『もっと勇気を持って、一歩踏み出していろんなことをやっていいんだよ』というメッセージを、駒形さんがファンの人に向けて歌うことに意味がある」と、控えめで真面目な方の多い私のファンのことまで大事に考えて「Love is Action!」というタイトルの曲にしてくださって……すごく感動しましたし、とても大切な曲になりました。