出演キャスト全員がVTuberのワンシチュエーションサスペンス映画『白爪草』。「エンタメ業界をVTuberでいち早く元気にしよう!」というスローガンのもと制作され、2020年9月19日から2週間限定で池袋HUMAXシネマズ・109シネマズ大阪エキスポシティの2館にて上映。池袋HUMAXシネマズの週間映画ランキングでは1位を獲得するなどの反響を呼んだ。

そんな本作の製作委員会が、今後、同作をミニシアターで上映した場合、チケット興行収益全額を各劇場の収益にすることを発表。この取り組みは、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、苦境が続くミニシアターの存続を支援したい、という製作委員会の想いから実施されるもの。このミニシアター支援プロジェクトは2021年3月末日まで続くという。

  • 西垣匡基(にしがきまさき)。演出家・脚本家・ディレクター。コメディドラマを得意とし、バラエティ番組の構成も手がける。VTuber映像の黎明期からたずさわり、今作が長編映画デビュー作となる(左)
    宮川宗生(みやがわむねお)。2004年にホリプロ入社。マネジメント事業部にて俳優女優のマネージャーを11年務め、2015年に映像事業部に異動。プロデューサーとして連続ドラマ『グッド・バイ』『W県警の悲劇』や映画『FOR REALーベイスターズ、クライマックスへの真実。ー』『浜の朝日の嘘つきどもと』『Bittersand』などを担当
    取材協力:ホリプロインターナショナル 皮籠石亮

本取り組みと本作の魅力を伝えるべく、マイナビニュースでは製作スタッフ・出演者にインタビューを実施。第1弾の今回は、監督の西垣匡基氏とプロデューサーの宮川宗生氏に、本映画の制作経緯や、支援の取り組みを行うに至った経緯などについて話を聞いた。

なお、第2弾インタビューでは、主演の電脳少女シロが登場する。

●映画製作のきっかけは「電脳少女シロ」

――映画『白爪草』プロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。

宮川 もともと別件でもう一人のプロデューサーと話をしていたときにVTuberの話が出て、「VTuberさんと一緒に映画を作れたらいいね」という話をしたのがスタートだったんです。その時はまだ出口も固まっていない状況でしたが、「やるからにはスピード感を持ってやりたい」という話はしていました。

ただ、映画を形にするのは簡単なことではないので、諸体制を考えていたんです。そんなときに、新型コロナウイルス感染拡大の知らせ。様々なエンタメが自粛を余儀なくされました。

一方でこのプロジェクトは、むしろ自粛期間が明けた時に、いち早く楽しんでもらえるものとして提供したいと思ったんです。それまではフワッと話を進めていたんですけど、一気に上映に向けての話を加速させていきました。

――エンタメの自粛が余儀なくされているなかでも、エンタメを止めてはいけないと思った。

宮川 そうですね。こういうときだからこそ、エンタメ業界を盛り上げたいと思って。変な話、ふわふわしていた企画のコンセプトが「VTuberさんのお力を借りて、エンタメ界を盛り上げるものにしよう」という方向で固まったんです。

――少し話が戻ってしまいますが、そもそも、シロさんと一緒に映画を作れたらと思った理由は?

宮川 実は弊社、90年代から伊達杏子というバーチャルアイドルが所属していたんですよ。でも、当時はちょっと早すぎたみたいでして(笑)。その伊達杏子の娘であるVTuber・伊達あやのも、いま弊社に所属しているんですよ。僕はその縁があって、2019年3月に伊達あやのの番組に出演したのですが、その時にVTuberの面白さを知ったんです。

そういう背景があるなかで、もう一人のプロデューサーから映画起用にあたっておすすめのVTuberがいることを伺い、それがシロさんだったんです。シロさんは私が所属する部署が制作に関わっている『超人女子戦士 ガリベンガーV』にもレギュラー出演して頂いていて、そういった色々なフィールドで活躍する彼女を見て、一緒に映画を作りたいなと思ったんです。

――作品の内容決めなどを含め、製作はどのように進んでいきましたか?

宮川 予算的にも表現的な面でも制約があるなかで、どのような作品にするのか、という話し合いから始めました。……というよりも、このプロットづくりの部分に一番時間をかけたと思います(笑)。プロデューサー陣と脚本家の我人祥太さんと話し合っていく中で、ワンシチュエーションで展開することなどの骨格を決めていき、そこから監督に加わってもらったという流れになります。

――監督は全キャストがVTuberのみという本プロジェクトを知ったとき、どのように思いましたか?

西垣 印象としては、舞台っぽく考えたらいいのかなと思いました。制約が多く、ワンシチュエーションならば、想像の余地があるようにすれば楽しいものが作れそうだと思って。そもそも、物語以外にVTuberが初主演するなどのレイヤーがいっぱいあったので、その時点で既にドキュメントとして、面白いなあと思いました。

――実際に製作していくなかで難しかった点や苦労した点は?

西垣 苦戦してばかりでした(笑)。プロデューサーに滅茶苦茶迷惑をかけたと思います。というのも、作業工程が分かっているようで分かっていない、不思議な感覚だったんですよね。会議では「これくらいで撮れるんじゃない?」って予測をするのですが、実際にやってみたら何倍も時間がかかっちゃって。

――それはVTuberと、リアルの人間による違いからくるズレ?

西垣 そうですね。カメラも4、5台使って、一気に撮って処理するので、単純に人手も体力も必要なんです。そうすると、予算もかかってきて、なおかつご時世的にテレワークでの作業が多かったので、想定していないことがたくさん起き、だんだんと予定がズレていって……。

もうあまりにも出来なさ過ぎて、絶対に駄目なんですけど「公開日ズラしてもらえませんか?」っていう相談までしたんですよ。そしたら、宮川さんから「それをやったら崩壊しますよ」と言われ目が覚めて(笑)。「そうだ、そうだよな」と思い直しました。

――それほどまでに切羽詰まっていたんですね……!

西垣 ただ、相談したら皆さんが人員を配置してくださって。何回も宮川さんから「ウルトラC出しますか」って言って頂きました(笑)。

宮川 何回かね(笑)。

西垣 本当に誰かが「無理だ」って言ったら、きっと期間内に完成しなかったと思います。

宮川 僕としては、制作していく中で、作品をより高めていこうっていう「監督魂」を発揮していただけたのが嬉しくって。そういう想いが作品にも表れたと思っています。

西垣 当時は、怒られると思っていましたが、今そう言ってもらえて本当によかったです(笑)。

●あえて綺麗にならないようにする「ノイズ」

――続けて、製作をするうえでこだわった点について教えてください。

西垣 今回の映画では、ノイズをずっと入れようと思っていたんですよ。

――ノイズ……?

西垣 映画を観るときって、どこか緊張すると言いますか、ちょっと構えちゃうじゃないですか。その敷居を下げたくって。だから、冒頭に音楽で人の声の息を入れてもらったり、芝居も、1テイク目のものや、本番前でまだ声が立ち上がっていない状態のものを採用したりして、あえて綺麗にならないようにしました。

カット割りも、一筆書きみたいに、ざっとやっちゃっています。それは時間がなかったとかそういうことではなく、そうすることで、VTuberというアニメーションに、生きている感じが出る気がしたからなんですよね。それが、ノイズです。

――表現として適切かどうか分かりませんが、「生っぽさを残す」みたいな感じ?

西垣 そうですね。「芝居をしている」感が出ちゃうと、一気にこの作品が観られなくなる気がしたんですよね。

――実際に、主演のシロさんのお芝居はいかがでしたか?

西垣 今回、シロちゃんはちょっと普通じゃない双子の役を演じているんですけど、それがちゃんと成立していて、感情が上手く表現できているんですよ。いま、しれっと言葉にしていますけど、こういう役って、できる人は意外と限られていると思います。

そういう難しい役もこなせる対応力、そして準備してくる姿勢がとにかくすごい。例えば、僕が「もうちょっと優しめで」と伝えたときに、すぐに何パターンもその声の芝居ができるんですよ。言い方が正しいのかは分かりませんが、化物だなと。異様なものに触れている感覚に陥りましたね。ああいうタイプの役者さんって、そうはいないと思います。

――監督から見て、役者としての魅力も感じた。

西垣 大いに感じました。

――そういう意味では、もちろん絵はいわゆるアニメーションですが、「VTuberが芝居をしている」というのを変に意識しすぎなくても見られる映画になっている?

宮川 そうですね。企画が立ち上がった当初、もちろんシロちゃんやVTuberファンの方々に楽しんでいただこうという想いはありました。一方で、VTuberを知らない人たちにも、純粋にワンシチュエーションサスペンス映画として楽しんでもらいたいという想いもあって。それが、そこまでVTuber業界に特化してない、いち映像制作会社のうちがVTuberさんとご一緒させていただく意味でもあると思ったんです。よい化学反応になればと考えていました。