●映画の魅力は「没入感」

――製作について聞いてきましたが、改めておふたりが本作を通じて伝えたいこととは。

西垣 「没入感」ですかね。スマホやSNSや仕事のこと、そういうのを断ち切って70分の映画を純粋に楽しんで欲しいです。そのために、展開もテンポ感もあえて速くしていますし、音なども含めてすべて「没入感」を意識しました。

宮川 別に監督と示し合わせたわけではありませんが、僕も「没入感」ですね。本作は劇場に足を運んでいただき、大きなスクリーンで見てもらうことを想定して製作しました。だからこその「没入感」です。いま、世の中に色々な想いが巡る中で、それら全てを忘れさせてくれる旅に連れていってくれる、ある種、映画館がそういう異空間になる。本作がそういう作品になればという想いは、常に持っていました。

――本作は、チケットの興行収入全額を各シアターの収益にするという取り組みもされています。それも、作品に込めた想いなだと感じました。こういった取り組みに踏み切った理由についても教えてください。

宮川 自粛が緩和されたものの、ミニシアターさん全般がまだ苦戦しているということを耳にしました。一方で、ミニシアター支援のために立ち上げられた任意団体「ミニシアター・エイド基金」さんや、「#SaveTheCinema 『ミニシアターを救え!』プロジェクト」といった、ミニシアターを支援する施策が、早くに動いていたんです。

映像製作やエンタメに関わるいち人間として、そういう動きって本当に素晴らしいなと思って。リスペクトの気持ちも込めて、我々も何かできないかと委員会で話したところ、今回の取り組みを行うことにしました。また、色々とチャレンジした作品でもありますので、一人でも多くの方に目を向けていただきたくって。だから、もう採算は置いておいて、ちょっとでも上映していただけるミニシアターが増えて欲しいと願っています。今までにない施策だと思いますが、どうにか形になれば、と思っています。

――それが、エンタメを止めないことに繋がると信じている。

宮川 はい。新型コロナウイルスの感染が拡大するなかで、エンタメ業界がバッシングされることも決して少なくありませんでした。世の中が、そういう気持ちになってしまうのは仕方ないと思いながらも、、やはり悲しい気持ちもあって。作る側として、エンタメの魅力や恩恵をもう一度掘り起こしたいという想いは強くありました。

●エンタメは能動的なものへ

――そのエンタメのひとつとして、本作でも核となっているVTuberの活動が挙げられると思います。おふたりは本作に関わってみて、VTuberというエンタメにどのような魅力や可能性を感じましたか?

西垣 VTuberって、見ている方々が応援して育っていく、もしくは一緒に育っていくような「参加感」があると思うんです。それは、俳優さんを応援している感覚とは微妙に違う。もっと身近な存在と言えるかもしれません。

そんな応援しているVTuberが、役者として芝居をしている。何とも言えない不思議な感覚をこの映画を通じて体感した方もいらっしゃったのではないかと思います。今後、こういう映画が増えるかもしれませんね。VTuberによって、インタラクティブなメディアがより切り開かれるような気がします。

宮川 VTuberさんとガッツリお仕事をご一緒させていただき感じたのは、ファンの強さ。まず、シロちゃんが映画に出演すると発表したとき、皆さんの喜びの爆発力がすごかったんです。公開に至るまでの道のりでも、シロちゃんを温かい眼差しで見守り、のし上げていこうっていうバックアップ感がすごくって。

いざ公開となって、初日に劇場に足を運んだところ、ファンの方々が上演後に拍手してくださったんですよ。劇場のスタッフさんは「物販ではファンの方が譲り合いの精神を持って、マナーよく並んでいらっしゃいました」と話していました。そういう温かい空気って、色々なことを飛び越えてプラスなことに派生していく力を秘めていると思うんです。VTuberによっていい波長の空気が広がっていく、その可能性を感じました。

――おふたりにとって、エンタメはどういう存在でしょうか。

西垣 僕は、もう「受け取るもの」ではなくなってきているのかな、と思っています。テレビが中心のエンタメだったときは「受け取る」という印象を僕は強く持っていたのですが、インターネットの普及によって、見る側が自分で「選び取る」ものになってきたと感じています。

これからエンタメは、自分で楽しみ方を見つける、より能動的なものになってくるんじゃないかな。例えば、作品を考察して楽しむ、スピンオフを自分の中で作るなどの動きがより活発になる気がします。個人的には、面白い時代になったなあと思いますね。

宮川 ある記事で知ったのですが、子どもって1日に300~400回ほど笑うらしいんですよ。一方で、大人は1日で15回くらいしか笑わない。それは、子どもにとっては、触れるもの全てが新鮮な驚きと感動を得るもので、喜怒哀楽の感情を揺さぶられるものが多いからだと思うんです。

大人になるにつれて、その感動や感情の揺さぶりは、どんどんデクレッシェンドになっていくんでしょうね。ただ、エンタメは、そういう喜怒哀楽の感情をもう一度呼び起こしてくれるものだと思います。

――自粛期間中に家で過ごしているとき、一日中笑わなかったという人も決して少なくはなかったかもしれません。

宮川 だから、家でも映画なり演劇なり音楽なり、何かのエンタメに触れて、喜怒哀楽を引き起してもらいたい。それって、人生においてもすごく大切なことだとも思うんです。エンタメが感情を揺さぶり、人生を豊かにするチカラになる。提供する側として、そのチカラを信じています。

(C)映画「白爪草」製作委員会