ドラマでは、オンラインゲームで出会った顔も声も知らない相手に恋をする姿が描かれるが、そこへの共感は「現時点において僕にはない」ときっぱり。

「SNSをやって世界中に向けてつぶやいている人は、どこかで誰かとつながりたい、もしくは“いいね”の評価をされたいという欲求があるんですよね」と理解しつつも、「僕は知らない人とつながりたいと思わないんですよね」という。

その背景は、「悪口が嫌いだから。スルースキルが足りないので、自分の悪口や陰口を見たくない。僕の日常や気分を害されたくないですから。それに、以前エゴサーチしたときに、事実と異なる情報やコメントを見た経験もあって、そういう文章を添削したくなっちゃう(笑)」と、SNSと距離を置くようになった経緯を明かした。

■“入れ物が変われば形も変わる”という存在でありたい

直前のクールには『半沢直樹』(TBS)という国民的ドラマに出演していたが、9月は『#リモラブ』と撮影が同時進行だったという。

「『半沢』のクライマックスと『#リモラブ』の昭和オヤジを同時にやってました(笑)。忙しくて寝不足で疲れもしますけど、作品ごとに色を変えて、まさに水のように“入れ物が変われば形も変わる”という存在でありたいですから、表現者としてはそれがなんとも楽しいです」

役の切り替えで苦労することは「あまりないです」といい、むしろ充実感になっている。

「もちろん、僕という個人から発信しているパフォーマンスなので、重なる部分はあると思うんですよ。付けヒゲでもしない限り顔も変えられないし。ただし、着ているスーツやヘアスタイルなどでキャラクターデザインに成功していれば、パッと見でまず違うし、発声も歩き方も違う。だから、感覚としてはコスプレに近いですね。既存のキャラクターを演じるわけではなく、自ら生み出したり監督と話し合って作り上げていく架空の人物のコスプレ。だからこの仕事はやっぱり楽しい。良かった僕、俳優をやってて(笑)」

■初対面の江口のりこと戦友の意識

今作に出演する江口のりこは、『半沢直樹』で国土交通相を演じていたものの同じシーンがなかったため、「こっちの現場で初めてあいさつされました。『江口のりこです、よろしくお願いします』って言われても、こっちは知ってる気になっちゃってるんだよね(笑)」という感覚。

それでも、「なぜか共に戦った仲間として、普通に仲良くお話ししました。『撮影の方法も現場の雰囲気も全く違って、びっくりですよね』みたいなことを言ってましたね」と、自然と打ち解け合った。

ちなみに、『半沢』で演じた渡真利忍は、融資部にいながらその仕事を全然していないと視聴者に指摘されて話題となったが、「そういう意見は頂きましたけど、そもそも本当に銀行員が働いている姿をドラマで流したって、誰も見ないよ!? デスクワークで伝票整理してるところ撮ったってしょうがないじゃない(笑)」と反論。今回の人事部長・朝鳴肇も「特に働いてないけどね(笑)」とのことだ。

今回の“明るいラテンの昭和おじさん”というキャラクターを演じるにあたり、「存在の軽さ、重厚感のなさ、軽妙な人間として薄っぺらい感じが出たらいいなと思うし、それを楽しんでいただけたら」という及川。

「僕自身が薄っぺらい人間だからこそ出る味わいもあると思うんですけど、演技ですからね(笑)」と強調しつつ、「ついこの間まで放送していた『半沢直樹』とはまた違う空気感、面白みを味わっていただきたいな」と呼びかけている。

●及川光博
1969年生まれ、東京都出身。 96年、シングル「モラリティー」でアーティストとしてデビューし、“ミッチー”の愛称で人気を集める。98年にはドラマ『WITH LOVE』で俳優活動をスタートし、『白い巨塔』(03~04年)、『相棒』シリーズ(09~12年)、『半沢直樹』(13年・20年)、などのドラマに出演。アルバムリリースや毎年全国ツアーを行うとともに、ドラマ、映画、CMなどで活躍する。