コメディからシリアスまでどんな作品でも特別な存在感を放ち、見るものを虜にしてしまう女優・伊藤沙莉。声優として参加したテレビアニメ『映像研には手を出すな!』の演技も絶賛されたが、劇場アニメ『小さなバイキング ビッケ』(10月2日公開)では主人公の男の子・ビッケ役に抜てきされ、また新たな扉を開く。不遇の時代を経て、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで突き進んでいる伊藤は、「昔の名残なのか、今でもお仕事をいただけること自体が夢見心地。いただいたお仕事は全部やりたいくらい!」と意欲満面。「大きな壁が立ちはだかるほど興奮する」という、女優業への熱い思いを明かした。

  • 伊藤沙莉

『SING/シング』(16)『怪盗グルーのミニオン大脱走』(17)のスタッフが手がけた本作。小さくて力の弱い少年・ビッケが、魔法の剣の力で黄金に姿を変えられてしまった母を救うため、海賊長の父とその船員たちと共に大海原へと冒険に旅立つ姿を描く。

少年役という新たな挑戦となったが、伊藤は「ずっと男の子役をやってみたいと思っていた」と告白。「声のお仕事をさせていただくようになって、取材などで『次はどんな役をやりたいですか?』と聞かれると、『男の子』と答えていたんです。『わー!』と言いながら戦ってみたり、必殺技を出してみたり。そういった男の役に憧れていたんです。なので、その夢がこんなに早く叶って『どうしよう』という感じで……」と恐縮しきり。

「ビッケは、自分の抱いている夢や目標を“遠いもの”として見ていない。純粋でピュアなところが、とても魅力的」と声を弾ませるが、役作りでは“男の子”という性別よりも、年齢設定を大切にしたと話す。

「小学生くらいの頃って、声の高さについては、男の子も女の子もそんなに変わらないのかなと思うんです。それこそ、私みたいに男の子よりも声の低い女の子もいると思いますし(笑)。音響監督さんからは、『年齢設定を固めるほうが大事。“ビッケは10歳なんだ”ということを、丁寧に演じてほしい』というお話があった」そうで、10歳の子供を演じるために、試行錯誤を重ねた。

「自分の中にある童心を無理やり引き出して。遊んでいるときの子供を思い浮かべると、目線が上に向いているのかなとも感じて。とにかく上を向いて演じようと思っていました」。アフレコは、「死に物狂い。たくさん練習したけれど、すごく緊張してしまって『どうしよう!』って(笑)」。

緊張をほぐしてくれたのは、父親役の三宅健太の存在が大きいという。「休憩時間には、三宅さんが『本当にいい声だよね』と話しかけてくださって。私がガチガチなのをわかってくださっていたんですよね。そうやって話しているときは軽やかな口調なのに、本番になると、どこからあんな声を出しているんだろうと思うくらい、野太い声を出される! プロだなあと思います」とニッコリ。

「アフレコ現場では、アプローチの仕方やアドリブの入れ方など、自分の考えてきたものを持ち寄って『こうするのはどうでしょう』と提案する声優さんの姿をよくお見受けします。実写の現場も声優業の現場も、本当に勉強になることがたくさんあります」と刺激もたっぷり受けている。

テレビアニメ『映像研には手を出すな!』の浅草役では、個性的なキャラクターを躍動感たっぷりに演じ、原作ファンからも高評価を得た。「やっぱり認めていただくということは、すごくうれしいこと。飛び込んでみて、本当によかったと思います」としみじみ。

以前は自身の声にコンプレックスを感じていたこともあるそうだが、女優業、声優業を通じて「この声だからこそ、できることがある」と知った。今では「この声で生まれて、どうせずっと付き合っていくのなら、楽しいことをしたいなと思っています。自分の声を否定しちゃいけない。大事にして、肯定し続けていきたい」と力強く語る。