新型コロナウイルス対策として、今やテレビ番組の収録に欠かせない「アクリル板」。ただセットの中に置くだけでなく、実はさまざまな工夫が凝らされており、この数カ月の間で演出のアイテムとしても進化を遂げていた。

飛沫拡散を防止するための透明な板を、制作現場ではどのように活用しているのか。数々の人気番組でセットデザインを手がける、フジテレビ美術制作局デザイナーの鈴木賢太氏に聞いた――。

  • 番組ロゴを装飾した『IPPONグランプリ』のアクリル板 (C)フジテレビ

    番組ロゴを装飾した『IPPONグランプリ』のアクリル板 (C)フジテレビ

■台座の色にもバリエーション

実は、もともと音楽番組で使用されていたアクリル板。これは、バンドで互いの音が干渉しないように、ドラムの周りなどに立てられていたものだ。これがコロナの飛沫対策としても使えるという話になり、ニュース、情報、バラエティと、あらゆる番組で需要が大きく伸びている。

一概に「アクリル板」と言ってもさまざまな種類がある。映り込みを低減する低反射率のものだと、くすみが出てしまうというデメリットも。かたや、低反射率でないものを使用する際は、置き方の角度を変えるなどして映り込みを減らす工夫が必要になるという。

アクリル板を立てるには台座が必要で、主に黒、白、金の色味があるそう。それぞれの番組特性に合わせて、色がチョイスされている。

■『ENGEIグランドスラム』芸人のネタに局の個性が

漫才コンビの間をアクリル板で仕切る『ENGEIグランドスラム リモート』 (C)フジテレビ

このアクリル板が大いに活躍した番組といえば、緊急事態宣言下で収録された『ENGEIグランドスラム リモート』(5月23日放送)だ。漫才コンビの間にアクリル板を置くというスタイルを初めて導入した。

それだけでなく、芸人がせり上がってくるフジテレビの「8」マークを模した台をワイドに広げ、その上から降りてくるアプローチの階段まで、ずっとアクリル板で仕切った。さらに、リモートの観覧客をモニターに表示するという徹底ぶりだったが、「“対策やりすぎ”と言えるようなところまでやるというのをディレクターが提案してきて、あの形でやることができました」と明かす(鈴木氏、以下同)。

コントでも、登場人物たちがソーシャルディスタンスを取るスタイルになり、ハナコには、取調室の外から片方からだけ見えるという設定の窓で仕切るセットを、アクリル板を使って製作。「ハナコさんからの『こういうことできますかね?』という提案に対し、ディレクターが『うちのルールの中ではこういう状態ならOKです』というのを“笑える中で収まっているのか”を検討しながら、まさにコラボレーション状態でネタを作っていました」という。

各局でネタ番組が放送されているが、「最近は芸人さんのネタに、局の個性を出すことがなかなか難しいんですが、こういう時に出演者の気持ちと足し算引き算をやって、より面白く見せる方向に導こうとしていく姿を見ると、こっちとしてもいろいろ協力したいと思いますね」と腕が鳴った。

  • (C)フジテレビ

■『IPPONグランプリ』は舞台セットの1つに

アクリル板をセット演出の1つとして進化させたのが、ダウンタウン・松本人志が大会チェアマンを務める『IPPONグランプリ』(6月13日放送)だ。大喜利の回答者5人×2ブロックに加え、観覧ゲスト席も設置したが、この1人1人を全てアクリル板で囲うことにした。

そこから発想を転換し、「ここまでやるんだったら、もうアクリル板自体に番組のロゴをカッティングシートで貼って、『これも舞台セットの1つです』という見せ方をしたところ、逆にグレードが上がった感じに仕上がったんです」。

この世界観を踏まえ、オープニング映像に、そのロゴ入りアクリル板や、番組オリジナルマスクを装着したスタッフが小道具を消毒している様子などを挿入する遊び心が見られた。

  • 『IPPONグランプリ』のセット (C)フジテレビ

最初は“対策”として置いていたアクリル板だが、このように番組セットの“プラス”にできないかという考え方は、5月後半あたりから芽生え始めたという。

「いろいろな番組の打ち合わせの中で毎回、コロナ対策についても話し合うのですが、そこで他の番組での対策の“授け”を伝えています」と、美術デザイナーを通じて局内の他番組にノウハウが伝搬されている。