洪水で家が浸水しそうになったり、地震で家屋が倒壊したり、自宅で暮らせなくなった場合には、自治体が用意した避難所へ行くことになる。そこで少しでも快適に暮らすためには、どうすればいいのか。国内外の被災地で災害レスキューナースとして活躍している辻直美さんに、避難所生活の心得と必要最低限の防災グッズ10点を教えてもらった。

  • 1人暮らしのプチプラ防災術【避難所生活で必ずそろえたい防災グッズ10点】/辻直美・国際災害レスキューナース

避難所の主役は避難者であるあなた

避難所での生活を考える時、なぜか極上の快適性を求めてくる人が少なくありません。避難はキャンプとは違います。生き延びるための場所であり、1人あたりのスペースは狭く、プライバシーもありません。そもそも避難所における避難者は、お客様ではないのです。

行政は場所を貸すだけで、運営は避難者に任されます。モラルの違う人々が集う中、自分たちで役割分担をし、ルールを決めていかなければならない。そのため、誰もが避難所運営の当事者としての自覚を持ち、行動していく必要があります。

避難所は、居住地近くのものを利用するケースが多いことを考えると、防災にはグッズだけでなく、普段からのご近所コミュニケションも重要だといえるでしょう。一人暮らしで会社勤めの人は、なかなか近所の人たちと接点を持つ機会はないと思います。しかも、今はソーシャルディスタンスにマスクで、知らない人とはなるべく話さない空気がある。でも、会釈ぐらいはできます。「こんにちはー」という感じで目で微笑む。

それだけで、「なんか感じいい人だな」と思ってもらえたりします。少しでも顔見知りの人がいた方が、避難所でも生活もしやすくなり、「知っている人だから、ちょっと助け合おうかな」という気持ちにもなりやすい。リアルな交流があれば、ラジオやスマホに頼らなくても、情報も入ってきやすくなります。挨拶ひとつで命が救われることもあるのです。

  • 災害時に頼りになるのは、遠くの親戚より近くの他人。挨拶をして顔見知りになっておくだけでも、万一の時の心強さが違ってくる。

避難所到着ミッションをサポートする5つのアイテム

避難について考える時、なぜか被災した次の瞬間には避難所に着いているイメージの人が多いです。現実はそんな甘いものではなく、そもそも避難所に辿り着くこと自体、容易ではありません。そこで、移動時に必要なアイテムや避難所での生活に役立つアイテムの中から厳選した10個を紹介します。

人間は72時間は水なしでも生きられるとされていますから、ここでは水も食料も入れていません。しかし、避難所に救援物資が届くのに3日以上かかることもあります。できればこの10アイテムに加えて水、それから食料も持っていくようにしてください。

●防災笛(100均でOK)

万一、瓦礫やエレベーターなどに閉じ込められた場合、声をあげて助けを求めていたのでは、あっという間に体力を消耗してしまいます。防災笛なら、軽く吹くだけでしっかり音が出ますから、最初の1時間はこまめに、その後は1時間に1回程度と決めて、体力を温存しながら助けを呼びます。

●コンパス(100均でOK)

いざ避難所に行こうと思っても、災害時には目印になる建物が倒壊したりと、景色が一変している可能性があります。日頃からコンパスで方向を確かめながら移動する練習をしておけば、万一の時も落ち着いて行動できます。

●ソーラーライト(100均でOK)

充電が簡単かつ太陽光は無尽蔵なので、基本的に懐中電灯はソーラータイプを推奨しています。

●万能ナイフ

ナイフ、ハサミ、ドライバー、ピンセットなど、さまざまな機能が付いたナイフです。使い勝手を考えると、信頼のおけるブランドの製品を購入しておくのがおすすめ。また、災害時に使いこなせるように、私はよく万能ナイフで食事を作ります。わが家の子どもたちも、カレーを作ります。万能ナイフに限らず、防災グッズは持っているだけで安心せず、使って慣れることが大切です。

●カラビナ

キーホルダーとして、細々とした避難グッズをまとめておくのにも使えるし、ロープと組み合わせて荷物等を運ぶのにも使えます。製品により耐荷重が違うので、購入時はご注意を。

  • ➀万能ナイフ ②ソーラーライト ③防災笛 ④コンパス ⑤カラビナ

避難所暮らしを乗り切るための5つのアイテム

●レスキューシート(100均でOK)

避難所となる体育館や公民館は冷えることが多いです。しかも、ライフラインが寸断されているとなると、ガスや電気の熱も少ないですから、めちゃめちゃ寒い。夏でも雨で濡れたら、寒いですよね? その状態で風呂に入れないとか、ドライヤーで髪を乾かせないとかいうのが避難所です。そこで、体温を保持するために体をおおうのです。

●45Lのゴミ袋

ゴミ袋を服と服の間に重ねることで空気のミルフィーユを作り、自分の体温を維持するのに役立ちます。他にも、リュックサックに二重に入れて水を運ぶのに使ったり、ペットシーツとあわせて非常用トイレにしたり、瓦礫を片付けたりと、あれば何かと役に立ちます。

●モバイルバッテリー

安い物であれば、500円程度から売っています。在宅避難の場合は、情報収集のためや孤独感をまぎらわせるために、モバイルバッテリー機能付の防災ラジオをおすすめします。電源の確保は必須です。スマホの電波がつながれば、情報も収集できます。

●アロマオイル

災害で意外と知られていないのが「匂い」です。避難所では洗濯も掃除もあまりできない。人は大勢いる。だから、どうしても不衛生になりやすく、臭いも相当ひどくなります。シダーウッド、ティーツリーといった殺菌作用の高いアロマオイルを持っていけば、独特の香りで気分転換できる上に、防臭、防虫、防カビなども期待できます。

ミントも殺菌作用がありますが、シダーウッドやティーツリーほどではありません。どちらかと言えば、爽快感を得られることの方がポイント。入浴できない時に、ミントを少量(500mlボトルに1~2滴)たらした水で身体を拭くだけでもスッキリします。ただし、アロマオイルは必ず100%天然成分の、品質の確かな精油を用意してください。合成香料等が含まれているものは効果がないだけでなく、かえって害になる可能性もあるので要注意です。

●穴を開けたペットボトルキャップ

災害時は水が非常に貴重です。特に今は新型コロナ対策として、こまめに手を洗いたいものの、ペットボトルを傾けただけでは出過ぎてしまいます。そこで、穴をあけたキャップを用意しておき、必要に応じてシャワー状に水が出るようにしましょう。これなら少量ずつ使え、ウォシュレット代わりにもなります。ペットボトルのキャップはものによりサイズが違うので、あらかじめ何パターンか用意しておくと便利です。

  • ➀モバイルバッテリー ②ペットボトルのキャップに穴を開けたもの ③アロマオイル ④45Lのゴミ袋 ⑤レスキューシート