事前に備えることができる台風と違い、地震はいつ起こるかわからない災害だ。自分の部屋にいる時は入浴、トイレ、睡眠と、心身ともに油断していることが多い上に、1人暮らしの人はすべて自分で判断し、行動しなければならない。万一の時、少しでも落ち着いて迅速に動けるように、さまざまなシーンでの地震の対応について、災害レスキューナースとして国内外で活躍している辻直美さんにアドバイスをいただいた。

  • 地震に強い部屋作り〜こんな時、こんな場所で大地震が来たらどうする? /辻直美・国際災害レスキューナース

就寝時の震災に備える「起きたら玄関を見る習慣」

震災で最も気をつける必要があるのが就寝中です。眠りが深い時には身体が揺れてもすぐには目が覚めないですし、起きてもしばらくはぼーっとしがち。その間にも容赦なくものが落ちたり、倒れたりしてきますから、ベッドとその周辺の家具、家電の防災対策は非常に重要です。

万一、部屋がぐちゃぐちゃになっても避難できるように、ベッドの下には常に靴と懐中電灯を用意し、玄関までの導線には極力ものを置かないようにしましょう。また、玄関がどちらにあるのか、寝ぼけた状態でもすぐ判断できるようにしておくことも大切です。ベッドから起き上がった時に、玄関までの経路が見えることが望ましいですが、部屋の間取りによっては難しい人もいるはず。

その場合は、朝、目覚めたら「玄関はこっち」と玄関のある方向を見る習慣を付けます。「あちらに行けば逃げられる」ということを身体に染み込ませるわけです。 「そんなことをしなくても、狭い部屋だし間違えない」と思うかもしれませんが、大地震が起きると人は平常心を失い、当たり前だったこともわからなくなったりします。住み慣れた我が家なのに、引いて開けるドアを「開かない、開かない」とひたすら押し続けた、なんていう体験談も珍しくありません。

  • できれば、ベッドは大きな柱がある方に頭が来るように設置。頭と足もとには、極力背の高い家具は置かない。また、部屋に壊れたものが散乱しても避難できるように、ベッドの下には靴を用意。

トイレ・浴室で揺れた時はすぐドアを開け、外へ出る

昔は「地震が来たらトイレに逃げろ」と言われていましたが、それは従来の一戸建てでは、トイレも浴室も柱でしっかり支えられた作りになっていたからです。現在は「ユニットバス」というだけあって、構造としては「箱」。壁・床・天井・浴槽(便器)などのパーツがあらかじめセットになったものを施工現場で組み立てるだけで、柱が立っているわけではありません。

地震が来たらぺちゃっと崩れたり、ドアが変形して閉じ込められたりする危険がありますから、すぐにドアを開けて出るようにしてください。ただし、今は耐震性のユニットバスもありますから、気になる場合は不動産会社に確認してみるといいでしょう。

入浴中に揺れた時は、洗面器などで頭を守りながらすぐに外に出ます。「まだ石鹸を洗い流してない」なんて悠長なことを言っている場合ではありません。出たら身体を拭き、迅速に服を身につけます。

トイレもすぐにドアを開けますが、我が家では万一閉じ込められた場合に備えて500mLの水を1本置いてあります。また、最近はトイレに雑貨を飾ったり、本を並べたりする人も少なくありません。滑り止めシートを敷いた上に置くのはもちろん、万一落ちてきた時にも刺さったりケガしたりしない程度のものにしておきましょう。

  • 昨今のトイレや浴室は柱で支えられた作りになっていないので、地震の時は要注意。

玄関は家の中でも安全な場所。ベランダはすぐに室内へ避難を

一般的に、玄関は家の中で最も頑丈に作られていて、比較的安全な場所です。もし、玄関にいる時に地震が来たら、閉じ込められないようにドアを開け、手で首のうしろ(延髄)を守りながら、頭頂部が床に着くくらいに頭を低く下げてしゃがみます。

多くの場合、避難する時は玄関から出ていくことになるため、我が家では非常持ち出し袋は玄関に置いています。地震で荒れた室内を重い袋を抱えて移動するのはなかなか大変ですから、体力温存のためにもおすすめです。

足元をとられる可能性がある玄関マットは敷かず、寝る時に玄関に置く靴は1足のみ。地震で平常心を失っている時に靴が複数あると、どれを履けばいいのか混乱したり、左右違う靴を履いたりしかねません。

ベランダにいる時に地震が来た時は、すぐ屋内へ入った方がいいでしょう。ガラス戸のサッシが曲がって中に入れなくなる可能性や、近隣からものが飛んできてケガをする可能性があります。ベランダにエアコンの室外機がある人は多いと思いますが、あれも地震で倒れたり、落下することがありますから要注意。万一、転倒した場合には、絶対に自分で起こさず、必ず販売店などに連絡してください。配管が破損し、漏れ出た冷媒ガスで凍傷になることもあります。

  • 地震が起きたら、手で首のうしろ(延髄)を守りながら、頭頂部が床に着くくらいに頭を低く下げてしゃがむ。どこにいてもすぐこの態勢がとれるように日頃から練習を。