北神急行電鉄北神線(谷上~新神戸間)が6月1日に市営化され、神戸市営地下鉄北神線として再スタートを切った。全国的にも珍しい市営化により、神戸市内の交通事情も大きく変化するのではないかと予想される。

  • 北神急行線の市営化から間もないこともあり、7000系の車体前面などに北神急行電鉄の社章が残る

1988(昭和63)年に開業した北神急行線は、谷上駅(神戸市北区)から新神戸駅(神戸市中央区)まで7.5kmを約8分で結び、開業当初から神戸市営地下鉄西神・山手線と相互直通運転を実施してきた。六甲山系を貫くトンネルを介し、神戸市北部から新神戸・三宮方面へ大幅な時間短縮を実現したことから、沿線住民の利用が期待された路線だった。

■谷上~三宮間、運賃は550円から280円に

ところが、建設コスト等によって高額な運賃が設定された影響もあり、利用者は伸び悩んだ。1999(平成11)年度から兵庫県と神戸市が補助したものの、谷上~新神戸間の運賃は370円にもなり、「日本一高い初乗り運賃」と呼ばれるようになった。

北神急行線は2002(平成14)年4月以降、北神急行電鉄が第二種鉄道事業者、神戸高速鉄道が第三種鉄道事業者となって運営されてきた。そんな中、2018(平成30)年12月、神戸市は北神急行線の運賃低減に向け、市営地下鉄との一体的運行の可能性について、北神急行電鉄の親会社である阪急電鉄と協議を開始する。翌年、北神急行線にかかる資産等の譲渡を受けることで基本合意した。

今年3月には、北神急行線事業の譲渡譲受が国土交通大臣から認可された。譲渡金額は198億円。なお、北神急行線に関する債務残高は約650億円とされたが、神戸市および神戸市交通局はこれを引き継がないことで合意している。

  • 「北神急行線市営化記念」のヘッドマーク。谷上方・西神中央方で異なるデザインに

こうして北神急行線は市営化され、6月1日から神戸市営地下鉄北神線として西神・山手線との一体的運行を開始。同時に大幅な運賃値下げが実現することになった。谷上~新神戸間を含むおもな区間について、市営化前後の普通運賃を比較した。

●北神急行線の市営化に伴う普通運賃の比較

  • 谷上~新神戸間 : 370円 → 280円
  • 谷上~三宮間 : 550円 → 280円
  • 谷上~名谷間 : 690円 → 420円
  • 有馬温泉~三宮間(谷上駅で神戸電鉄から乗換え) : 950円 → 680円
  • 三田~三宮間(谷上駅で神戸電鉄から乗換え) : 1,080円 → 810円

定期運賃も変更され、谷上~三宮間の通勤定期(6カ月)は市営化前の12万430円から、市営化後は5万7,350円と半額以下に値下げされた。多額の減価償却費により、当面は赤字となるものの、40年後の収支均衡をめざすという。

■谷上駅以東から三宮方面、運賃面も北神線経由が有利に

市営化された北神線の変化を見るべく、三宮駅から谷上駅まで神戸市営地下鉄の電車に乗った。三宮駅の運賃表を見ると、新神戸駅から谷上駅まで「北神線」の表記になったが、従来のラインカラーである茶色は引き継がれている。

1番線ホームに降り立つと、しばらくして新神戸行の電車が入線した。日中時間帯、西神・山手線は新神戸駅まで7~8分間隔に対し、谷上駅までは15分間隔で運転される。新神戸駅止まりの電車は見送り、続いて到着した谷上行の電車に乗車する。車両は茶色と白色の組み合わせがよく目立つ7000系だった。

北神急行線の開業に合わせてデビューした7000系は、市営化されるまで北神急行電鉄の車両で、車内設備等は親会社である阪急電鉄の車両に準じている。いまは市営化されて間もないこともあり、車体前面の窓上などに北神急行電鉄の社章が残り、車体側面の「Hokushinkyuko Railway」の文字も残っていた。

谷上行の電車は10時3分に三宮駅を発車。各車両とも乗客が10人程度いたが、新幹線と接続する新神戸駅で約半数の人が下車した。市営化後の北神線では、運行に関して神戸電鉄に委託しており、新神戸駅で乗務員の交代が行われる。新神戸駅を発車した後、「市営地下鉄をご利用いただきありがとうございます」と自動放送が流れ、この区間が市営化されたことを改めて実感する。

それから谷上駅到着までの8分間、電車はひたすらトンネル内を走り続ける。北神急行電鉄時代は鳥やリスなどの電飾アニメーションを見ることができたが、今回の乗車では確認できなかった。10時14分、電車は谷上駅に到着。乗客の半数程度が神戸電鉄有馬・三田線の電車に乗り換えた。

  • 谷上駅の駅舎。「北神急行」から「神戸市営地下鉄」の表記に変更されている

  • 谷上駅から三田方面へ向かう神戸電鉄有馬・三田線の電車

谷上駅では両社局のホームが並び、3番のりば(神戸電鉄有馬線)と4番のりば(市営地下鉄北神線)は同一ホームとなっているため、日中時間帯を中心に「ドアツ―ドア」で乗り換えられる。ホームでしばらく利用者の動きを観察していると、神戸電鉄有馬・三田線から市営地下鉄北神線への乗換えは上り電車(新開地行)からのほうが多かった。

北神急行線の市営化まで、谷上駅以東の各駅から三宮方面へ行くなら新開地駅乗換えのほうが運賃は安かった。6月1日以降、神戸市営地下鉄北神線となって運賃が値下げされたことで、運賃面でも北神線経由が有利に。一例として、神戸市北区の中心的な駅である岡場駅からの運賃は、新開地駅乗換えで神戸三宮駅まで750円に対し、谷上駅乗換えだと三宮駅まで680円となった。今後、通勤や買い物等で谷上駅以東の各駅から三宮方面へ電車を利用する際、北神線経由が一般的になるかもしれない。

■神戸市営地下鉄北神線、市バスとの両立が課題か

北神急行線の市営化に合わせて神戸市バスも再編され、系統の新設・延伸により、神戸北町地区や衝原(つくはら)地区から谷上駅へ市バスが乗り入れるようになった。駅前のバスターミナルを観察すると、谷上駅を起点に周辺の交通網を整備したいという神戸市の意図が透けて見える。

谷上駅は駅ビルもある高架駅だが、駅周辺に大型商業施設は存在しない。ここから神戸電鉄の新開地行に乗り換え、隣の箕谷駅へ。駅から3分ほど坂を下ると、市バスの箕谷駅前停留所があり、神戸北町と三宮駅ターミナル前を結ぶ市バス64系統が立ち寄る。

日中時間帯における市バス64系統の所要時間は、神戸北町~地下鉄三宮駅前間が約40分、箕谷駅前~地下鉄三宮駅前間が約20分。運賃は神戸北町~地下鉄三宮駅前間が500円、箕谷駅前~地下鉄三宮駅前間が450円。神戸北町地区はベッドタウン化したエリアのため、三宮方面へ直行する市バス64系統はつねに混雑している。夕方のラッシュ時など、三宮駅前の停留所で行列ができることも珍しくない。

神戸市交通局は北神急行線の市営化に合わせ、神戸北町~谷上駅間に市バス62系統を新設。谷上駅を経由しない64系統を減便することで、市バスから北神線へのシフトを目論んだ。しかし、地元住民らは谷上駅周辺の交通渋滞などを理由に、市バス64系統の減便に反対した。その結果、日中時間帯も15分間隔で運行されている。一方、市バス62系統の本数は1日10本にも満たず、現状では神戸北町から谷上駅経由で神戸市営地下鉄北神線へ、利用者が大幅にシフトするとは考えにくい。

満70歳以上の神戸市在住者が利用できる市の敬老優待乗車制度(敬老パス)の存在も、市バスが好まれる一因だろう。敬老パスを使うことで、神戸北町~三宮駅前間は110円で利用できる。敬老パスで市営地下鉄に利用する場合は小児運賃が適用されるものの、谷上~三宮間は小児運賃でも140円。神戸北町からの利用を考えた場合、運賃面でも市バスのほうが圧倒的に有利だ。

ただし、敬老パスは10月1日から制度が変わり、市バスも市営地下鉄と同様、乗車ごとの小児運賃が適用される予定となっている。ひょっとしたら10月1日以降、乗客の流れに変化があるかもしれない。

  • 神戸市バス64系統。神戸北町から新神戸トンネル経由で新神戸駅・三宮駅前方面へ直行する

箕谷駅前に立ち寄った市バス64系統(三宮駅前行)の車内を観察すると、平日の日中にもかかわらず、大半の座席が埋まっていた様子だった。神戸市北区における市営地下鉄と市バスの両立の難しさを感じさせた。

■山の街駅・北鈴蘭台駅から三宮方面、どのルートが安い?

箕谷駅から再び神戸電鉄の電車に乗り、新開地駅へ向かう。曲線区間を走行している間に周辺の山々が開け、新興住宅地の見える車窓風景に。山の街駅と北鈴蘭台駅でまとまった乗車があり、車内の座席は8割ほど埋まる。

ところで、山の街駅から電車で三宮方面へ向かう場合、所要時間を比較すると谷上駅乗換えのほうが新開地駅乗換えより5分以上早く、普通運賃も50円安い(新開地駅乗換えは570円、谷上駅乗換えは520円)。次の北鈴蘭台駅から三宮方面の運賃は、新開地駅乗換えが550円、谷上駅乗換えが580円で30円高くなる。ただし、所要時間では谷上駅乗換えのほうが5分ほど早い。いまのところ、両駅とも三宮方面の鉄道利用は新開地駅乗換えが一般的と思われるが、とくに山の街駅に関して、今後は谷上駅乗換えを選ぶ人も出てくるのではないかと考えられる。

粟生線と接続する鈴蘭台駅も神戸市北区の中心的な駅だが、乗降客はさほど多くなかった。鈴蘭台駅を発車した電車は、神戸電鉄ならではの急な坂を下りつつ、途中の各駅に停車する。地下区間に入り、終点の新開地駅に到着すると、ほとんどの乗客が乗換えのため、神戸三宮・大阪梅田方面のホームへ向かったようだった。

今回は北神急行線の市営化から2週間後に乗車したこともあり、平日の日中に限って言えば、市営化前と比べて大きな変化はないように感じられた。これから周知を図ることで、定期券の切替えなどの時期に神戸市北部から北神線経由のルートへシフトする利用者が現れる可能性もある。市営化による市バスや神戸電鉄への影響も含め、今後どのような変化が見られるか、注目していきたいと思う。