コロナショックと中食、テイクアウト需要

新型コロナウイルスの影響により飲食業界では厳しい状況が続く。九州を中心に展開するファミレスチェーン「ジョイフル」が約200店閉店を発表し、大阪・新世界「づぼらや」、東京・神保町「スヰート・ポーヅ」といった街の"顔"的存在の店までもあっけなく閉店。

一方で、日本マクドナルドやモスバーガーはテイクアウトやデリバリー需要増により業績は堅調というが、容赦ない現実に驚きを隠せない。

生活者目線では、さまざまな飲食店が提供するテイクアウトやデリバリーといったサービスが充実してきて、「外食をせずとも家でも楽しめる」とわかったのも事実だが、こうした恩恵を受けられるのは、飲食業界が健全であればこそ。

コロナ禍に対抗すべく打ち出された興味深い取り組みを紹介する。

  • コロナ後の外食はどうなる?

「3密回避」が難局打破の鍵となる

6月某日、筆者は久しぶりの外食をした。緊急事態宣言の発令・解除、東京都による東京アラートの発動・解除という一連の流れを楽観視はしない。ただ、感染対策に尽力する商業施設なら安心だろうと、和食店で食事をしカフェで休んだ。

多くの店で、入り口での手指消毒、テーブルを1席空ける、食器や座席のこまめな消毒、スタッフマスク着用などの対策を講じていた。カフェでは行列時の間隔空け、マイタンブラー・マグカップ使用禁止などの対応がなされ、「密」にならないテラス席を見つけてひと安心。

国土交通省は6月5日、新型コロナウイルスの影響を受ける飲食店などを支援するため、「路上利用」の占用許可基準を一定の条件の下で緩和すると発表。これにより、テラス席を設置しての飲食物販売やテイクアウト販売がしやすくなる。「3密」回避に最適であり、広く普及してほしいものだ。

コロナ禍に居酒屋業界はどう対処するか

ここからは、新型コロナウイルス感染対策につき、興味深い取り組みを行う企業に聞いたことをまとめる。まず、なんといっても居酒屋業界が心配だ。ランチとテイクアウトの需要は回復したとしても、居酒屋の夜間営業ではマスクなしでの会話、料理の取り分けなど、防疫の観点から不安を感じる。

こうした点を踏まえ、老舗ビアホールの「銀座ライオン」が提案したのが、新商品「新しい生活様式コース」。5月25日より営業再開店舗から順次販売となり、好評を得ているらしい。

  • 「新しい生活様式コース」の料理の例 提供:銀座ライオン

「ビアホールというと大皿でシェアする印象が強いと思いますが、厚生労働省が公表した『新しい生活様式』を踏まえて、定番メニューを組み合わせて個人盛りにしました。お一人でもご利用いただけます。『営業再開を待っていたよ』『やっぱり家で飲む生ビールとは違う』など、好評です」と広報担当者。

「当社は外食企業であると同時に、ストレス解消企業であるという理念のもと、飲食を通じてお客様に『JOY OF LIVING(生きている喜び)』を提供することを使命としています。」という企業理念を掲げる同社。

今後の展望について、「今後も、お客様に安心してご利用いただける環境作りのためさまざまな対策を行います」とのこと。食事は命をつなぐために欠かせない行為であり、生きる喜びや活力に直結するものでもある。不要不急と切り捨てるべきものではないはずだ。

  • 銀座ライオンで店頭に掲示し客に呼びかけるポスター 提供:銀座ライオン

ホテル業界の取り組みをウェスティンホテル東京に聞く

「ウェスティンホテル東京」も難しい局面にあるとしながらも、さまざまな対策を打ち出している。ステイホーム期間中には、テイクアウトランチ提供や自宅で簡単にできるレシピ配信を行いながら、スタッフによる近隣病院訪問やボランティア活動、ホテルの窓にスマイルマークをライトアップする「Light up for hope」など活動も実施。

  • 「Light up for hope」活動 提供:ウェスティンホテル東京

根底には、「何よりも人を大切にし、卓越性を追及し、変化を受け入れ、誠実に行動し、世界に奉仕すること」という運営会社であるマリオット・インターナショナルの企業理念がある。

「常に最優先事項としているのは、ゲストの皆様と従業員の安全です。ポストコロナの環境下では、お客様に安心してご来館いただけるよう、ニュースタンダードに沿った新しいサービス、コミュニティーとのつながりを大事にしたイベントをご提案してまいります」とのこと。

具体的には、ソーシャルディスタンスを保った会議・宴会のセッティング、講演会や株主総会の動画配信の提案などを推進している。

またホテルステイについては、「ステイケーション」プラン(ステイケーションとは近場に宿泊して楽しむ旅、観光地に出かけず滞在・宿泊だけを追求する旅といった意味)を充実させるという。

さらにウエディングサービスとして、披露宴などのライブ配信やオンデマンド配信も検討中とのことだ。

  • ソーシャルディスタンシング対応の会議スタイル 提供:ウェスティンホテル東京


コロナ以前は何気ない行為であった外食は、今となっては夢のようだ。3月、4月と外出を自粛していた人が口々に「久しぶりに外食をしたら、気分がリフレッシュされた」「人が作った料理というだけでありがたい」などと言う。

自宅とは違う非日常の空間や、心地よい接客を受けながらの食事といった「顧客体験」こそ、外食産業が目指すべき真価なのであろう。