阪神電気鉄道は6月3日から、武庫川線向けに内外装を一新した5500系4編成を導入した。その前日まで、武庫川線では赤色とクリーム色をまとったレトロな「赤胴車」が運行されていたが、5500系の導入により、武庫川線の印象が大きく変わった。

  • 武庫川線を走る5500系「タイガース号」

■武庫川線の5500系、編成ごとに異なるデザイン

武庫川線は武庫川~武庫川団地前間を結ぶ1.7kmの支線で、全区間にわたって西宮市内の武庫川沿いを走る。武庫川駅で阪神本線と接続し、中間駅は東鳴尾駅と洲先駅の2駅のみ。おもに沿線地域の通勤通学路線として機能している。運行系統は阪神本線と切り離され、2両編成の電車が武庫川~武庫川団地前間を行ったり来たりしている。

6月2日まで、ひと昔前の急行系標準色だったクリーム色と赤色のツートンカラーをまとった「赤胴車」(7861形、7890形など)が活躍していた。これに代わり、導入された5500系は、もともと阪神本線の普通用として登場した車両。このうち計8両が武庫川線向けに改造されて内外装を一新し、「赤胴車」の引退翌日から運行を開始している。

武庫川線向けに改造された5500系は編成ごとにデザインが異なっている。阪神タイガースをイメージした「タイガース号」(5513・5913)、阪神甲子園球場をイメージした「甲子園号」(5914・5514)、女性タイガースファンをイメージした「TORACO号」(5511・5911)、阪神タイガースのマスコットキャラクターをイメージした「トラッキー号」(5912・5512)に生まれ変わった。

■往路は阪神タイガース一色の「タイガース号」

筆者は5500系が導入された後の平日夕方、武庫川駅から武庫川線に乗車した。阪神本線の武庫川駅は武庫川の真上にホームがあり、川を挟んで東側(尼崎市側)・西側(西宮市側)にそれぞれ駅舎を持つ。武庫川線の電車は川の西側にあるホームから発車する。専用の中間改札口があり、そこを通って武庫川線のホームへ。武庫川団地前行の電車が来るのを待つことにした。

  • 武庫川線は武庫川駅の西側(西宮市側)にあるホームから発車する

武庫川線では朝夕ラッシュ時に2編成が入り、それ以外の時間帯は1編成のみの運用となっている。日中時間帯に武庫川線のホームを訪れると、引き込み線で休んでいる朝夕ラッシュ時用の編成を観察できる。

16時55分、5500系の「タイガース号」が入線し、折返しの武庫川団地前行に。「タイガース号」は名前の通り阪神タイガースをイメージした外装で、黄色をベースに2本の黒帯が入っている。阪神タイガース自体は押しも押されもせぬ人気球団だが、意外にもラッピング車を除き、タイガースカラーの阪神電車は存在しなかった。それだけに、タイガースカラーの車体に強烈な印象を受ける。

一方、武庫川線向けの5500系では、全編成共通のデザインとして、ドア横と車体前面に「武庫川 MUKOGAWALINE」とロゴを記し、武庫川線の各駅を「〇」で表すとともに、「武」「庫」「川」の漢字をひとつのラインで結んでいる。

  • 「タイガース号」「甲子園号」の外観

  • 「タイガース号」(写真左)、「甲子園号」(同右)の内装

  • 「タイガース号」の内装デザイン

外装だけでなく、内装も阪神タイガース一色に。化粧板は阪神タイガースのホーム用ユニフォームで用いられる黒白の縦縞で、随所に阪神タイガースの「虎マーク」が見られる。座席の生地もボール柄に変わり、芸の細かさに驚きの声も聞かれた。ホームから車両を撮る人もいれば、車内でも多くの利用者が積極的にスマートフォンで写真を撮っている。新たに武庫川線へ導入された5500系に対する注目度の高さを実感した。

「タイガース号」は17時0分に武庫川駅を発車。武庫川に沿って南下し、終点の武庫川団地前駅をめざす。武庫川と武庫川線は堤防で隔てられているので、車内から川の様子を確認することはできない。途中の東鳴尾駅、洲先駅に停車し、武庫川団地駅には17時5分に到着した。強烈な個性を持つ電車の内外装を楽しむことを考えると、5分の乗車時間はあまりにも短かった。

  • 武庫川線の終点、武庫川団地前駅

武庫川団地前駅の改札口を抜けると、目の前に武庫川団地のマンション群が並び、駅横にスーパーマーケットもある。武庫川線の駅は武庫川駅を除いて無人駅となっているため、沿線地域に根ざした路面電車に近い性格を持つ路線という印象を持った。

■復路はポップな雰囲気が楽しい「TORACO号」

武庫川団地前駅で少し休憩した後、同駅17時40分発、武庫川行の電車に乗った。入線した電車は、女性タイガースファンをイメージしたという「TORACO号」。黄色をベースに青緑色の帯が入り、「タイガース号」と同じ形式ながら、まったく異なる車両のように見える。

化粧板はポップな水玉模様があしらわれ、自然と楽しい気持ちになる。一方、床は木目調に近い落ち着いた色調で、ポップな化粧板とのバランスが良いような気がする。ドア横に目をやると、青緑色で描かれた阪神タイガースの「虎マーク」が目に飛び込んできた。一部の窓にトラ耳が装飾され、座席に座るとトラ耳を付けているように見える「TORACO SPOT」が設置されている。

「TORACO号」が武庫川団地前駅を発車すると、交換設備のある東鳴尾駅で「タイガース号」とすれ違った。駅構内では「TORACO号」と「タイガース号」とのすれ違いを狙って、鉄道ファンのみならず、沿線の利用者らもスマホ片手に撮影に励んでいた様子。「TORACO号」は武庫川駅に17時45分に到着し、ほとんどの利用者が阪神本線の大阪梅田方面または神戸三宮方面のホームへ歩いて行った。

ありきたりな鉄道風景でも、車両が新しくなったせいか、「赤胴車」が活躍していた頃と比べて武庫川線の雰囲気が少し明るくなったように感じた。

  • 武庫川駅近くの引き込み線で休む「TORACO号」

阪神タイガース一色の電車に乗った後は、阪神甲子園球場で野球観戦と行きたいところだが、新型コロナウイルス感染症の影響により、当面は無観客でセ・パ両リーグの公式戦を開催することが決まっている。球場での野球観戦はまだ先の話になりそうだが、代わりに阪神タイガースや阪神甲子園球場の雰囲気を十二分に味わえる武庫川線の新たな電車に乗車してみるのも良いかもしれない。