2025年までに世界販売台数の50%を電気自動車(EV)とし、残りをハイブリッド車(PHEVおよび48Vハイブリッド)とすることを目標に掲げるボルボ。今回は、その48Vハイブリッドパワートレイン「B5」をボルボの市販車として初めて搭載した「XC60 B5 AWD」に試乗してきた。

  • ボルボ「XC60」の「B5」

    ボルボの最量販車種「XC60」に新しいパワートレインが追加となった(本稿の写真は撮影:原アキラ)

XC60は人気のミドルクラスSUV市場のど真ん中に位置するクルマだ。そこに新システムが登場したということで、我々は高速道路と一般道を150キロほど走り、その出来栄えを試してきた。

  • ボルボ「XC60」の「B5」
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  • 試乗した「XC60 B5 インスクリプション」のエクステリア。クリスタルホワイトパールのボディカラーにおなじみの「T」字のヘッドライトが印象的

北欧映画に見るボルボの立ち位置

試乗車は「XC60 B5 AWD インスクリプション」。クリスタルホワイトパールのボディカラーにチャコールのパーフォレーテッド・ファインナッパレザーのシートを組み合わせたXC60の上位グレードだ。車両本体価格は734万円。電動パノラマガラスサンルーフ、英Bower Wilkinsのプレミアムサウンドシステム、電子制御のエアサスなどのオプション装備を奢った結果、合計832万4,000円に達した豪華バージョンだ。

  • ボルボ「XC60」の「B5」
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  • ボルボ「XC60」の「B5」
  • パーフォレーテッド・ファインナッパレザーのシートが快適な乗り心地を提供するインテリア。広大なパノラマルーフも

同乗の編集者とともにクルマに乗り込み首都高に乗ると、すぐにある映画の話になった。テレワークで自宅で過ごすことが多くなったため、いつか観ようと思っていたスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』をAmazonプライムビデオでやっと見ることができたからだ。

ストーリーは数年前に評判になった通りで素晴らしいものだったのだが、さらに我々クルマ好きにとっては、主人公が乗る今はなき歴代の「SAAB」(サーブ)やその旧友が乗る「ボルボ」、さらに、中東からの移民夫婦が乗るアジアンカー、スカした女子が乗る「アウディ」などが、風刺とともに上手に描かれていたところが面白かった。「北欧の人は、こんな感じでクルマを見ているんだな」ということで、ニヤリとさせられたのだ。

映画の中ではちょっとお硬いイメージで描かれていたボルボだが、最新モデルのXC60 B5は、面倒なことを考えなくてもすぐに運転に慣れ、車内で気楽に映画談議を始められるような、ラグジュアリーでリラックスできるクルマだった。詳細を見てみよう。

黒子に徹するマイルドハイブリッドシステム

ボルボがXC60で初導入した「B5」パワートレーンは、ISGM(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーターモジュール)による回生ブレーキで発電した電力を、荷室下に搭載した24セルの48Vリチウムイオンバッテリーに蓄電し、エンジンの始動と動力補助に使用する。いわゆる、マイルドハイブリッドシステムだ。

  • ボルボ「XC60」の「B5」
  • ボルボ「XC60」の「B5」
  • 右側のリアランプ下に「B5 インスクリプション AWD」のロゴが配される

搭載するエンジンは排気量2.0リッターの直列4気筒インタークーラー付きガソリンターボ。ちなみに、ボルボは今後、これ以上大きなサイズのエンジンは作らないとしている。最高出力は250ps(184kW)/5,400~5,700rpm、最大トルクは350Nm/1,800~4,800rpm。これを10kw/3,000rpm、40Nm/2,250rpmのモーターがアシストし、電子制御8速ATギアトロニックを介してAWDシステムを駆動する方式だ。

センターコンソールには、いつも通りに右回しにひねるスターターボタンがあり、それに並ぶ電気式のバイ・ワイヤー化されたシフトノブは、スウェーデン・オレフェス社のクリスタルガラス製だ。それを手前にコクリと引くとドライブに入る。変速用のパドルシフトは装備されておらず、ガラスのシフトを左右に動かして行うタイプだ。「Eco」「Comfort」「Dynamic」など5段階で設定してあるドライブモードは、スターターボタン手前にある“美顔器”のように輝く回転ドラムを押し回して選択する。

  • ボルボ「XC60」の「B5」
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  • 左はスターターボタンと“美顔器”のようなドライブモードのセレクター。右はクリスタルガラス製のシフトノブ

走り出すと、車内は車速に関係なく静かさがキープされていることに気がつく。信号でストップするとアイドリングストップに入るが、エンジンスタートはスターターモーターを使用しないので、ほとんどノイズやバイブレーションを感じない。

高速道路に上がって時速80キロほどでクルージングしていると、上質な北欧デザインの車内はとても快適だ。パノラマサンルーフのおかげで車内は明るく、会話も普通の音量で喋るだけで全く問題ない。

  • ボルボ「XC60」の「B5」

    走行中も室内は静か

高速道路の巡行中、エンジンの回転計は1,500~1,600rpmほどの低い位置を示していた。こうした時、Drive-E第3世代の2リッターガソリンエンジンは気筒休止機能を働かせ、2気筒で走っているはずなのだが、走行フィールに変化は全く感じられない。メーター内にも、気筒休止状態であることを示す表示はない。ブレーキング時には減速エネルギーを電気に回生しているが、それを知らせるのは、回転計の下側に小さく描かれた電池マークが青く光るところだけで、こちらも目立たない。マイルドハイブリッドシステムは完全に黒子に徹している。

パワーに関しては、こちらも十分以上。追い越し時や長い登り坂でも車速はぐんぐんと伸びていき、1.9トン近い車体を素早くスピードに乗せていく。逆に車重のせいで、B5システムを搭載しているとはいえWLTCモード燃費は11.5km/Lと公称されていて、国産ハイブリッドのようにびっくりするような数字が出るわけではなさそうだ。

  • ボルボ「XC60」の「B5」

    約1.9トンと車体は重いが、パワーは申し分なしだ

先進安全・運転支援システムを使ってみる

新生代のボルボ車は、「対向車対応機能」「歩行者・サイクリスト検知機能」「インターセクション・サポート(右左折時対抗車検知機能)を備えるCity Safety(衝突回避・被害軽減ブレーキシステム)」「全車速追従機能付きACC(アダプティブ・クルーズコントロール)」「パイロット・アシスト(車線維持支援機能)」「BLIS(ブラインドスポット・インフォメーションシステム)」「クロストラフィック・アラート」「ランオフロード・ミティゲーション(道路逸脱回避機能)」「オンカミング・レーン・ミティゲーション(対向車衝突回避支援機能)」など、16以上の機能をそろえる安全・運転支援機能「IntelliSafe(インテリセーフ)」を標準装備している。

追従運転のACCをONにするため、ステアリング左ポストのスピードメーターの絵があるボタンを押してみる。すると追従運転が始まるのだが、車線維持機能を使うには、そのボタンの右にある三角マークを押す必要がある。ステアリング支援を伴う全車速での追従機能は、レベル2のACCとして全く問題ない。トップクラスの制御を行っているのがわかる。

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    ACCの制御は正確だった

先の発表によると、ボルボは今後、全ての新型車の最高速度を時速180キロに制限するとともに、それをさらに低く設定できる「ケア・キー」を導入するそうだ。自動運転分野でさらなる安全性を確保するため、次世代車には業界をリードするルミナー社のLiDAR(ライダー)と検知機能を採用することも明らかにしている。量産化のためには技術だけでなく、コスト面などの課題があり、段階的に導入が進んでいくものと見られるが、いずれにせよ、この分野はまだまだ先がありそうである。

映画の主役は現代のボルボをどう見る?

マイルドハイブリッドや気筒休止のアピールが少ない点について試乗後、ボルボ・カー・ジャパンの広報に聞いてみると、「不要な情報表示の取捨選択は、ボルボが以前からこだわってきたところです。マイルドハイブリッドの稼働状況については、明示する必要はないと考えました。情報過多にせず、必要な情報に集中してもらうことが安全につながるという考えに基づいています」というオトナの返事が返ってきた。納得である。

さて、冒頭に出てきた『幸せなひとりぼっち』の主役は、こうしたボルボ車の姿をどう思うのだろうか。「かつては“空飛ぶレンガ”とニックネームがついたほど四角いイメージだったボルボも、随分とかっこよくなったものだ。安全面でも完璧を目指して業界をリードしており、スウェーデン人としてとてもうれしい。ただし、日本で売るには少し、車幅が広すぎるかな」というところか。こちらも納得である。

  • ボルボ「XC60」の「B5」
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