ボルボの4ドアセダン「S60」の新型が登場した。近年、SUVの人気が高まっているボルボだが、現行のラインアップでは同社唯一となるセダンの出来栄えはどうか。試乗してみると、進化した操縦安定性を改めて実感することができたが、気になる部分もあった。

  • ボルボの新型「S60」

    ボルボの新型「S60」

セダン好きは一見の価値あり!

ボルボはSUV「XC90」(日本市場への導入は2016年)から新たなプラットフォームを導入し、その後はラインアップを順次刷新している。今回の「S60」で一通りのモデルチェンジを終えることになる。

S60は現在、ボルボで唯一の4ドアセダンだ。そのほかのクルマは、ステーションワゴンかSUVとなる。S60のデザイナーはステーションワゴン「V60」も手掛けた人物だが、同氏はS60の外観を最も気に入っているそうだ。

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    ボルボのデザイナーも気に入っているという「S60」の外観

新しいボルボ各車は、奇をてらうことのない親しみのある造形が特徴だ。それでいて存在感があり、一目でボルボと気が付く姿をしている。その中で最も美しい姿が、S60ではないかと思う。もともと4ドアセダン好きな私であることもあり、その姿を最初に見た時に、思わずカッコイイという声が口から洩れた。

車体寸法は全型に比べ全長が12cmほど伸びているが、幅と高さはわずかではあるものの小さな値となっている。車幅については日本の駐車事情を考慮し、立体駐車場にも入れられるよう配慮したそうだ。車高が低くなったことによりスタイルはより精悍な印象になった。重心が下がったことにより、走行中の安定性も増したという。

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    ボディサイズは全長4,760mm、全幅1,850mm、全高1,435mm、ホイールベース2,870mm。画像は「T8 Polestar Engineered」というグレード

S60の室内は、すでにV60で見慣れた光景だ。ドイツ車には例の少ない明るい色使いの内装は、細部の見栄えや仕上げにこだわる北欧デザインの快さがあり、目に優しく、上品だ。 後席には十分なゆとりがあって、座り心地もよい。ただ、車高を低くしつつ頭上にゆとりを持たせたためか、座面と床との段差が少なめで、足をやや前へ出すように座らないと腿が座面に落ち着かず、乗っているうちに、体を横へずらしたくなってしまうところは残念だ。

前型に比べ4.5cm低くなった車高ではあるが、前型と同じ高さがあれば、座面をより高く設定することができたはずだ。そうであったならば、きちんとした姿勢で後席に座れて、安定した着座姿勢が得られたことだろう。

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    新型「S60」の前席

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    新型「S60」の後席

後席について細かく話したのは、4ドアセダンにとって後席の快適性が重要だからだ。セダンの王道であるメルセデス・ベンツは、たとえ「AMG」(走行性能を追求したハイパフォーマンスモデル)であっても、そういうところに抜かりがない。

新型「S60」に試乗!

ボルボ唯一のセダンはどんな走りのクルマなのか。ここからは試乗の印象をお届けしたい。

今回試乗したのは、「T5インスクリプション」(T5 INSCRIPTION)というグレード。ガソリンエンジン車としては最上級の仕様である。このクルマには、注文装備となるホイール径19インチのアルミホイールに、扁平率40%のタイヤが組み込まれていた。このタイヤ選択によっても、見た目の精悍さが増す。

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    「S60」には4つのグレードがある。価格はガソリンエンジンを搭載する「T4 Momentum」が489万円、同「T5 Inscription」(画像)が614万円、プラグインハイブリッド車(PHV)の「T6 Twin Engine AWD Inscription」が779万円、同「T8 Polestar Engineered」が919万円だ

そのタイヤ寸法のせいもあるかもしれないが、乗り心地はやや硬めだ。ガツンと衝撃が体に響くほどではないが、もう少ししなやかにサスペンションが上下し、路面変化をいなすような乗り心地が作り込めたら、さらに上質なクルマへと車格が上がるだろう。ただし、まだ新車の状態なので、距離を走りこめばサスペンションの動きが柔軟になり、乗り心地の印象は変わるかもしれない。

エンジンは排気量2.0Lの直列4気筒ガソリンターボで、低回転から十分な力を発揮する。それだけでなく、アクセルペダルを深く踏み込むと、いい音色とともに回転が高まり、壮快な加速を味わうことができた。走り出して硬めと感じた乗り心地も、そうした高速走行を楽しむ乗り方では丁度いいのかもしれない。

ハンドル操作の通り素直に曲がり、クルマが「手の内にある」という操作感覚だ。これまで、ステーションワゴンやSUVでも手ごたえのいい運転を楽しませてくれたボルボだが、セダンを運転することで、ここ数年の間に進化を遂げてきたボルボの操縦安定性が改めて実感できた。

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    新たなプラットフォームでのクルマ作りも一巡し、操縦安定性も相当な進化を遂げている

そうした仕立てのよさを実感するだけに、いくつか気になる点もあった。まず、ハンドルを切りこんでカーブを曲がっている時、そのハンドルを直線状態へと戻そうとする力を意識させられた。どのクルマでも、ハンドルを直進状態へと戻そうとする力は働くが、それが強すぎると違和感として記憶に残る。そうするうちにハンドル操作をするのが億劫になって、せっかく走りのいいクルマでも、運転を楽しめなくなる。

もう1つは、車幅感覚がつかみにくいことだ。ボルボは、フロントウィンドウを支える支柱(Aピラー)を造形的に手前へもってくることにより、ボンネットフードを長く見せ、よりスポーティーな造形とすることを近年の特徴としている。一方で、それによって車幅を意識する基準がややあいまいになり、例えば狭い道でクルマを寄せるとき、左側面の様子が確認しにくくなっているのである。これも、運転への集中を阻害し、運転の楽しみを感じにくくさせてしまう要素だ。

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    運転席からの見え方では、車幅感覚がややつかみにくかった

全体的には素直な操縦性で、素性のよい4ドアセダンという運転感覚がある。また外観や室内の造形、そして色使いなど、ドイツ車とは一線を画す独自性と、普遍的な中に美しさを備えた親しみやすさもある。荷室には十分な奥行きがあり、必ずしもステーションワゴンである必要性を感じさせないくらいだ。

競合はメルセデス・ベンツ「Cクラス」やBMW「3シリーズ」であろうか。メルセデス・ベンツは俊敏という意味の「アジリティ」、BMWは「駆け抜ける歓び」というブランドメッセージを掲げる。それらと比べるとS60は、やや選ぶ理由に弱さのある印象だ。ただ、S60にはプラグインハイブリッド車(PHV)も登場するので、電動化を主軸に訴求すれば、選択の理由の1つとして印象づけられるかもしれない。

S60がセダン好きの心を惹きつける1台であることは間違いない。今後、最も廉価な車種に乗る機会があれば、S60の本質的なよさにいっそう近づけるのではないかと思った。

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著者情報:御堀直嗣(ミホリ・ナオツグ)

1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。