ボルボのミッドサイズステーションワゴン「V60」に「ツインエンジン」なる新たなモデルが登場した。「エンジンが2つ」のクルマとは一体、どういうものなのか。1つで十分ではないのか。自動車ライターの大音安弘さんに試乗を依頼し、レポートしてもらった。

  • ボルボの「V60 ツインエンジン」

    ボルボ「V60」のツインエンジンに試乗!

ボルボ電動化の新たな方向性を示す1台

スウェーデンの自動車ブランドであるボルボは、2019年以降に発売する新型車を全て、電動化すると表明している。つまり、これから登場するボルボは、何らかのハイブリッド車か電気自動車(EV)となるわけだ。その戦略の次なる一手が、ミッドサイズステーションワゴン「V60」に新たに導入するプラグインハイブリッド(PHEV)車である。

最大の注目ポイントは、その価格。SUV「XC60」のPHEVである「T8 Twin Engine AWD Inscription」の924万円よりもずっと安い659万円からとすることで、より多くのユーザーを獲得しようとしている。本稿では、ボルボが「Twin Engine」(ツインエンジン)と呼ぶPHEVの特徴と2つの仕様の違いを紹介する。

2018年9月に発売となったV60に今回、「T6 Twin Engine AWD」と「T8 Twin Engine AWD」という2種類のPHEVが追加となった。現行型の主力となっている2.0L直列4気筒ターボエンジン車「T5」は前輪駆動車(FF)のみで、価格は499万円~599万円。一方、PHEVは全車4WDとなり、価格は659万円~829万円となる。

T5とT6 Twin Engineの価格差は160万円あるが、エコカー補助金と減税分の合計は45万5,000円にもなる。このため、実質的な価格は613.5万円からとなり、T5との価格差はぐっと縮まる。何より、他モデルでは900万円以上するPHEVが、600万円代から購入できるようになったことの意味は大きい。

  • ボルボの「V60 ツインエンジン」

    「V60 ツインエンジン」の登場により、ボルボのPHEVが600万円台から購入できるようになった

まずはPHEVのツインエンジンについて説明したい。ボルボのPHEVは、前輪はエンジン、後輪はモーターと前後の駆動をセパレートしているのが特徴。つまり、モーター走行時は後輪駆動車で、エンジン駆動時は前輪駆動車へと変化する。エンジンとモーターを同時に使用するハイブリッド時は4WDになる。前後それぞれに動力源を持つから、「Twin Engine」と名乗っているわけだ。

モーターに電気を供給する駆動用バッテリーは、運転席と助手席の間にあるセンターコンソール内部に搭載しているため、室内と荷室の広さは、ガソリン車と同じだ。ちなみに、前後の動力源をセパレートしたPHEVは、BMWやMINIにも存在する。

  • ボルボの「V60 ツインエンジン」

    センターコンソール内部に駆動用バッテリーを搭載する

2種類のPHEV「T6」と「T8」の違いは、ガソリンエンジンの性能が異なる程度。基本的な構成は同じだ。駆動モーター性能は最高出力87ps、最大トルク240Nmを発揮。駆動用リチウムイオンバッテリーは34Ahの容量を持ち、200Vの普通充電に対応する。0%から満充電に必要な時間は3時間ほどだという。

エンジンはどちらも、ガソリン仕様の2.0L直列4気筒ターボ+スーパーチャージャーを搭載したツインチャージャーエンジンとなる。これに8速ATを組み合わせる。エンジン性能はチューニングによる差があり、T6の場合は最高出力253ps/6,000rpm、最大トルク350Nm/1,700~5,000rpm、T8の場合は最高出力318ps/6,000rpm、最大トルク400Nm/2,200~5,400rpmとなる。燃費消費率は13.7km/L(WLTCモード)、EVモードの航続距離は48.2キロで両車共通だ。

ガソリン車と何が違うのか

実車での違いだが、外観については、PHEVとガソリン仕様のT5にほぼ違いはない。見分けるポイントは、PHEVの左側フロントフェンダーに備わる充電ソケット用のカバーくらいのものだ。インテリアも同様に違いは限定的。PHEVでは、センターコンソールが内部にバッテリーを収めるためのかさ増しにより高くなり、内部収納スペースはかなり小さくなっている。しかし、センターコンソールの収納を犠牲にすることで、室内空間への影響をほぼ解消している。もちろん、シフトレバーの左側にあるドリンクホルダースペースは、ガソリン車と同様のものが備わるので、不便を感じることはないだろう。

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    PHEVは左側フロントフェンダーに充電ソケット用のカバーが備わる

PHEVのシフトレバーは、ガソリン車の通常のものと異なり、スウェーデンを代表するガラスブランド「オレフェス」によるクリスタルガラス製シフトレバーが奢られる。PHEVとガソリンモデルの違いを高らかにうたいあげるのではなく、実際に触れて感じて欲しいということなのだろう。

  • ボルボの「V60 ツインエンジン」

    PHEVのシフトレバーはクリスタルガラス製だ

次に、メーターパネルの違いを見ていくと、フル液晶ディスプレイや表示グラフィックはほぼ同様だが、右側がエンジン車はタコメーター、PHEVはエンジンとモーターの使用状況やブレーキ回生を示すパワーメーターとなる。バッテリーの残量も同じエリアに表示する。

  • ボルボの「V60 ツインエンジン」

    メーターパネルは右側の表示に違いがある

操作は通常のガソリンエンジン車と同じ。イグニッションをオンとし、シフトレバーで「D」をセレクトすれば、発進可能になる。モーターとエンジンのバランスは、ドライブモードで決まる。最も万能なのは「ハイブリッド」 モード。発進時は電動となるが、その後はエンジンとモーターを効率よく使い、燃費の最大化を図る。

なるべく電気で走りたい場合は、「ピュア」モードを選択する。モーター走行が最優先となり、最高速度125㎞/hまでなら電気のみで走ることが可能だ。ただし、急加速などパワーが必要な場合は、エンジンが一時的に始動する。また、電気容量が少なくなると、ハイブリッドモードへと自動的に移行することもお伝えしておきたい。

  • 「V60 ツインエンジン」のドライブモード

    「V60 ツインエンジン」のドライブモード

雨天や郊外のドライブなど、4WDを活用したい場合には「AWD」モードを選択すればいい。さらにスポーティーな走りを楽しみたい場合は、「パワー」モードを選ぶことができる。これらのモードでは常にエンジンとモーターが稼働し、AWD走行を行う。PHEVのシステムをエコだけでなく、走行状況に応じて武器にもなるように設計しているのだ。また、帰宅が深夜になるため、自宅付近ではEVで走りたいと思ったときなどには、走行中に約80%まで充電を回復させる「チャージ」モードを使い、充電量を回復しておいて、必要な場所で「ピュア」モードへと切り替えればよい。

発進時は、4輪駆動となるモードを除けば基本的にモーターを使うので、極めて静かに滑るように走り出す。静粛性にも優れたしっかりとしたボディのおかげもあり、まるで大排気量の高級車のように感じさせる。新世代ボルボの中ではスポーティーなキャラクターのV60だが、PHEVではモーターが生み出す静かでスムーズな走りを活用し、ラグジュアリーカーのような乗り心地を実現しようとしている。

  • ボルボの「V60 ツインエンジン」

    モーター駆動の静粛性と力強さがラグジュアリーカーのような乗り心地をもたらす

Twin Engineの特徴である「ピュア」モードでは、日常的な短距離の移動は全て電気でこなすことができる。このモードを選択していると、強くアクセルを踏み込まない限りは高速域(時速125キロまで)も電動のままなので、ほぼEV感覚で使うこともできるのだ。

では、エンジンとモーターを効率よく使う「ハイブリッド」モードや「AWD」モードがうるさいかといえば、決してそんなことはない。キャビンに伝わるエンジン音は最小となるので、メーターを注視していない限り、エンジンが始動したことには気が付かないはずだ。

このようにボルボでは、PHEVを単なるエコカーとしてではなく、新世代ボルボ車のプレミアムなキャラクターをより高めるためのアイテムとしても活用している。そのため、PHEVは従来、各モデルの最上級グレードのみに設定していた。しかし、ボルボはエンジン車の完成度も高いだけに、より高価なPHEVの販売台数は限られてしまっている。ただ、今後のCO2削減においてはPHEVの普及も重要だ。

そんな事情から、ボルボはT6 Twin Engineにもエントリーグレード「T6 Twin Engine AWD Momentum」を新たに登場させたわけだ。PHEVとエンジン車の基本的な仕様は同様なだけに、ユーザー視点で考えれば、より少ない負担で1つ上の世界を体験できることになるのは朗報だろう。

  • ボルボの「V60 ツインエンジン」

    エコカーとしての性能が注目されがちなPHEVには、別の魅力もある

当面の間、PHEVのTwin Engineがエンジン車のワンクラス上の存在であり続けることは確かだが、将来的に、その価格差は縮まる可能性がある。それは、電動化戦略により、近い将来、PHEVの台数が増えていくことが確実だからだ。普及すれば当然、量販効果が生まれるので、ボルボとしてはPHEVの価格を抑えることができる。

先にも述べたが、ボルボは、今後発売する新型車を全て電動化すると宣言している。これにはPHEVのTwin Engineに加え、将来的にはフルEVも加わるだろう。ただ当面は、エンジンにモーターアシストを加えたマイルドハイブリッドが主流となる。電動化をプレミアム化の文脈でも活用するボルボが今後、マイルドハイブリッドという普及型電動車をどのように発信していくのかにも注目したい。