NHK連続テレビ小説『エール』(総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)で、作曲家・木枯正人役を務めるRADWIMPS・野田洋次郎の好演が話題を呼んでいる。野田が演じる木枯は、窪田正孝演じる主人公・古山裕一と同時期にコロンブスレコードに入社した作曲家。古山の恩師役を務める森山直太朗に続き、アーティストである野田の演技にも熱い視線が寄せられている。

  • 木枯正人役の野田洋次郎

『エール』の主人公・古山裕一は、全国高等学校野球大会の歌「栄冠は君に輝く」や阪神タイガースの歌「六甲おろし」などで知られる福島県出身の作曲家・古関裕而(こせき・ゆうじ)氏がモデル。二階堂ふみが演じる妻・音のモデルは、歌手の古関金子(きんこ)氏で、2人が夫婦二人三脚で波乱万丈の音楽人生を生きていく。

野田は、RADWIMPSのボーカル&ギター担当で、自身が作詞・作曲を手掛ける正真正銘の“本物”だけに、ギターの弾き語りが得意な作曲家役は、うってつけの役どころだ。木枯と裕一は、作曲家としてコロンブスレコードと専属契約を結ぶが、泣かず飛ばずの状態に。ディレクターの廿日市誉(古田新太)から、裕一は21曲連続で、木枯は19曲連続でそれぞれダメ出しを食らうが、先に手掛けた曲のレコード化が決まったのは、木枯のほうだった。

野田の俳優デビュー作は、映画初出演にして初主演作『トイレのピエタ』(15)だったが、本作でも実にフラットで自然体の演技を披露していた。メガホンをとったのはドキュメンタリー映画『ピュ~ぴる』(09)で、鮮烈な監督デビューを果たした松永大司監督で、生々しくもリアルな演出に定評がある。

映画のメイキングや、ドキュメンタリーを数多く手掛けてきただけに、松永監督は、たとえ劇映画であっても、常に嘘のない演出をすることをポリシーにしているが、そこも当時、演技初挑戦だった野田にとって、功を奏したポイントとなった。

野田は、『トイレのピエタ』の舞台挨拶時に「この映画をやることが決まり、撮影まで1年ほどあったので、合間合間で演技のレッスンをそろそろやった方がいいんじゃないでしょうか? と進言していたんです。でも、そんなことをする必要はないよと、ことごとく丁寧に断られて」と言っていたが、そのかいあって、野田は役に対してとても素直に向き合えたそうだ。

野田にとって、俳優としての名刺代わりとなった『トイレのピエタ』は、高い評価を受け、松永監督にも第20回新藤兼人賞をはじめ、数多くの監督賞をもたらした。続いて野田は『100万円の女たち』(17)で連ドラ初主演も果たし、以降、映画やドラマなどで、その個性を光らせてきた。ここへ来て『エール』で朝ドラ初出演を果たしたことで、俳優・野田洋次郎としても、お茶の間での市民権を得たわけだ。

『エール』は音楽をモチーフにしたドラマということで、野田は「かつて日本の音楽の礎を築いた方々の人生を、少しながら追体験させてもらえる機会をいただき、嬉しく思います」と気合十分に臨んだ様子。

木枯がギターを片手に歌うシーンは、まさに腕の見せどころではあり、SNSでも話題を呼んでいるが、どこか飄々としているマイペースなキャラクターが野田とすごくマッチしている。また、喜怒哀楽がわかりやすい“人間紙芝居”タイプの裕一や音の熱量が高い分、テンション抑えめの木枯とのバランスがとてもいい気がする。

また、人間的には、わかりやすく良くできた人ではない木枯だが、音の内助の功について裕一に「できた嫁さん」と素直に称えられる点は好感度大だ。また、裕一とは違い、実家は貧しかったようで、「音楽といったら、母ちゃんが歌ってくれた民謡くらい。貧乏だったしな」という台詞からも、意外と苦労人だというバックグラウンドもうかがえた。

そんな木枯が、裕一をカフェーに連れていき、店のママにリクエストされた曲を弾き語るシーンには惚れ惚れしたが、どうやら裕一の心をも大いに揺さぶった様子。きっと今後も、裕一を援護射撃していきつつ、お互いに切磋琢磨し合いながら、人気作曲家としてのスター街道を駆け上がっていくのではないか。アーティストとしては、すでに“結果を出す男”という印象の野田だが、役者としての伸びしろもハンパない。森山直太朗と共に、今後の演技についても大いに期待がかかる。

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