最近、客から従業員への恫喝や理不尽なクレーム、過剰な要求などが「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と言われ、社会問題となっている。メディアで報道される機会も多く、被害に遭っている従業員は相当数に上ると思われる。では、実際にどのようなことがカスタマーハラスメントに該当するのだろうか。カスハラとクレームの違い、カスハラへの適切な対処法について、マナー講師・コンサルタントの中川裕美子さんにうかがった。

カスタマーハラスメントとは

中川さんによると、カスタマーハラスメントとは一般的に、「お客様からの嫌がらせ」を意味するという。

「カスタマー(Customer)は、消費者、お客様、取引先等を意味し、ハラスメント(Harassment)とは、いじめ、嫌がらせを意味します。カスタマーハラスメントを省略して、『カスハラ』と呼びます」

カスタマーハラスメントの例

具体的には、業界により詳細は異なるが、以下のようなことを意味することが多いそうだ。いずれか一つでも該当すれば、「カスタマーハラスメント」とされることが一般的に広がりつつあるという。

1.商品やサービスの値引きや無償化を理不尽に請求されること。また、それに応じないときの仕返し(ネットでの噂話、悪評の拡散、取引の大幅減少や中断等)で脅されたり、実際に仕返しを受けたりすること。

2.お客様から、商品や提供サービス以外の要求を受け、それを断った場合に受ける仕返し(ネットでの噂話、悪評の拡散、取引の大幅減少や中断等)で脅されたり、実際に仕返しを受けたりすること。セクシャルハラスメント(性的嫌がらせ)や、アルコールハラスメント(飲酒の強要や飲酒の席での嫌がらせ、いじめ)につながる場合ケースも。

3.お客様から、提供する商品やサービスに無関係のことで名誉を傷つけられたり、誹謗中傷を受けたりすること。また受け続けること(担当者の私生活に関することへの誹謗中傷、担当者の家族に対する悪い噂やデマを流されること等)。

4.お客様から、何かしらについて理不尽な言いがかりや揚げ足取りのような、悪質な接し方を受ける、または受け続けていること。

5.商品やサービスへの責任ある応対を続けているにもかかわらず、一切を受け付けてもらえず、お客様から一方的に法的に訴えられたり、悪評を流されたりすること。

カスタマーハラスメントとクレームの違い

カスタマーハラスメントとクレームは次のように分けることができる。

・カスタマーハラスメント=いじめ、嫌がらせ
・クレーム=要求、希望、期待

「クレームは、双方が問題解決へと向かうことができる関係を成立させます。クレーム応対は、今後への改善へと協力、または折り合いをつけるために、良心的な関係が基本となってなされていく、ビジネスコミュニケーションのひとつです。ビジネスには必須といえましょう。

なお、クレームというと、『苦情』や『文句』も含めることがほとんどですが、心配は不要です。その苦情や文句は、最終的には商品やサービスの改善を求めるために発信されたメッセージであり、双方に必要な情報のため大切だからです。素直な反省と改善努力のヒントとも、いうことができます」

一方、カスタマーハラスメントは、双方で協力し合う関係や良心的な関係は成り立っていない、悪質ないじめや嫌がらせを指す。

「ハラスメントを起こす加害者にねらいがあるとすれば、『困らせる』といったところでしょうか。無意識レベルで個人的にため込んだ、全く関係のないところから生じているストレスを、お客様という立場を利用して、いじめ、嫌がらせ(ハラスメント)で解消していることもあります。ハラスメント言動の背景や理由を尋ねると、『特に目的はない、ただ気に入らなかった』『酔っ払っていた』等の言い訳が聞こえてくる場合もあります」