トヨタ自動車が2020年冬の発売を予定する超小型電気自動車(EV)について詳細が分かってきた。1回の充電で約100キロを走行可能な2人乗りEVで、トヨタとしては高齢者や免許を取り立ての若者、企業などに対し、近距離の移動に使える超小型モビリティとして提案していきたいようだ。

  • トヨタの超小型EV

    トヨタはこのほど、超小型EVに関する説明会を開催。2020年冬に発売するクルマと構想段階のビジネス向けコンセプトモデルを報道向けに展示した。実車は「第46回 東京モーターショー2019」(一般公開:10月25日~11月4日)で見られる

トヨタが考えたのは、近所で乗るための小さなEV

トヨタが超小型EVの市販に向けた準備を進めていることは既報の通りだが、東京モーターショーでの実車展示を前に車両の情報がアップデートされた。

まずボディサイズは、全長2,490mm、全幅1,290mm、全高1,550mmと軽自動車よりもかなり小さい。充電口は普通充電のみに対応したもので、充電時間は200Vで約5時間とのこと。最高速度は時速60キロで、1充電あたり約100キロを走行可能だ。

  • トヨタの超小型EV

    車幅は大人2人が並んで座れるサイズとなっている

開発責任者を務めたトヨタの谷中壮弘さんによれば、超小型EVは短い全長と小さな回転半径(最小3.9m)により、標準的な軽自動車よりも取り回しがしやすいところが特徴だという。高齢車でも乗り降りしやすいようヒップポイントを高くし、ドアの開口部にも余裕を持たせたそうだ。

  • トヨタの超小型EV

    乗り降りしやすい作りにもこだわったとのこと

リチウムイオン電池は床下に搭載。モーターはリアに置き、走る時にはリアタイヤを駆動する。タイヤは軽自動車の普及サイズを採用し、スタッドレスタイヤの調達を容易にしたとのことだ。室内は広くないが、使いやすく、狭さを感じさせないよう設備を配置した。温度調節にはクーラーとシートヒーターを設定。乗員の体の近くを効率よく冷やし(あるいは温め)、電力消費を抑えられるよう工夫したという。

安全性能については、軽自動車の基準の一部を緩和したものとする案が国土交通省内で出ているそうで、トヨタの超小型EVは同案を満たす内容になっている。このクルマが軽自動車として登録するクルマになるのか、それとは別の規格になるのかは最終決定していないそうだが、おそらく、発売までには新たな規格が整備されているはずだ。

  • トヨタの超小型EV

    超小型EVは軽自動車よりも小さなクルマとして、新たな規格に分類される見通しのようだ

さて、この超小型EVだが、トヨタはどこに商機を見出したのか。谷中さんにターゲットカスタマーについて聞いてみると、以下のような答えだった。

「まずは、個人であれば免許を取り立ての若い方ですとか、高齢の方を想定しています。高速道路を長距離は乗らないから、もっと取り回しのいいクルマが欲しいという声にお答えしたいと思います。そういう方が、日常の運転に困らないようなクルマとしました。あとは業務用途。これからは企業でも、環境車の比率を増やさなければならないという前提の中、今、EVを選ぶとなると、どうしても値段が高めになってしまいます。そこで、短距離の用途に特化すれば、もう少しライトなやり方があるのではと考えました」

  • トヨタの超小型EV

    確かに、近所を回るだけならこのクルマでも十分だろう

トヨタでは、EVを普及させるにあたり、新たなビジネスモデルの構築を模索している。具体的には、これまでのようにクルマを開発・製造し、販売店に卸してユーザーに届けるという商流にこだわらず、リースの割合を増やしたり、電池のリユースを促進したりする一連の流れでEVの普及を進めたいという。谷中さんの考えはこうだ。

「具体的には検討中ですが、従来よりは、リースの比率が増えていくのではないかと思っています。個人のお客さまに対して、販売とリースのどちらがベターかというのは、我々がいうべきことではないのですが、(クルマを)利用した後の電池の管理などを考えると、売り切ってしまう手法ではない方が、お客さまにも、メリットが出るかもしれません。トヨタは『キント』(愛車サブスクリプションサービス)というサービスも始めていますし、そういった中から、使いやすい形を提案していければと思います」

  • トヨタの超小型EV

    EVを普及させる上では「電池を使い切る」という視点を大切にしたいと谷中さんは話していた

超小型EVには「ビジネス向けコンセプトモデル」というタイプもある。まだ発売は正式決定していないが、乗車定員が1名となっているだけで、ボディサイズなどの諸元は市販が決まっている超小型EVと全く同じだ。

  • トヨタの超小型EVビジネス向けコンセプトモデル

    超小型EVの「ビジネス向けコンセプトモデル」

こちらのビジネス向けコンセプトモデルは、「走行モード」「オフィスモード」「休息モード」といった感じで車内のレイアウトを変更できる。展示車両で確認したところ、オフィスモードでは乗員の胸の前あたりに作業用の机とPCが出現。休息モードでは寝転がった姿勢が取れるよう、シートの背もたれが後ろに倒れた。フロントウィンドウにスクリーンを下ろして、クルマをミニシアターのようにできることも分かった。

  • トヨタの超小型EVビジネス向けコンセプトモデル

    どう操作するのかは分からないが、取っ手が2つ付いたモノがクルマを運転するための設備だ。走行モード以外の時は格納しておける

  • トヨタの超小型EVビジネス向けコンセプトモデル

    オフィスモードでは備え付けのPCと作業台のようなものが登場

  • トヨタの超小型EVビジネス向けコンセプトモデル

    休息モードではシートが倒れる。フロントウィンドウには映像を映し出せるスクリーン(上に取っ手があって、引っ張って広げる)を展開可能。サイドウィンドウはボタン1つで乳白色のすりガラスにできるので、プライバシーも守れる

このモードチェンジ、何かが飛び出してきたり引っ込んだりする時の動きがいちいちカッコよくて好感が持てたのだが、こういったギミックはコンセプトモデルだからこそ可能なもののような気もする。市販が決まったら、これらのアイデアがどれだけ残っているかを是非ともチェックしてみたい。