
2026年7月29日、メルセデス・ベンツ新型CLAの発表会が東京・南青山のMercedes-Benz STUDIO TOKYOで開催され、翌30日にはドイツ本社開発担当者による新型CLAの技術説明会が開かれた。テーマは安全性能、ドライブトレーン、そしてMB.OS。その内容を追うと、単なるフルモデルチェンジではなく、メルセデス・ベンツが車の作り方を切り替える最初の一台であることが見えてきた。
【画像】メルセデス・ベンツ新型CLAの発表と、ドイツ本国開発担当者による技術説明会の様子(写真9点)
電動化を主軸に、内燃機関も受け止めるMMA
新型CLAは4ドアクーペとシューティングブレークを用意し、新世代プラットフォーム「MMA」を初採用する。MMAはBEVを主軸に設計しながら、1.5リッターエンジンと48Vシステムを組み合わせたハイブリッドにも対応する柔軟な設計だ。日本ではハイブリッド車を598万円から、BEVを668万円から設定。CLA 250+ with EQ Technologyは85.5kWhのバッテリーと後輪駆動の電動ユニットを搭載し、一充電走行距離771kmを実現する。第4世代MBUXと自社開発のMB.OSは、動力源を問わず新型CLAの共通項となる。
同社のゲルティンガー剛社長兼CEOが「次世代メルセデスの出発点」と断言した理由もここにある。日本で累計6万台以上を販売したCLAは、ブランドへの入口を担う戦略車だ。そこへ電動化、ソフトウェア、セーフティ(安全)という今後の共通基盤を一挙に載せ、Sクラス級の”頭脳”をコンパクトセグメントから以後の車種へ広げる。これは開発資産を全車級で共有するという宣言である。
ハイブリッドを先行投入し、間を置かずBEVも揃えた商品構成も現実的だ。充電環境や利用形態が一様ではない日本で、同じデジタル体験から動力源を選ばせる。電動化への後退ではなく、顧客を次世代へ段階的に移す戦略と見るべきだろう。
MBUXの刷新ではなく、車全体のOS
説明会の核心は、ドイツ本社から来日したミヒャエル・ヴォルヴェーバー氏が解説したMB.OSにあった。これはセンターディスプレイ用の新しい情報端末ではない。インフォテインメント、運転支援、ボディ&コンフォート、走行&充電の4領域を束ね、チップからクラウドまでを管理するソフトウェア定義車両の基盤である。
ハードとソフトを切り分け、車両はOTAで機能を更新し続けられる。メルセデスが握ろうとしているのは、すべての内製ではなく車全体の設計権だ。NVIDIA、Google、Microsoft、OpenAIなどの技術を採り入れつつ、最終体験は自社のUIと安全思想で統合する。この主従関係こそMB.OSの本質である。
第4世代MBUXのバーチャルアシスタントも、その思想を分かりやすく示す。ユーザーの前に現れるアシスタントは一つだが、裏側ではナビゲーション、一般知識、車両情報などに適した複数のAIを振り分ける。質問の意図を解釈する中間層が”適任者”を選ぶため、利用者はサービス名を意識せず、会話を続けられる。
ナビではGoogle Mapsの地図・交通情報へ独自の表示と車両データを重ねる。バッテリー残量、地形、気温、充電器を考慮するElectric Intelligenceや、周囲の車両、歩行者、進行方向を3D表示するMBUXサラウンドナビゲーションは、案内と運転支援を一つの情報へ近づけたものだ。
筆者がApple CarPlayとの関係を尋ねると、ヴォルヴェーバー氏は「顧客に選択肢を提供することは義務」と答えた。純正Google Mapsの利用は増えているというが、CarPlayを排除して囲い込むのではない。優れた外部技術を自然に組み込み、それでも”メルセデスを使っている”と感じさせる姿勢は評価できる。
一方、OTAの具体的な計画は技術進歩が速く固定できないとしつつ、全ドメインを更新できる能力は備えるとした。今後は提供期間や費用、旧型車への支援が車両価値を左右する。長期運用への責任まで含めて「デジタル・ラグジュアリー」は評価されるべきである。
デジタルの下にある、妥協なき安全と効率
MB.OSが主役でも、価値は画面の中だけではない。セーフティ領域を担当するクリスチャン・グリュックラー氏が示した安全設計は、世界各地の事故調査を構造へ反映し、約150回の実車衝突試験を重ねたものだ。11個のエアバッグ、バッテリー前方の衝撃吸収構造、事故時の高電圧遮断、全電源を失っても開けられるドアの機械式経路、救助情報へつながるQRコードまで備える。衝突後の救助までを安全の範囲に含めている。
またパワートレーン領域を担当するアレクサンダー・アスパッハー氏が解説した電動ドライブも同様に実質を重んじる。800Vアーキテクチャ、永久磁石同期モーターと2速トランスミッション、電力機能を集約した高電圧制御コンポーネンツである「HV OneBox」、回生と摩擦ブレーキを統合する制御、そしてCd値0.21の空力。個々の数字を競うのではなく、高速域でも効率を落とさず、長距離移動の不安を減らすための総合設計である。
ソフトウェアが車を進化させても、乗員を守るのは緻密な車体であり、遠くまで走らせるのは物理を詰めた高効率技術だ。MB.OSはその二つを結び、購入後も価値を育てる。新型CLAが「次世代メルセデスの出発点」と呼ばれる理由は、星の伝統を捨ててデジタルへ向かったからではない。安全、走り、知能という従来の価値を、新しい設計思想で束ね直した最初の量産車だからである。
文:高山正寛 写真:メルセデス・ベンツ日本
Words: Seikan TAKAYAMA Photography: Mercedes-Benz Japan