10月14日の体育の日に、東京・北区の国立スポーツ科学センターをはじめ、味の素フィールド西が丘など周辺のスポーツ施設で開催された「スポーツ祭り2019」において、味の素が主催する「『勝ち飯』教室&試食会イベント」が行われた。

イベント会場となった、東京・北区西が丘にある「味の素ナショナルトレーニングセンター」は、トップアスリートの国際競技力を向上させることを目指し、スポーツとカラダの3原則である「トレーニング」、「栄養」、「休養」に基づいて設立された、国が運営するアスリート専用トレーニング施設だ。

  • 味の素ナショナルトレーニングセンター

親子で学ぶスポーツで勝つカラダ作りの秘訣

"勝ち飯"とは、味の素が2003年から実施している、日本代表選手、および候補選手を対象とした、国際競技力向上とメダル獲得数増のためのコンディショニングサポート活動「ビクトリープロジェクト」の一環。

"食とアミノ酸"を基軸にした、選手の栄養環境を改善するためのサポートプログラムで、アスリートのみならず、"何かに頑張る人"を対象に、活力につながる食事を啓蒙する活動を一般にも広げている。

第一部では、2008年北京オリンピックの競泳日本代表で、現在は管理栄養士として活躍している柴田隆一さんが講師役を務め、招待されたスポーツを頑張る30組60人の親子を前に、スポーツで勝つカラダ作りの秘訣や、スポーツジュニアに必要な「食事」と「補食」の方法をクイズ形式で解説した。

  • 元オリンピックの競泳日本代表で、現在は管理栄養士などとしても活動する柴田隆一さん

スポーツをはじめ、目標を達成するために大切なのは「栄養・休養・練習のバランス」と柴田さん。これらのいずれかの比重が過度に重くても成果を出しにくく、中でも「そもそも土台がしっかりしていなければならない」と栄養面の強化を説いた。

その上で、重要なのは「何のために食べるのかを意識すること」だという。

食事の基本形は、"5大栄養素"と呼ばれる、糖質、脂質、たんぱく質、ミネラル、ビタミンをバランスよく摂取することだが、「栄養の働きは、身体を"動かす"、"作る"、"整える"の3つしかない。食育の観点からも主食、主菜、副菜、汁物、乳製品を揃えるように言われるが、5大栄養素の場合も、目的はこの3つに集約されます」と話し、5大栄養素を食事の基本形として3食通じてバランスよく取ることの大切さを強調した。

ちなみに、主食とは、ごはん、ぱん、めんなどの炭水化物。これらは身体を動かすエネルギー源となる。主菜は、肉や魚、卵、大豆製品などを使ったおかずで、これらに含まれるタンパク質が筋肉、骨など身体づくりの基本材料となるもの。

副菜は、主にビタミン、食物繊維、ミネラルを多く含む野菜やいも、きのこ、海藻類を使ったおかずで、身体の調子を整える作用を持つ。加えて、牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品は、骨や歯のもとになるカルシウム、タンパク質を摂取するためのもの。

できれば、これらに果物をプラスすることで、身体の調子を整えるのに必要なビタミン、炭水化物、ミネラルをさらに補うことができる。毎回の食事で取れない場合には「デザートや補食として季節の果物を取り入れるのがおススメ」と言う。

おやつとおかしの違い

そして食事の際にもう1つ重要な働きをするのが"汁物"だ。というのも、「汁物には、唾液を持続的に出させ、食べ物の咀嚼・嚥下を円滑化して食物を安全に食べる、胃液、消化酵素、胃酸を分泌して消化を促進する、粘液を分泌して胃腸粘膜を守るという3つの働きがある」からだ。

さらに「だしに含まれる、グルタミン酸には、食欲のスイッチを入れる効果がある。旨味成分として知られるグルタミン酸は食欲の増進に加えて、消化にも役立ち、胃腸を守る効果があります。まず汁物を食べてから食事をはじめると胃が消化を始める準備ができるようになるのです。献立の内容に合わせて、野菜や肉、豆類、海藻類をプラスし、目的に応じて具を工夫しましょう」とアドバイスした。

一方、"補食"に関しては、「目的に応じて、必要な栄養を必要なタイミングで取るもの」と柴田さん。

「補食="おやつ"。"おかし"は補食ではなく、特別な日やオフシーズンなどに自分へのご褒美として食べるもの。食べてはいけないわけではありませんが、何も考えずに毎日バクバクはNG。"心の栄養"として取り入れてください」と続けた。

ちなみに、おススメの補食として紹介されたのは"パワーボール"だ。ごはんに「ほんだし」を小さじ山盛り1ほど混ぜて握った、小分けのおにぎりだが、コンビニのおにぎりがおよそ100グラムであるのに対して、その半分ほどの50グラム程度が分量の目安。

「バクバクと食べるのではなくて、運動前に小腹を満たす程度というのがポイント」とのこと。

柴田さんによると、「空腹で練習をしないこと。練習後もすばやく栄養補給が必要。運動により筋肉中のタンパク質が失われてしまいます。それを補うための唯一の栄養素がアミノ酸。補食は練習前、中、練習後でアミノ酸を積極的に摂取してほしい。食事で難しい場合はアミノ酸サプリメントを利用するのも1つ。市販されている製品のパッケージなどを見ながら目的に応じて上手に取り入れて」と語った。

東京2020の競泳男子代表・瀬戸大也選手の食事内容

第二部には、元飛込日本代表選手の瀬戸優佳さんがゲストとして登壇。東京オリンピックの競泳男子で日本代表に決定した、瀬戸大也選手の夫人としても知られる優佳さんだが、瀬戸選手が実践している"勝ち飯"を紹介した。

  • 元飛込日本代表選手の瀬戸優佳さんは、東京オリンピックの競泳男子代表・瀬戸大也選手夫人で1児のママでもある

優佳さんによると、競泳選手である瀬戸選手が必要とする1日のエネルギー摂取量は4,000kcal。25歳の成人男性の平均が2,700kcalとされているので、そのおよそ1.5倍のエネルギーが必要だ。

とはいえ、それだけの量をすべて食事で補おうとするのはアスリートとはいえ限界がある。「朝からどんぶり(飯)は食べられない」という瀬戸選手に対して、味の素と共同で、食べられる量や作れるものを意識して1週間分の献立の開発が行われたそうだ。

「勝ち飯は、体質にあったものや、競技、性別、年齢、それぞれに応じたものであることも大切。例えば、我が家では(瀬戸選手の)ウェイトトレーニングの日はタンパク質多めにするなど、その日の練習メニューに応じて変えています。エネルギーの摂取量と消費量のバランスを考えて体重の維持に気を付けていますね。そのためにも体重を毎日量ってください」とアドバイスした。

講義終了後は、味の素ナショナルトレーニングセンター内でトップアスリートがふだん食事をしている「SAKURA Dining」に移動して、瀬戸大也選手オリジナルの「勝ち飯献立」のメニューの一例を参加者が試食。柴田さんと瀬戸さんを囲み、歓談しながら食事を楽しんだ。

  • 柴田さん、瀬戸さんを囲んで行われた"勝ち飯"試食会

提供された、瀬戸大也選手の勝ち飯メニューは、ガリバタ鶏、山盛りキャベツの絶品豚汁、にんじんしりしり、ごはん、ヨーグルト、グレープフルーツの6品。小学校の高学年向けに設定された分量で、実際に瀬戸選手が食べる量の6割ほど。瀬戸選手はこれを昼食用として食べているとのこと。

  • 瀬戸大也選手の勝ち飯メニュー